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43歳男が、卒倒するほど叫んだある試合の記録。

おはようございます。 スポーツデジタルマーケティング部の猪野です。
今日は、私たちメンバーやインターンにいつも的確なアドバイスをくださる編集アドバイザーの澤山モッツァレラさんにnoteを書いていただきました。

まるで澤山さんが目の前で熱く語ってくださっているように感じるほど、力強い想いが込められた記事。私もこのような熱い記事が書けるようになりたいと、強く強く感じました。

サンフレッチェ広島のファンの方はもちろん、たくさんの方に届いてほしいnoteです。では、早速ご覧ください!

本企画はnoteエッセイコンテスト「#スポーツのチカラを感じた瞬間」を紹介するために実施されました。
noteエッセイコンテストに関しては、こちらのnoteをご確認ください。

澤山さんが「スポーツのチカラを感じた瞬間」とは

その瞬間。肉食獣のような、言葉になる前の、野蛮そのものの叫びが聞こえた。
 
1秒もたたないうちに、目の前がゆがんだ。どうやらその声は自分のものであり、あまりに強く頭を振ったせいで一瞬脳が揺れたらしい。どうにか座席に身体をおさめ、誰とも接触せずにすんだ。
 
2022年10月16日の天皇杯決勝、ヴァンフォーレ甲府対サンフレッチェ広島の84分。広島のMF川村拓夢が同点ゴールを決めた瞬間、僕(43歳・既婚男性)の身に起こった個人的な出来事だ。
 
それまで快進撃を続けてきたサンフレッチェ広島は、J2のヴァンフォーレ甲府相手に前半早々に失点。その後も、ほとんどチャンスを作れずにいた。

確かに、甲府のパフォーマンスは素晴らしかった。だが、それにしても前半の広島はまるで別のチームのよう。久しぶりのカップ戦決勝、かつ「相手は格下、勝って当たり前」という空気に飲まれてしまったのか、真価をほとんど発揮できずにいた。
 
後半やや持ち直したとはいえ、甲府の守備陣は集中を切らさない。広島に残された時間は、刻々と減っていく。鬱屈とした空気が広島サポーターを包む、そんな中で決まったのが川村拓夢のゴールだった。

左サイドでボールを持ったエゼキエウから、巧みな縦パスを受けた川村。ペナルティエリアに侵入したとはいえ、目の前には甲府の選手が少なくとも4名。ファーポストでピエロス・ソティリウがボールを要求していたが、彼に到達するまでには多くの選手の頭上を越す必要があった。
 
つまり、決定機とは言えないシーン。得点につなげることは不可能ではない。が、何らかのアクシデントか、スーパープレイなしには生まれないというシーンだ。
 
ここで生まれたのは、後者だった。左足に絶対の自信を持つ川村は、ほとんどシュートコースがない状況でも迷わず振り抜く。ボールは、この日素晴らしいセーブを連発していたGK河田晃兵の頭上を強襲、ゴールネットの天井を突き刺した。
 
「ぅぅぅぅぅあああああああああ」
 
文字にすると、こんな感じだろうか。こんな叫びを発したのは、いったい何年ぶりだろうか。訳も分からず、感情をむき出しにしたのは何年ぶりだろうか。
 
COVID-19は、われわれの人生を確実に変えた。リモートワークがメインとなり、人と直接「会って話すこと」のハードルは大きく上がった。zoomなどのツールが普及し、幸いなことに仕事に関してそれほどのデメリットはなかった。リモートワークが定着したことで、様々なメリットを享受できた部分はある。
 
それでも。この2年ほど、生きている実感は乏しかった。
 
それは、エモーションを解放する機会がなかったからかもしれない。思い出せないほど久しぶりに、心の底から、叫んだ。
 
川村拓夢のゴールは、自分が「生物であること」、単に生きているのではなく「野生を持つこと」を強く認識させてくれた。こんな瞬間をパソコンの前で、スマホの前で味わえるだろうか。スタジアムで直接目撃し、数万を超える観客と同時に味わう経験には、遠く及ばないと僕は思う。
 
スタジアムに行く理由は、そんな瞬間のためだ。ここには、スマホにないものがある。100試合に一回、あるかないか。それでも、その瞬間に人生が変わることがある。
 
「スポーツが最高」じゃない。
「人生って最高」だ。
スポーツが、それを思い出させてくれるんだ。
 
残念ながら、PK戦のすえにサンフレッチェ広島は敗れてしまった。だが、川村拓夢のゴールは自分の一生に刻まれるゴールの一つとなった。今後も語り継いでいくだろうし、子どもにも伝えていくだろう。
 
そんな瞬間を目撃するために、僕は来年もスタジアムへ行く。

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編集アドバイザー 澤山モッツァレラ(@Sanfre_Sawayama

本企画はnoteエッセイコンテスト「#スポーツのチカラを感じた瞬間」を紹介するために実施されました。
noteエッセイコンテストに関しては、こちらのnoteをご確認ください。


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