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天空橋ホームで会った二人|#疑似人物図鑑(約2800字)

5月19日、文学フリマ東京38へ行く途中のこと。

私は電車の乗換えが苦手だ。最近は目的地までの乗継や乗車時間、交通費なども簡単に検索できるサイトがあるので、一時期よりも不安感はなくなった。けれど、うっかりとホームを間違えて反対方向に向かったり、急行に飛び乗って駅を通過することもあるから 注意するに越したことはない。

さて、今日はそんなサイトを頼りに、目的地まであと一息の東京モノレール天空橋てんくうばしまでたどり着いた。しかし乗りたい電車が来るのは向こう側だ。ホーム左側の先はなにも無い。右を見ると…階段があるが『出口』としか書いていない。どこにも反対ホームに向かう誘導の掲示がない。しかもこちらのホームには私しかいない。

改札に戻って駅員に聞こうと思ったが不在だ。右に行くので正解なんだろうか?でも『出口』だし。私は一人で誰もいないホームで悶々としていた。

すると、女性二人組が入って来た。親子だろうか。母らしき人物は多分私と同じくらいで、娘は私の息子と同じくらい…かな。この二人組も私と同じようにスマホを片手に何か話している。やった!もしかして同士だ。私はこの二人の同行を見ていたのだが出口に向かっている。「えっ?出ちゃうんだ」落胆した。

私はもう一度駅員がいるかどうか確かめに改札へ戻ったら、タイミングよく駅員が戻って来た。「すみません。流通センターへ行きたいのですが、反対側のホームにはどうやって行ったら良いのですか?」
「ホームの右手に階段があるのでそれを渡ればいいです」「え?出口って書いてあるんですが、それで大丈夫ですか?」「階段でつながってます」

私はアホだ。ここでは出口だけれど、反対から見れば入口でもあって、入口ならばそこでホーム分岐もあるだろうに…(でも、どこにも反対ホームへの誘導掲示無いのは不親切だと思う。全て『出口』掲示)

反対ホームにたどり着いたら、さっきの二人組(推定)親子がいた。推定母がちらっと私のことを見て推定娘に「あら、さっき向こうのホームでぼ〜っとしてた人よ」…と、言っているような気がした。

私にとってはなんとも気まずい時間を過ごし、やがてホームに到着した電車(モノレール)に同乗した。二人組(推定)親子は、ずっと楽しそうに何かをしゃべっていた。この人たちはどこへ行くのだろう。まさか、文フリ?いやぁ、親子では行かないでしょう。浜松町方面へお買い物…とみた。「お父さんと一緒だと、好きな店でゆっくりウインドウショッピングもできないし」とかなんとか言って「お昼は何を食べる?」みたいな話もしたり。

流通センター駅に着いた。さて私は降りるのだが…なんと、さっきの(推定)親子も下車している。またしても「天空橋駅でぼ〜っとしてたあの人も文学フリマに行くのね」とか言われているような… そんな空耳まで聞こえてくるようだ。

私はここで妄想を開始した。あの推定親子が文フリに参加した経緯を… 第一会場入場の長蛇の列に並ぶ時間潰しには最適だし。10m位先にいる二人組女性の様子をみながら、彼女たちの今日までの日々を妄想した。

日常生活の中でふと見かけた、もう会わないであろう人。その人がどんな人で、どんな事を考えているのか、想像してみる遊びをまとめたものが「疑似人物図鑑」です。

疑似人物図鑑マガジンより

娘「ねぇ、今度の5月19日の日曜日、文学フリマがあるんだけど、お母さんも行く?お母さんの好きな作家さんに会えるかもしれないわよ?」

母「その日はお父さんゴルフでいないから、出かけても大丈夫だと思うけど… 何なの?文学フリマって。あなたが前にハマっていたコミケとかと似たような感じ?テレビで様子見たことあるけど、あんな混雑した所は正直行きたくないわ。それに好きな作家に会えるかもって…確実じゃないでしょ?それに遠くから見るだけなら遠慮するわ」

