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10年後の自分からの手紙


僕のパソコンには、大量の書類がある。そのほとんどはネタ台本で、他には番組オーディションの書類審査の回答用紙、エピソードトークの台本、取り留めもないアイデアのメモなど。

日々追われる新ネタ作りに行き詰まった時に、昔作った漫才台本をこの大量の書類フォルダから掘り起こしては、あの頃の自分のアイデアに今の自分の脳みそをブレンドして焼き増しすることもしばしばある。

また今日も、新ネタ作りに追われ、新しいアイデアの枯れ果てた空っぽの僕は、逃げ込むように過去の自分にすがりつく。すると、そのフォルダの奥に見慣れないタイトルの書類を見つけた。

「10年後の自分からの手紙」

作成日の欄には、2018年の表記。もうすでに嫌な予感がした。

芸歴2年目。この頃の僕は、「絶対人生変えてやる」マインドで、自己啓発よろしく、さまざまな書籍を読み漁っていた頃だ。もちろんお金はないので近所の図書館へ足しげく通っていた。きっとその中の一冊に影響を受けて綴ったものと予想できた。僕は思う。

痛い。痛すぎる。

しかも2024年の僕は、この内容をまったく覚えていない。

怖い。怖すぎる。

6年前の僕は、いったいどんなことを書いたのか。なにを思っていたのか。人前に出る仕事をしているクセに自分の心の中を晒すことには極度の抵抗を示す僕が、「記録に残るイコール誰かに見られること」なんて自意識過剰もいいところな理由で日記すら書けない僕が。その書類の[開く]ボタンへカーソルを動かし、中身を見る前に腹を決めた。


、、、晒す。


あの頃の自分は、未来の自分に晒されることなど知る由もない。だが、僕はnoteを始めた。秘密基地を持った。それにより少しばかりの自信を付けた。なによりも、過去の自分と対峙する気恥ずかしさよりも、痛い人間のおそらく痛い文章への興味と怖いもの見たさが上回ったのだ。

そして僕は、その書類を恐る恐るクリックした。


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