見出し画像

台風の日|#文字でスケッチ

小学校の空き教室を利用しての、放課後児童支援事業。土曜日は朝から開所して、留守家庭のお子さんを預かる。土曜日は、参加者が少ない。だいたい10人程度だ。台風接近中なので、更に今日は少なく、3人だと連絡があった。

私は午後のシフト。まだ暴風にはなっていず、雨も小降りで、傘をささずに歩く人も多かったが、眼鏡をかけている私は、レンズに水滴が着くのを避けるため傘をさして職場へ向かった。

職場に着き、傘立てを見ると大人の雨傘3本と子どもの雨傘3本が刺さっていた。子どもの雨傘は乱暴に閉じて巻かれていたので、一度開いて水滴を飛ばしキチンと巻き直して傘立てに戻した。これできっと帰り道の台風でも、雨傘は戦えそうだ。特に、カーキ色した恐竜のイラストが散りばめられている雨傘は。

部屋に入ると、男の子2人と女の子1人がいた。女の子と1人の男の子は座卓テーブルで、スタッフと折り紙をしていた。なぜかクリスマスリース作りにチャレンジしようとしている。

午前と午後のスタッフが入れ替わり、私も子どもたちの相手をする。「緑の折り紙10枚ちょうだい!」と言う子どもたち。でも、15cm ×15cmの大きさで作ると、巨大なリースになりそうだし、午前中もさんざんいろいろ折りまくっていたと聞く。四分の一の大きさに切ったものでチャレンジしてもらった。

私は、気になるもう1人の男の子に向かった。その子は椅子に座らず、大人の腰丈の戸棚を机代わりにマンガを立ち読みしていた。そして裸足だった。「靴下はどうしたの?」と尋ねると「濡れたから脱いだ。」と答える。ロッカーの彼の荷物置き場には、丸まった靴下がグショグショのまま放り込まれていた。「今日は長靴?」と聞くと「ううん…」と面倒臭そうに答えて、マンガのページをめくる。私はずぶ濡れの靴下の丸まりを直して、小さなレジ袋に納め「忘れないで持って帰るのよ。」と告げた。「はーい。」マンガを読みながら、返事をする彼。

「先生、できたよ!」クリスマスリースができたようだ。端材の折り紙で、星やら丸いものやら、オーナメントも作って貼り付けてある。ずいぶんと季節外れだったが、「早くクリスマスになって欲しいね。」と言うと「うん!」と答えて、ニコニコしながら大きく首を縦に振っていた。

「先生、卓球したい!」マンガを放り出して、裸足の子が突然言い出した。「マンガを片付けてからね。」乱暴に本棚にマンガを突っ込む。「それではダメよ。上下が逆だし、本がかわいそうよ。」しぶしぶ納めなおす。「よくできました。じゃあ、卓球台を出すから待っててね。」

私たちは部屋の隅から、折り畳み式の卓球台を出して部屋の空きスペースに設置した。折り紙をしていた子たちも、卓球のラケット等が入った箱を棚から出してきて待っている。

しばし卓球を楽しみ、やがておやつの時間(16時)になった。3人分のおやつを準備していたら、折り紙をしていた男の子の保護者がお迎えに来た。台風が近づいているから、お迎えが早くなったのね。「さようなら。」と、ニコニコしながら帰る彼。

おやつは10分くらいで食べ終わる。そして急に雨脚が強くなって、雷がゴロゴロと聞こえるようになった。風も強まっている。16時半に独りで帰る予定になっている男の子の保護者へ電話を入れた。「台風が近づいて風も強まっています。独りで帰らせるのは危険だと思うので、遅くなってもかまいませんからお迎えにできませんか?」保護者は折り返し連絡すると答え、一旦電話を切った。

「誰に電話してたの?」男の子は不思議そうに聞いてきた。「台風が近づいているから、お迎えに来てくれませんかってお母さんに。」

「ヤッタァ!」

裸足の男の子はスキップで部屋中を駆け回る。女の子も釣られてスキップする。なんだかよくわからないけれど、みんなで部屋の中をぐるっと一周スキップした。そして電車通勤のスタッフには、早あがりしてもらった。「先生さようなら。」「気をつけてね。」

やがて男の子の保護者から、仕事から抜けられないので代わりにお祖母ちゃんが迎えに行くと連絡が入った。ドラゴンボールの塗り絵をしていた彼は「よっしゃあ!車に乗れる。」と、ニコニコしていた。
隣町に住むお祖母ちゃんは、運転ができるそうだ。

17時頃に女の子の保護者がお迎えに来た。「気をつけてね。また来週!」

最後の一人になった男の子は、またスキップしていた。インターホンの音が聞こえると「来た!」と言って、まだ確認もする前に部屋から飛び出そうとする。ちゃんと、その子のお祖母ちゃんだったので送り出した。

裸足に運動靴。そして恐竜柄の傘。「またねー!」と、とびっきりの笑顔で雨振りの中、男の子はお祖母ちゃんと帰って行った。

[約2000字]

くまさんの作品を読んでステキな企画だな…と思い、参加しました。

うまくスケッチできているかわかりませんが、裸足の男の子の様子が伝わっていたら…と思います。そして、私たちの近くでは大きな被害がありませんでしたが、災難に遭われた方々にはお悔やみ申し上げます。
毎日、いろんな子どもたちに触れていて、自分たちの職場は子どもたちの遊び場ではあるのだけれど、やっぱり自分の家が最高だと思えることが幸せなんじゃないかな…と思っています。

#文字でスケッチ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?