見出し画像

【創作】君のために嘘をつく

僕たちは、いわゆる幼なじみ。母親同士がプレママ教室で知り合って仲良しになり、出産後は親子絡みで交流を続けている、そんな感じだ。家も近所なので、幼稚園から小・中までずっと一緒。高校も同じ所に… と思っていたし、あいつも同じように考えていることを知っているけれど、最近少し考えが変わってきた。

僕はあいつのこと大好きで、あいつの笑顔を守るためならなんだってできる覚悟がある。僕が空手とか習っているのは、もしものことがあった時のためな部分が大きい。あいつは身体が少し弱くって、体育の授業をよく見学とかしていた。でも、ピアノの演奏は凄いんだ。ピアノを弾いている時は、一体どこにそんな力があるのかと思うくらい、迫力ある演奏を聴かせたりする。かと思うと、涙が出てくるような、繊細な演奏をしたり… ピアノに全く詳しくない僕にでも「すごい!」と思わせるものがある。あいつのピアノの才能は、きっと天からの授かりもの。ちゃんと育てないといけないんじゃないかと思う。


中学3年、クラスは別れてしまったけれど、桜の花びらがはらはらと舞ういつもの帰り道でのこと。

「ねぇ、ダイちゃん。高校はどこに行くか決めた?私、ダイちゃんと同じ高校に通いたいな。」

「僕は… 実は将来、体育の先生になりたいんだ。だからスポーツに力を入れている高校、できたら男子校を考えているんだよ。リッちゃんもさ、ピアノが上手いんだから、音楽系の学校に進んだら?」

「えっ?ダイちゃん… そんなことを考えていたんだ。私たちずっと一緒に、高校も大学も同じ所へ通うんだと思っていたから。私…気が付かなかった。」

「学校が違っても、友情は変わらないよ。そうだろう?」

「そうかもしれないけど… ダイちゃんがいない高校生活なんて、想像できない。」

「いつまでも僕なんかに甘えていないで、本当に自分のやりたいことを考えてみたら?僕は、男子校にちょっと憧れているんだよ。リッちゃんとは気心知れていて良いけどさ…」

「私から離れたいのね?いつもずっと一緒で、実は重荷だったの?」

「そうじゃないけれど…」

あいつは、涙を浮かべて「ひとりで帰る。」と先に帰ってしまった。僕も泣きたい気分だったが、これで良かったんだ…と、自分に言い聞かせていた。


その日から、あいつと一緒に帰宅したり会話することはなくなってしまった。廊下ですれ違っても、ぷいっと明らかに僕を無視してくる。僕も気づかないフリをしているけれど。

僕は、スポーツ系の男子校を第一志望校にして、受験勉強に励んだ。空手も続けている。

空手教室へ通う道中に、あいつの通うピアノ教室がある。僕はあいつの弾くピアノの音だけは何故かわかる。別れた日のすぐあたりは、ひどく荒れた演奏をしていたが、すぐに元の非凡な才溢れる演奏に戻り、更に磨きがかかってきたようだ。

「リッちゃんは、音大の付属を受けるそうよ。そうしたら同じ高校や大学に通えなくなるわね。淋しいわね。」

母があいつの近況を教えてくれた。良かった。あいつなら絶対に合格すると思うし、そして素晴らしいピアニストになること間違いない。僕なんかがそばにいなくても、ちゃんと自分の力で翔ける力を育てて欲しい。僕は、ずっとリッちゃんのこと、応援しているから。


桜の花がほころび始める頃、あいつは音大付属高に、僕は男子校にそれぞれ合格した。久々に親子揃っての、合格祝勝パーティーが僕の家で開かれた。ちょっと気まずく感じながらも、お互いの合格を祝い合った。夜も更けてきたので、あいつの家族は帰って行ったが「ダイちゃん、送って行かないの?」と母が僕を玄関から押し出すし、「若いモン同士、少しデートでもしたら?」とリッちゃんのお母さんもあいつを置いてさっさと先に行ってしまった。

「… リッちゃん、音大付属に合格すごいね。おめでとう…って、何回言ってるんだろう。でも、やっぱりすごいや。頑張ったんだね。」

「ダイちゃんが… ダイちゃんが勧めてくれたからだよ。私は自分にはなんの取り柄もないと思っていたのに、ダイちゃんがピアノを褒めてくれたから、頑張ってみたの。ダイちゃんが体育の先生になるのなら、私はピアノか音楽の先生になろうかなって。学校が離れても、夢が同じならきっと今までと同じように、ずっと一緒な気がする。」

「リッちゃん… 僕ね、本当は一緒の高校に通いたいと思っていたんだよ。でも、君のピアノを聴いていると、僕のエゴで大切な才能を潰してしまう気がしてさ…  」

「ううん。いいの。私も甘え過ぎていたと思う。いつも守られてばかりで、ダイちゃんに頼り切っていた。学校は離れるけれど、でも、気持ちはつながったままだよね?それは… 変わらないよね?」

「変わらないよ。ずっとリッちゃん、君のこと守りたいと思っている。なんかあったら、学校にも駆けつけるよ!ウザいかな?」

「すごく嬉しい!大好きだよ、ダイちゃん!」

「…  家まで送るよ。」

手をつないで歩く二人に、ちょっぴり冷たい夜風が吹いたけれど、真っ赤になった二人にはちょうど良い清涼剤のよう。

お月さまが、二人のことを祝福するかのように、照らしていた。



ロマンチック…  になってますかねぇ😅
書いてみました。

#ロマンチック
#創作
#ソーさんのイラスト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?