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この鍵どうしよう|#シロクマ文芸部

「消えた鍵って、一体どこの鍵?」

「鍵がない!」と大騒ぎして、鞄やあちこちの引出し等を開け確認する私に、同僚が声をかけてきた。

「廃棄書類置き場の三階倉庫の鍵よ。あ〜、見つからないと、総務まで行ってスペア借りたり、紛失届書いたりとか面倒くさいわ。本当にどこにあるのかしら」

「誰かが、使ったまま返してないんじゃない?」

「それはないわ。鍵管理は私がしていて、まだ誰にも貸し出した覚えはないし。自分で鍵を変なところにしまったのよ。は〜、どこなんだろう。困ったわ」

「最近だと、いつ使ったの?もしかして、鍵がささったままになっていたりして…」

「昨日使ったし、そんなことない!…って思うけど、なんか心配だから見てくる」

私は不安な気持ちと共に階段を登り、三階の倉庫室へ向かった。ドアに鍵は…やはりささっていなかった。しかし、メモが貼られていた。

 鍵を預かっています  システム部 ◯◯

あぁ、やっぱり。昨日そう言えば、倉庫を出て鍵をかけようとした時、後ろに人がいて入りたそうだったから「どうぞ」とドアを開けたんだっけ。で… 私もあの後急いでいたから、ちょっと鍵のこと忘れていたし。すぐにシステム部へ向かう。

「失礼いたします。こちらに◯◯さんていう方が…」

すると一人の男性がすぐに手を挙げ「こっち、こっち!」と呼び寄せた。

「あぁ、確かに君だ。はい。コレかな?」

「そうです!良かった。ありがとうございます。助かりました!ご迷惑かけ申し訳ございません」

「いや、ビックリしたよ。僕も用事が済んで鍵をかけようとしたら、ドアに鍵がささったまんまだったからな。どこの誰だかわからなかったから、張り紙したんだけど」

「本当にご心配やご迷惑をおかけしました」

「いや、心配していたのは君の方だろう?鍵がなくて困っていたんじゃないか?僕は、また君に会えると思うと嬉しくて仕方がなかったんだから」

「は?」

「君のことは、時々社内で見かけていたんだよ。いつも楽しげにくるくると仕事していてさ。そしたら昨日、倉庫に用事があって行ってみたら君がいて、ドアまで開けてくれてラッキー♡と思っていたら… 意外とうっかりさんなんだなと思って。あ、ごめん。僕一人で勝手にペラペラしゃべって。鍵を取りに来ただけなのにね。でも、君さえ良ければまた会えるかな… はい、これも」

彼は名刺に携帯番号を書いて渡してきた。

「じゃあ、また」

「はい、失礼します」

なんか彼の心の鍵を預かってしまったようだ。さぁ、どうしよう…


先週は参加できず残念でした。後で個人的に書こうと思います。

#シロクマ文芸部
#消えた鍵


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