娘「雰囲気はコミケと同じだと思うわ。でも今回から入場料取るから、客数減るかも。それに、だいたい売り子として作家さんがお店に立つから、ほぼ確実に会えるし、本を買ったら会話もできるわよ」

母「そうなの!?少し行ってみたくなったわ」

娘「行こうよ!でね、実は私の友だちがそこで本を売っているから… お母さんも知ってるでしょ?◯◯ちゃん。彼女、自費出版したから応援したいんだけど、お母さんも応援してくれない?」

母「◯◯ちゃんが作家になったの?それはスゴイわ。応援するわよ。行く!行くわよ、文学フリマ。じゃあ、美容院予約しないと!」

🚝(天空橋ホーム改札口付近)

娘「乗換はこっちよ。このモノレールに乗ったら会場に着くわ」

母「乗ったことのない電車に乗るのはドキドキするね。あんたがいなかったら行かれないよ。それにしてもこの駅、人がいないわね。(ホームの片隅に一人立つ私に、ちらっと目を向ける)」

娘「あ、このホームじゃなくて反対側だわ。えーっと… 多分こっち行けばいいのかな。お母さん行くわよ」

母「え?そっちは出口じゃないのかい?」

娘「ここしか無いじゃない。間違っていたら戻ればいいのよ」

母「戻ればって… 階段を何度も昇り降りするのは疲れるから嫌よ」

娘「大丈夫だって。ここしか道はないんだし」

🚝(天空橋ホーム)

母「こっちのホームは人がたくさんだね。向こうは本当に誰もいないよ。(後から来た私をちらっと見る)」

娘「みんな文学フリマに行くのかしら。だとしたらけっこう混雑してるかも」

母「そうなのかねぇ…」

🚝(車内にて)

娘「満員だね。お母さん大丈夫?」

母「久々に満員電車に乗ったわ。お父さん、毎日こんな電車に乗って仕事に行っているのか思うとすごいと思うわ。今日のゴルフ、楽しんでいるかしら」

娘「接待ゴルフなんでしょ?楽しいわけないじゃない。ゴマをすってもすられても…」

母「今日のは仕事じゃなくて、旧友との同窓会兼ゴルフ大会みたいよ。だから帰りも遅くなるみたいだし」

娘「そうなのね。じゃあ一緒に晩ごはんも食べましょ!」

母「後で◯◯ちゃんと食べたりしないの?」

娘「向こうは向こうで用事があるからいいのよ」

母「それに、彼氏とデート行ったりとかないの?」

娘「今は仕事が恋人だから。今日はお母さんとデートする日でいいの」

🚝(下車後)

娘「うわぁ!すごい行列…」

母「これ、本当に文学とか好きな人が集まっているのかしら…(やだ、さっきのホームにいた人も並んでいるわ…という視線)」

娘「私だって◯◯ちゃんを応援に来ているのが目的だから、いろいろいるでしょ。それにしても、予想以上の人手だわ!」

母「上野でパンダを見に行った時のことを思い出すわ。さんざん並んで、遠くで寝ているパンダをちらっと見て終わった時のこと… もしかして作家さんとも、そうなるのかしら?」

娘「いや、会場に入れたら多分大丈夫だと思う。人気作家さんのブースだと確かに行列できているかもだけど、きっとお話できる時間も写メする時間も作ってくれるから」

母「ドキドキするねぇ。今日の格好、変じゃないかしら?あまり着飾ったりするのも変だしね…」

娘「いいのよ。お呼ばれみたいな格好しなくて。でね、◯◯ちゃんなんだけど…」



と、まぁ、こんな感じで推定親子のことをみていましたとさ。

おしまい。

yamaneさんの『疑似人物図鑑』遊びに参加してみました。

#疑似人物図鑑

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