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著名人の自殺、LINE NEWS編集部ではどう伝えたか

自殺に関するニュースの第一報がLINE NEWS編集部に入ってきた時に、多くの方と同じように編集部内でも「どうして」「なぜ」といった驚きの声があがります。今回の記事では、相次ぐ著名人の自殺ニュースにLINE NEWS編集部がどのような課題意識を持ち、どう伝えたかについて振り返りたいと思います。

日本における自殺についてのデータ

LINE NEWS編集部での取り組みの前に、日本における自殺についてのデータを見てみようと思います。厚生労働省・警察庁の「令和元年中における自殺の状況」(※1)によると、2019年の自殺者数は20,169人となり、対前年比671人(約3.2%)減。2010年以降、10年連続の減少となり、1978年から始めた自殺統計で過去最少となっています。これは1日あたりにすると約55人です。

LINE NEWS編集部では、基本的に自殺の記事は特筆すべき事情がない限りは積極的な掲載はしていません。またパーソナライズでユーザーごとに自動で掲出される枠についても、自殺に関する話題については一定のフィルタリング機能を導入して、直接的・過度にフォーカスした伝え方にならないようにしています。

(※1)令和元年中における自殺の状況 https://www.mhlw.go.jp/content/R1kakutei-01.pdf

著名人の自殺とLINE NEWS編集部での伝え方

そのような中で2020年になってから著名人の訃報が続きました。

相次ぐ著名人の訃報を受けて、厚生労働省は「メディア関係者の方へ」(※2)というページで「著名人の自殺に関する報道にあたってのお願い」という文書を9月に3度にわたってリリースしました。

(※2)メディア関係者の方へ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/who_tebiki.html
著名人の自殺に関する報道にあたってのお願い(2020年9月27日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000676383.pdf
著名人の自殺に関する報道にあたってのお願い(2020年9月20日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000676396.pdf
著名人の自殺に関する報道にあたってのお願い(2020年9月14日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000672331.pdf

リリースの中には下記のような言葉が記載されています。

著名人の自殺に関する報道は「子どもや若者の自殺を誘発する可能性」があるため、WHOの『自殺報道ガイドライン』を踏まえた報道の徹底をお願いいたします。

著名人の自殺報道を巡って、LINE NEWS編集部では、基本方針として「直接的な伝え方をしない」と定めています。他社の場合では、一報が入ってきてからすぐにスマートフォンのアプリでプッシュ通知をする事例もあります。公共放送であるNHKでもニュース速報として字幕スーパーやアプリのプッシュ通知などで報じる例があります。
素晴らしい作品や功績を残した人を失ってしまったことは大きなニュースかと思います。一方で、受け手への影響が大きくなる側面も強く、LINE NEWS編集部では、プッシュ通知などユーザーが意図せずに情報を受け取る箇所や、トラフィックが多い場所などへの掲載を極力避けるようにしています。また掲載する場合にも文言などに細心の注意を払っています。複数の提供元からの記事を見比べて、表現の違いなどを細部まで検討したり、見出しに「自殺」などの表現を初報の段階で出すべきかなど都度相談したりしながら運用しています。

また、世界保健機関(WHO)が作成した自殺対策に関するガイドラインの中の一つに「メディア関係者に向けた自殺対策推進のための手引き」(※3)があります。この手引きでは、メディア関係者が自殺関連報道をする際の「やるべきこと」、「やってはいけないこと」などがまとめられています。

(※3)自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識 2017年 最新版 https://www.mhlw.go.jp/content/000526937.pdf

すぐわかる手引き(クイック・レファレンス・ガイド)を抜粋してみましょう。

やるべきこと
・どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること
・自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと
・日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道すること
・有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること
・自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時は、慎重を期すること
・メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること
やってはいけないこと
・自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと
・自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと
・自殺に用いた手段について明確に表現しないこと
・自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと
・センセーショナルな見出しを使わないこと
・写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

みなさんが普段メディアの自殺報道で見聞きする情報は、上記の手引きと比べてどのような印象を持つでしょうか?マスメディアによる自殺報道の影響として自殺が増える「ウェルテル効果」(※4)という事象も報告されています。

(※4)ウェルテル効果
https://kotobank.jp/word/%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%AB%E5%8A%B9%E6%9E%9C-1996033

