中指をたてる

指を怪我した。具体的に言うと右手指の第一関節から1.5㎝切断、縫合する手術を行った。
楽器を弾くのにこんなにいい指はないと褒めてもらってから、私は私の指がすごく好きだった。女にしては大きくて長い。細くて白くて苦労したことのない形をしている。関節は大きすぎず、爪もそこそこ整っている。
事故の状況をはっきり覚えている。言葉で伝えるときは笑いながら話す。必要以上に大丈夫なことを強調して、ジョークにして笑ってもらえるようにする。私は私が大丈夫であってほしいと思っている。
痛覚がほとんどない。痺れがとれない。ボールペンが正しく握れなくなった。キーボードは無意識に怪我した指を避ける。人間はたかだか先端の1.5㎝がなくなっただけでかかずらい思い悩む。
手は女の命だから、と会う人会う人に言われた。その意味を分かって言っているのか。だから、何だ。ずっと憤っていた。命を失っていない。つまり命ではなかったということだ。女の命はそんなところにない。出血多量で死んだり、ましてやショック死なんてしなかった。形を損なっても生きている。
寛解できていない。写真を撮る時に指先を覆ってしまう。初対面の人の前でテーブルの下に手をおろしてしまう。それをそういうものと受け入れているし、それでも生きていけると思うだけ。隠してもいいし見せてもいい。命ではない私の一部。
ゆっくりと曲がって伸び切らない。縫合の跡が縮れている。爪をきれいに生やせない。この指をもう一度美しいと思うことができるだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?