活版印刷三日月堂/なにごとも縁なのかな…【エッセイ】
読書の秋… というには秋も深まりすぎ、暦の上でも既に冬となっているが、ちょうど良い感じの陽射しや落ち葉の風景が読書に向いていると感じられる今日この頃。
noteで読書感想文のイベントが開催され、好きだった本が課題図書にあったので思わず参加。久々に懐かしい本を再読し、多分中学時代以来と思う読書感想文を綴ってみた。何人かに読まれコメントまでいただけて、とても幸せな気持ちになった。誰かと気持ちを通わせて共有できる喜び… 幸せを感じる。私の選んだ本は『車のいろは空のいろ 白いぼうし』だった。
小学校の国語の教科書にも掲載されているので、この本の読者はたくさんおり、たくさん感想文が寄せられていた。それらの感想文の中に、タイトルの本『活版印刷三日月堂』が『車のいろは空のいろ』とつながりがある…と書かれたものがあった。『車のいろは〜』の極上の感想文を味わえる…という一文に強く惹かれ、シリーズになっている本の最初の2冊を手に取ってみた。
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活版印刷三日月堂
ほしおさなえ/ポプラ文庫
一冊が4話でまとまっている。『車のいろは〜』に関係する話は二冊目の第1話だ。多分そこだけ読んでも、物語は成立していると思うが、登場人物の背景などがわからない。最初から順番に読み進めた。
川越の小さな活版印刷所『三日月堂』。店主が亡くなり、孫娘の弓子が戸惑いながらも独りで店を引継ぎ、さまざまな依頼に応えて丁寧な仕事を務める。活字と共に依頼人の記憶や想いを拾い集め、形に変えて刷りあげる…
ものすごく大雑把な紹介になるけれど、そんな物語だ。扉絵の写真が、物語のキーワードなのも素敵。
どのお話も温かく、本を読んで涙を流したのも久しぶりの体験だった。プレゼントだったり、結婚式の招待状だったり… ぽつりぽつりと三日月堂に依頼が入る。デザインやインキ(印刷業界ではインクとは言わないそうだ)の色、書体などを、依頼主の想いを聴きながら選んでいく。そして古い印刷機の調整や、失われた活字の母型を探したり… ここまで丁寧に仕事をするものなのか、いや、プロならば当たり前のことなのだろうけれど、それがとても心地良い。
物語は弓子の友人や家族の縁、三日月堂のある地域の縁、三日月堂で作られた品により生まれた縁とさまざまな形で広がっている。『車のいろは〜』とつながりのある話は、地元(川越)の朗読講座に通う女性たちが、朗読イベントに参加することになり、『車のいろは〜』の作品を選んだというものだ。三日月堂は、このイベント用プログラムを依頼される。物語はイベントの最終リハーサルの日で終わっているが、プログラムは納得いくものが納品され、イベントも大成功で終わるに違いないことが伺える。
いまできることだけをやっていたんじゃ、ダメなんですよね。
弓子の言葉が心に刺さる。できることを広げようとした時に、世界も広がるのだ。
三日月堂にはまだ動かすことのできない大型の印刷機がある。この『活版印刷三日月堂』は全6冊らしいので、私の持っていない3冊目以降には、それが再び動き出し活躍する日の物語があるのかわからないが、あって欲しい。新しい縁との出会いに、これからも心躍らせて触れてみたいと感じる、そんな本だった。
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