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好きな人が結婚しました

彼と彼女がお付き合いをされているのはずっと知っていました。広い広い会場で彼女が美しい指輪をしているのを、左手の薬指につけているのを、すぐに見つけました。誰のどんなアクセサリーよりも輝いていたのですから、私が特別目ざとい訳ではありません。報告を受けることを想定し、お腹にちからを入れました。

私は彼が大好きでした。尊敬できて、常にユーモアと気遣いに満ち溢れた人です。兄のように慕っていました。彼と彼女は円でした。まるく繋がっていて、お互いに補完しあっているところが円のようでした。彼女のことを話す時、彼は少し目を伏せました。ふたりが共有する秘密を見せないための仕草に違いありません。それがとても色っぽくて、私は溜息をつきました。円の中を垣間見る度、溜息をつかなければ笑えなくなってしまいそうでした。いつもふたりは私に対して、美しい円の外周しか見せませんでした。

案の定3時間後、私の目の前で彼女は蕩けそうな顔をし、左手を顔の横に添えました。婚姻届は冬なのと言いました。驚くべきことに、私は幸せを感じました。幸せの本質というのは全てを幸せに塗り替えていくところにあるのかもしれません。彼と同じくらい、彼女が好きだったこともあります。私はふたりの円を羨ましく思います。

次に会うとき、その円が美しいまま保たれていることを心から願っています。

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