BUNGEI-BU13|#シロクマ文芸部(約1500字)
夕焼けはなんとなく嫌いだ。綺麗だとは思う。でもその向こう側に、全てを呑み込む暗い闇が待っている…そんな気がして怖い。怖いから嫌いだ。
秋の夕暮れは本当に釣瓶落としだ。最近ようやく過ごしやすい季節になり、大学受験に向けての勉強も暑さを気にしないですむようになったのに、気がつくと空が紅く染まって…じきに暗くなる。あのほの明るい赤い陽射しが、とても切なく辛く感じてしまう。
いつから夕焼けに嫌悪感を抱くようになったのだろう。けっこう昔からの気もする。
夕方5時に公園のスピーカーから流れてくる『夕焼け小焼け』のメロディーは「もう、お家に帰る時間ですよ」の合図だった。友だちと楽しく遊んでいる最中でも、あの曲を聴いたら皆んなさよならをする。本当はもっと遊びたかったのに。夏休みの夕方5時なんて、まだ明るくて夕焼けなど出ていないのに、皆んなは真面目にお家に帰る。僕は… 一人ですべり台のてっぺんで皆んなのことを見送ってから、二回くらいすべり台を滑って帰宅していた。多分その頃から『夕焼け』という言葉の響きとか全てが好きではなくなったのだろう。
夕焼けの赤… 真っ赤なものに対する嫌悪感から『赤い傘』みたいな物語を作ったのかもしれない。自分の中の闇を出して、何か変わるかもしれない…と思って。でも中学時代の自由研究の創作文学だし、あまりにも稚拙であったから評価は低かった。まぁ、別に評価は気にはしていなかったのだが… 誰かがあの作品をネットに拡散して、面白おかしいものにしたのはショックだった。
高校に入っても… 相変わらず夕焼けにはロマン的なものは感じず、自分の感性が他の人とはどこかズレていることも理解している。でも、文芸部に入り思うままを書いて吐き出すことは気分が良かった。高校三年になってから入部したのに、何故か部長という大役まで任されている。
図書準備室の窓から、僕の苦手な夕焼けが見える。もう小学生のガキではないから、夕焼けの時間だから帰宅しなくちゃ…とか思わないのが、成長したところだろうか。いや、全然変わっていないな。
「先輩、夕焼けってなんかむかつかないですか?」
文芸部の後輩が声をかけてきた。
「むかつくって… なんか君らしくない言葉だね」
「でも、むかつくという表現がしっくりくる感じがして。夕焼けって『私、綺麗でしょ?』と見せびらかしているように見える時があって… 今とか」
「今?」
確かに今はとても美しい薔薇のような色をしている。ほとんどの人なら「きれいな夕焼けだ」と思うに違いない。僕以外にも素直に夕焼けを美しいと感じない、そんなひねくれた人がいるなんて…
「先輩。夕焼けが輝きながらだんだん暗く暮れていくのを見ると、なんとなく人生みたいだなと思うんです。で、きれいな夕焼けって自分とは違う外見や知性とかピカピカな人が、正に人生を謳歌している最中に思えてむかついて… だんだん暗くなって色褪せてくると安心するんです。誰でも最後は死んじゃうんだなって…」
「……」
僕よりも夕焼けに対する思い入れが強いみたいだ。漠然とした畏れの僕よりも、ずっとはっきりしている。なんだか自分の夕焼けに対する嫌悪や違和感を、スッキリ説明してくれた気さえする。
「で、先輩。死んじゃうんですけれど、また明日は来るじゃないですか。新しい人生が始まるというか。輪廻転生とか考えて… 結局何が何だかわからなくなるんですけれどね」
「うん、わかる」
文芸部の後継者は彼しかいない!と思った。
夕焼けに染まる部室、長く伸びる二人の影。
初めて「夕焼けも良いものだな」と心から思えた一瞬だった。
えっ?なんかちょっとBLっぽくなってしまったかも… 全然違いますからね😭
一応、文芸部長のお話しです。
私の好きな『夕焼け』の詩を ↓
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