歌舞伎町と、フレンチトースト

小学生の頃から映画館に出かけていた。母がいつも池袋の映画館に連れて行ってくれたから。いま思い出してみると、『ビルマの竪琴』、『優駿』、『子猫物語』、『僕の女に手を出すな』、『TANTANたぬき』など、自分が観たいものと、子供が観たいもの、観るに無理のないものをうまく合わせたラインアップ。よく練ったのではないかと推測される。

そんなある日、父が「映画に行こう」と言い出した。母と一緒に、弟と私が連れていかれたのは、なんと歌舞伎町。歩きながら、(ここは子供のくる場所じゃない)とひしひしと伝わってくるものがあった。そんな臭いすらしたのを記憶している。場末感。そして観た映画はと言えば、降旗康男監督『夜叉』である。46歳になった今なら十分理解できる人情物だけど、私が11歳の夏休みのことでした。
高倉健、田中裕子、いしだあゆみという名優の中にいて、ひときわ印象に残っているビートたけし。漁村を包丁を振り回しながら走る姿が、怖くてこわくて。いつもテレビに出ているタケちゃんマンじゃない、狂気のビートたけし。帰り道、気持ちがやさぐれて(お父さんってひどい。夢に出る)と心の中でつぶやいた。

母と行った映画でいちばん印象に残っているのは、『クレイマー、クレイマー』。フレンチトーストとチョコチップアイスに憧れた。フレンチトーストを母に作ってもらい、自分で作ることにも挑戦した。ほんのり甘い感じの想い出。
しかし、大人になって気づいたのは、この映画の原題は「クレイマーVSクレイマー」。同姓で闘ういわゆる離婚調停が題材になっている話なのだ。ハッピーエンドはやってこない。1980年の公開だから、母は6歳の私を連れて観に行ったことになる。深い意味はなく、父同様、ただ自分が観たかっただけ。そうであって欲しいものである。

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