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数式の読み方:常微分

微分は連続関数の解析で使える強力な道具である。高校では簡単な1変数関数$${ f(x) }$$に対し、$${ f(x) }$$の常微分を$${ f'(x) = \displaystyle\lim_{h\to0} \frac{f(x+h) - f(x)}{h} }$$と定義して扱う。歴史的に常微分は微分商、微分係数、導関数など複数の呼び方があり、表記法も複数使われている。特にライプニッツの記法$${ \dfrac{df(x)}{dx} }$$は分数形で微分が分数である一面を直観的に表すが、極限による定義からは読み取り難い。本記事では、表記を中心に、常微分と関数の複数の読み方を整理する。

1. 関数の読み方

関数の定義は主に3つの定義が挙げられる。現代数学では定義1.3を良く用いるが、学校教育や理工学では定義1.2を扱う場合が多い。定義1.1が一番古く、主に用語や表記に痕跡が残る。

  定義1.1)変化量と定量による解析的表示式
  定義1.2)
変化量に依存して変わる変化量
  定義1.3)
変化量から変化量への対応

簡単な例として表1.1 が与える変化量$${ x, y }$$の組みについて考える。小4の教科書に登場する比例関係であるが、学校教育で最初に触れる関数になる。

$$
\def\arraystretch{1.5}
\begin{array}{c}\underset{}{表1.1)変化量 x, y の対応例} \\
\begin{array}{c|ccccc}
x & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\\hline
y & 2 & 4 & 6 & 8 & 10
\end{array}
\end{array}
$$

古典的には、$${ y = 2x }$$という関係式が成立するため「$${ x }$$を$${ 2 }$$倍する」意味で式$${ 2x }$$自体を関数と定義した。定義1.1である。$${ x }$$を独立変数、$${ y }$$を従属変数、$${ 2x }$$を「$${ x }$$の関数」と言う。

次に、理工学では物理量に着目するため、表示式の代わりに表示式と等しい物理量である従属変数を関数と定義した。定義1.2である。「$${ y }$$は$${ x }$$の関数である」と言う。独立変数に着目しながら独立変数も明示して$${ y = y(x) }$$とも書く。

最後に、$${ x }$$を$${ 2 }$$倍しようが、$${ t }$$を$${ 2 }$$倍しようが、同じ「$${ 2 }$$倍」という関係に基づき、独立変数と従属変数を含まない変数間の純粋な対応関係を関数と呼んだ。定義1.3である。量そのものではなく、量と量の関係に着目する数学では、定義1.3が本質的で好まれる。$${ f(x) }$$で関数記号を$${ f }$$としているいのも、定義1.3に基づく表記法と言える。

$$
\def\arraystretch{1.5}
\begin{array}{c}\underset{}{表1.2)各定義における関数の対象} \\
\begin{array}{c|cc} 表示 & y=2{\cdot}x & y=f(x) \\ \hline
定義1.1 & 2{\cdot}x & f(x) \\
定義1.2 & y & y \\
定義1.3 & 2{\cdot} &  f
\end{array}
\end{array}
$$

関数を具体的に表しながら、独立変数に依存しない表記として、対応を順序対の集合として扱う内包表記がある。$${ y = 2x }$$の場合、$${ S = \{1,2,3,4,5\} }$$と置けば、$${ f = \{ (x, 2x) \,|\, x ∈ S \} = \{ (t, 2t) \,|\, t ∈ S, y = f(x) \} }$$と書ける。この$${ x }$$や$${ t }$$は集合の内包表記に使われる任意の内部変数であり、関数の等号は集合としての等号になる。

