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BUNGEI-BU11|#シロクマ文芸部

風鈴と熱帯夜は全然合わない。それでも蒸し蒸しした暑さの中で時々微かに聞こえるチリン…という音には、ほんの一瞬どこか癒される気持ちになる。

「やっと文芸部になったけど、先輩たちが卒業したら廃部になるのは必須だな。なんとかしないと…」

能戸高校文芸部は、三年生の活躍により同好会から部へ昇格した。とても嬉しかった。けれども部員を増やさないと存続の危機がある。元の同好会どころか、廃部になる可能性が大だ。唯一の二年生部員の彼は最近そんなことを考えて、ただでさえ暑苦しくて眠れないのに更に眠れない日が続いている。

夏期講習を受けながら、涼しい教室の中で板書を写しつつノートの片隅に『部員倍増計画』の文字と思いついたメモをしたためる。

「一年生を入れなきゃなぁ… でも、交流ないし」

今は数学の講習中で3次式の展開とかやっているからか、自分の書いたメモまであちこち矢印が飛び展開式のようになっている。数学も部員倍増計画も頭に入ってこない感じだ。

休み時間に、自販機で目覚まし用に珍しくサイダーを買ってみた。飲みながら周りを見回すと… 時々部室、図書準備室で積読部の活動をしている一年生を見つけた。声をかけるべきかな。

「毎日暑いね。君って確か積読部の人じゃない?僕は文芸部の…」

すると彼はキラキラした瞳で答えてくれた。

「はい!僕は積読部と漫研を兼ねている木下って言います。初めは文芸同好会に入ろうと思っていたのですが、文芸同好会の先輩に積読部の魅力を教わり… なので書く方は漫研の原作班に入ったのですが、僕の作品は漫画化になかなかならなくて…」

わかる。漫研は超人気な部活だから部員も多いしレベルが高い。それにしても…積読部への入部きっかけがうちの先輩(あの自称部長たちだな)だったなんて。なんでその時こっちへ引き込まなかったんだよ…と残念な気持ちになる。

「漫研は人気だからね。新人の作品がすぐに採用というのは難しいだろうな。あと、描き手さんとの相性もあるだろうし。物語の解釈とかもそうだし、逆に作家の方が『この画風と自分の作品とは合わない』なんていうこともあるだろうし。ここはひとつ漫研の原作班のほかに、うちの文芸部にも参加してたみたら?」

「兼部して良いのですか?」

「もちろんだよ。部員が増えるのは大歓迎さ」

あ、自分は会則?をよく知らないし部長ではないのに勝手に答えてしまった。でも多分大丈夫だろう。ダメなら会則を変えれば良い。(なんか強気)

「失礼ですが、先輩はどんな作品を発表されているんですか?」

「僕は物語ではなく、詩を書いているよ。あとはエッセイもどきかな」

「詩ですか。この前の文芸誌で、海の女神への賛美というか祈りのような美しい詩を書いていらしたのは、先輩でしたか!」

「木下くん…だっけ?ありがとう。部員以外から直接作品の感想を耳にしたのは初めてて、それもとても嬉しい言葉で…心から幸せに感じるよ」

なんかここまでは怒涛の進撃だ。話が上手く運びすぎている。暑くて頭の中が沸騰していて、思ってもいないことを話している…んじゃないかな。

休み時間終了を告げるブザーが響いた。

「先輩、明日も講習ありますよね?僕の作品、読んでもらえますか?持ってきます。良かったら読んで感想をいただきたいです」

なんと!サイダーよりも爽やかな風が体の中を駆け巡る気がした。もちろんOKの約束をした。

その夜も熱帯夜だったが、遠足前の夜のような気持ちで眠れない…そんな気持ちだった。風鈴がチリン…と笑っているように聞こえた。

「先輩!良かったら感想を、そして僕を文芸部に入れてください!」

昨日の自販機前で一年の木下くんはそう言って分厚い茶封筒を僕に渡し、イチゴ牛乳を買って去って行った。まるで突然ラブレターを渡されたかのような気持ちになってしまった。まぁ、そんな体験はしたことがないけれど。

その日の夏季講習は全く頭に入らなかった。早く帰宅して原稿を読みたくてしかたがなかった。なので終了のブザーがなった時は「お前、アメフトに入ったらどうだ?」と言われるくらい素早く人混みを駆け抜けて走り帰宅した。

読んだ!泣いた!



あまりの字の汚さに… そして、話の中途半端な終わりっぷりに。自分で連載打ち切りみたいに物語を終わらせ、次のシリーズに進むような。

でも、それ以上に『書きたい!』の思いが詰まっている作品だった。あれもこれも書きたい、こうなったら面白くなるだろう…そんな思いがぎっしりと詰まった物語の山だった。

僕は… 講習の宿題もそこそこに木下くんの物語を読みふけり、心までも熱くなる夜を過ごした。そして部長たちに「部員が増えそうです」とメールをした。

今夜の風鈴はコロコロ笑っているように聞こえる。熱帯夜でも風鈴は悪くない… そう感じた。


〆切間に合って良かった…

文芸部に昇格したら、今度は存続の問題を後輩が気にかけている…そんなお話しです。
BUNGEI-BU6』と絡めてみました。

#シロクマ文芸部
#風鈴と

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