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車のいろは空のいろ 白いぼうし/思い出の本

読書感想文の課題図書の中にこの本が入っていて、懐かしさのあまり思わず胸がキュンとしてしまった。

ドラマや映画を観て原作を読んでみたくなる…というのは、よくある話だと思う。この本は映画ではなく、私の大好きなシンガーソングライターさんがLPを出した時のB面の曲の元になったもので、それで興味を持ち手に取った。私が大学1年の時のことである。

大学生が読むにしては、些か文字が大きすぎひらがなも多めで、ふんだんに散りばめられたイラストは、まるで絵本のようでもあった。でも、というか、だからというか、読み進めるうちに心は本の中へ… 松井さんが運転する空色のタクシーに、同乗しているような気持ちになった。

歌からこの本を知ったので、原作を読むと頭の中にその曲が流れ、タクシー運転手の松井さんの言葉も曲に登場する声で再生される不思議な状態だったが、夢中になって一気に読んでしまった。

タクシー運転手の松井さんは、とても心が優しくて、時々人間ではないお客も乗車するけれど、目的地までキチンと連れて行ってくれる。たまに時を超えた場所が目的地だったりするけれど、ちゃんと松井さんはたどり着けて、お客に感謝される。松井さんの思いやりの心が、全てのものに届いている… そんなあたたかな世界が、挿し絵と共にこの本の中に広がっていた。

ふるさと、というか自分の居る場所に帰る、又は帰りたい…そんな思いを描いた作品が多い。釣られた魚が海へ戻ったり、捕まったチョウが野原へ帰ったり、何十年も昔の町角にたどり着いたり… ふるさとを懐かしむお客のつぶやきの話もある。松井さん自身も、ふるさとから送られた夏みかんをタクシーに置いて、思いを馳せることがある。タクシーはそもそも、どこかへ行く、又は帰るために利用するものなのだけれど、松井さんの空色のタクシーは、心の中の風景の世界にもたどり着けるタクシーなのだ。

松井さんは、ただ単にお客の希望する目的地まで安全に安心して送り届けようとしているだけなのだけれど、その真っ直ぐな優しい気持ちが人間ではないものたちにも届いて、時には勘違いされて『キツネコンクール』に参加させられてしまうし、「料金を払えば、誰だろうと、同じじゃありませんか?」と論破されたり…  いろいろ不思議なできごとは起こるけれど、毎日丁寧に自分の仕事をしている。自分の仕事に誇りを持っている。とても素敵なお話だな、と思った。

時は流れて、私は二児の母となり、長男が小学校に通うようになった。国語の宿題で音読があり、「『白いぼうし』を読むから聞いて〜!」と言ってきた。その時は「新しいお話の単元に入ったのだな。」としか思わなかったのだけれど、長男が教科書を広げて「読みます。『白いぼうし』作、あまんきみこ。 これは、レモンのにおいですか?…いいえ、夏みかんですよ。…運転手の松井さんは、にこにこして答えました。…」「えっ!?ちょっと待って?教科書、お母さんに見せて?」キョトンとする長男から教科書を奪って眺めると、イラストも同じの約20年前に読んだあの話が載っていた。思いがけない物語との再会!「お母さん、この話大好きだったの。ちょっとびっくりしちゃった。教科書にも載るなんて。でも良いお話だから当たり前かな。はい、音読の邪魔してごめんね。続けて読んでください。」初めての物語の音読は、時々変なところで息継ぎしたりしていたけれど、私が大好きだと言ったので、感情を込めようと一生懸命に読んでくれた。

長男はせっかく捕まえたチョウだけど、仲間のところへ戻れて良かったと思い、松井さんのお詫びの夏みかんは良かったと思う…と、彼なりの感想が聞けた。

そして更に時が流れて… 改めて、この本のタイトルに巡り会えた奇跡のようなもの。今は手元に本は無いけれど、歌と記憶の中から物語はよみがえってくる。北田卓史さんのイラストで、松井さんの顔が浮かんでくる。

長男も数年前に所帯を持った。いつか孫が生まれたら、この本を読み聞かせてあげたいな… と思う。

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10/31 改めて本を購入し、引用文で誤っていた箇所を修正しました。

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#読書の秋2021
#車のいろは空のいろ


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