LINE NEWS編集部では「直接的な伝え方をしない」という基本方針のもと、WHOの手引きなども踏まえて「相談や支援の情報を添える」という取り組みも行っています。LINE NEWS編集部が作成している相談や支援の情報には下記のようなものがあります。

もし悩みを抱えていたら、相談してみませんか
https://news.line.me/issue/9896ddf8837a/f1279b3dd1c9

見ていただけると分かるように、電話相談窓口やLINEやチャット等による相談へのリンクをまとめています。伝えるべき情報として、訃報記事を読み終えた場所などの目にとまる箇所に掲載しつつ、読者の方に少しでも立ち止まる時間を持っていただき、報道による悪影響が少しでも小さくなるように意識しています。

LINE NEWS編集部での伝え方の振り返りと課題

LINE NEWS編集部では、運用についての振り返りを行い、よりユーザーのためになる情報発信の方法を議論し続けています。ここでは実際にLINE NEWS編集部で対応した自殺報道について振り返った時に、メンバーから出た意見を一部紹介したいと思います。

・いずれの記事であっても、タイトルや文中に「自殺か」の表現が入っていれば取り扱わないほうが良いのか、それとも直接的な記事でなければ許容だったのか、どこまで配慮するか、要する時間を含めた具体的な対応策について、一度議論を深めたほうが良いと思う。
・プッシュ通知は見送ったが、当人の知名度はトップクラスであり、衝撃も大きかったと思う。ユーザーの反応をみると、各社が号外している中で我々が号外していない状況に、ニュースの信憑性を問う声も瞬間的にあった。
・メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること:編集部の人ががっつり取材するケースはないかと思うが、いろいろな記事に触れる仕事のため、このあたりもケアできると良いかもしれないと感じた。
・WHOのガイドラインにある「繰り返し報じない」は、追悼系の記事も当てはまるのか迷う場面もあった。報道から一夜明けた朝の運用では本文、タイトル、リンクに自殺の記述がない追悼系のニュースを掲載するなどした。

このように、編集部内でも様々な意見が出ています。さらに話し合って、日々少しでもユーザーにとって価値あるニュースを提供できるように改善することを目指しています。

LINE NEWS編集部での自殺を巡るニュースの伝え方について説明してきましたが、課題はまだまだあると感じています。例えば弁護士ドットコムニュースに掲載された記事(※5)によると、自死遺族支援弁護団の甲斐田沙織弁護士は「誠実そうに見える報道が不誠実なこともある」としています。

(※5)竹内結子さん死去報道「いのちの電話を添え物的に載せるだけでいいの?」遺族支援の弁護士が疑問視 https://www.bengo4.com/c_18/n_11782/

これは、相談窓口や支援に関する情報について、本当にユーザーに届くように掲載しているのか、本質的な課題解決につながっているのか、我々に問われていることだと感じます。
また、報道機関が紹介する窓口の実態について紹介されている記事(※6)もあります。

(※6)電話相談員は自費で参加のボランティア、運営資金の大半は寄付…自殺報道で報道機関が紹介する「いのちの窓口」の実態を知っている? https://times.abema.tv/news-article/8626410

毎日新聞の記事(※7)によると、自殺対策の専門家は「動揺している人も多いと思いますが、触れると心が騒ぐような情報からは距離を置いて、気持ちが落ち着くように努めて」と呼びかけているとのことです。私たちは意図する・しないにかかわらず、日々多くの情報に触れています。時には、情報から距離を置いてみることも選択肢の一つとして提示されています。

(※7)「心が騒ぐような情報からは距離を」 相次ぐ著名人の自殺報道、専門家が助言 https://mainichi.jp/articles/20200927/k00/00m/040/134000c

LINE NEWSでは編集部がニュースをピックアップするだけでなく、新聞社や通信社、テレビ局、ウェブメディアなど、様々な媒体に一部の編成権を開放して、ニュース配信・掲載を行っていただいています。その中で、自社だけではなく参加媒体とも連携・連動して、全体として課題を解決する必要があると感じています。そのような課題意識を持ち「より良いニュースプラットフォームとは何か」を日々考えながらユーザーに伝えていきたいと思っています。


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