2. 常微分の読み方

2.1 演算子としての読み方

微分は常微分に限っても表2.1に示す表記法が用いられる。

$$
\def\arraystretch{2}
\begin{array}{c}\underset{}{表2.1)良く用いられる微分表記} \\
\begin{array}{r|ccc} && y=f(x)=2x \\ \hline
ラグランジュの記法 & y' & f'(x) & (2x)' \\
 ニュートンの記法 & \dot{y} & \dot{f}(x) \\
  オイラーの記法 & Dy & Df(x) & D(2x) \\
ライプニッツの記法 & \dfrac{d}{dx}y & \dfrac{d}{dx}f(x) & \dfrac{d}{dx}(2x)\\
          & \dfrac{dy}{dx} & \dfrac{df}{dx}(x), \dfrac{df(x)}{dx} & \dfrac{d(2x)}{dx} 
\end{array}
\end{array}
$$

微分$${ f'(x) = \displaystyle\lim_{h\to0} \frac{f(x+h) - f(x)}{h} }$$における関数$${ f(x) }$$は、数学的には定義1.3に従い関数$${ f }$$から関数$${ f' }$$への演算となる。各表記法とも基本的に記号$${ ' }$$や$${ \dot{\;} }$$ないし文字$${ D }$$や式$${ \dfrac{d}{dx} }$$で微分演算を表す。

関数の表記形にも深く依存し、$${ y }$$を使うのは定義1.2の文脈で独立変数を微分対象と考え、$${ 2x }$$を使うのは定義1.1の文脈で関数の具体的な式を微分対象と考えている表記になっている。紛らわしいことに、物理分野では$${ y }$$に独立変数を追記して$${ f(x) }$$同様に$${ y(x) }$$と書いたり、逆に$${ f(x) }$$の独立変数を省略して$${ y }$$同様に$${ f }$$に書いたりもする。

2.2 分数としての読み方

演算子としての表記法に対し、ライプニッツの記法では微分を分数の形で表記し、あたかも$${ dy }$$と$${ dx }$$の除算のようにも表せる。しかし極限による定義式$${ \displaystyle\lim_{h\to0} \frac{f(x+h) - f(x)}{h} }$$だけでは、$${ dy }$$や$${ dx }$$が未定義であるため除算の解釈に使えない。

一般に、関数$${ y = f(x) }$$が表すグラフは関数の閉包表現$${ f = \{ (x, y) \,|\, y = f(x) \} }$$が表す点の集合である。常微分は関数が表す曲線の傾きを表す。曲線の傾きは接線の傾きでもあるため、点$${ (p, f(p)) }$$における接線の方程式は$${ y - f(p) = f'(p) \cdot (x - p) }$$となる。

図2.1)曲線と付随する接線空間の関係

接線方程式について、接点$${ (p, f(p)) }$$からの差分$${ (dx, dy) = (x - p,\;y - f(p) ) }$$に置き換えると、$${ dy = f(p) \cdot dx }$$が得られる。すると、$${ dx }$$を任意の大きさに決めれば、$${ x = p }$$となる任意の点における接線方程式が決まり、$${ dy }$$が決まる。その結果、$${ \dfrac{dy}{dx} = f'(p) }$$となる。よって、微分係数は分数である。

この式には任意変数を表す$${ x }$$が式変形で無くなり、代わりに$${ p }$$が任意であることから、改めて$${ p }$$を$${ x }$$に書き換えることで$${ dy = f(x) \cdot dx }$$と$${ \dfrac{dy}{dx} = f'(p) }$$を作り出せる。こうして、導関数も分数と分かる。

歴史的には、微分は元々$${ q = f(p) }$$として、$${ (p, q) }$$と$${ (p+\varDelta x, q +\varDelta y) ) }$$の差分$${ (\varDelta x, \varDelta y) }$$を考え、差分の割り算である差分商$${ \dfrac{\varDelta y}{\varDelta x} }$$の極限$${ \displaystyle\lim_{\varDelta x \to 0} \dfrac{\varDelta y}{\varDelta x} = \dfrac{dy}{dx} }$$を考えていた。つまり、$${ \varDelta x }$$が$${ 0 }$$に近付けば割線が接線に近付く。これが微分の定義$${ \displaystyle f'(x) = \!\lim_{\varDelta x \to 0} \dfrac{\varDelta y}{\varDelta x} = \!\lim_{\varDelta x \to 0} \dfrac{f(x + \varDelta x) - f(x)}{\varDelta x} }$$になる。微小に近づけた$${ dx }$$と$${ dy }$$のことを微分と呼び、このため導関数である$${ \dfrac{dy}{dx} }$$を微分商とも呼ばれる。

図2.2)接線と割線の関係

この古典的な考え方に対し、最初から接線で考えれば$${ \varDelta x }$$の極限を考えずとも、直接$${ f'(x) = \dfrac{dy}{dx} }$$を得られる。しかも$${ dx }$$が微小である必要が全くなく、任意の大きさに決められる。

2.3 微分対象と微分変数の結び付け

ライプニッツの記法では、分子に微分対象を書き、分母に微分する変数を書く。例えば、$${ \dfrac{dy}{dx} = \dfrac{df}{dx}(x) = \dfrac{d(2x)}{dx} }$$ではそれぞれ従属変数$${ y }$$、関数$${ f }$$と表示式$${ 2x }$$が微分対象で、独立変数$${ x }$$が微分する変数と読める。

この中、定義1.1に基づく$${ \dfrac{d(2x)}{dx} }$$が分かり易く、$${ x }$$の関数である$${ 2x }$$を$${ x }$$で微分する意味となる。$${ \dfrac{dy}{dx} }$$と$${ \dfrac{df(x)}{dx} }$$も$${ y = f(x) = 2x }$$と思えば同様に解釈できる。

対し、定義1.3に基づく$${ \dfrac{df}{dx}(x) }$$では関数$${ f }$$を$${ x }$$で微分した導関数$${ \dfrac{df}{dx} }$$が$${ x }$$を独立変数とする関数という表記になる。これは暗黙に$${ \dfrac{df}{dx} }$$の時点で$${ f }$$に$${ x }$$を代入してから$${ x }$$で微分する、更に微分の結果が$${ x }$$の関数と解釈した方が無難である。

一般に、$${ f(x) }$$では、関数自体を表し$${ (x) }$$が任意に書き換えできる独立変数か、代入した結果を表し$${ f(x) }$$で$${ x }$$で記述される式かが曖昧である。独立変数を$${ f{:}x }$$、代入を$${ f\!.x }$$と書き分ければ、ライプニッツの記法を全て定義1.1に基づき解釈できる。具体的に、定義域を$${ S }$$として、内包表記を使えば、$${ f{:}x = \{ (x,f(x)) \,|\, x \in S) \} }$$であり、$${ f{:}s = \{ (s,f(s)) \,|\, s \in S) \} }$$である。独立変数は内部変数なため、変数衝突しない限り任意に書き換え可能で、$${ f{:}x = f{:}s }$$は保証される。

すると、$${ f{:}x }$$だろうと$${ f{:}s }$$だろうと同じ関数$${ f }$$に変わりなく、$${ x }$$による微分は必ず$${ x }$$を代入した式に対しての微分と解釈する必要がある。独立変数に対する微分と解釈すると、独立変数の任意性に苦しむことになる。

  $${ \dfrac{df}{dx} = \dfrac{df{:}x.x}{dx} = \dfrac{df{:}s.x}{dx} }$$

さらに、微分した結果がまた関数であり、$${ x }$$で微分した式は$${ x }$$は習慣的に$${ x }$$の関数になる。しかし、導関数としては独立変数は何でも良く、任意に書き換え可能である。

  $${ \dfrac{df}{dx}(x) = \dfrac{df{:}x.x}{dx}{:}x = \dfrac{df{:}s.x}{dx}{:}x = \dfrac{df{:}s.x}{dx}{:}t }$$

合成関数の場合、$${ \dfrac{df(x(t))}{dt} }$$は代入した$${ t }$$の式を微分する意味になる。

  $${ \dfrac{df(x(t))}{dt} = \dfrac{df{:}(s).x(t)}{dt}{:}(t) }$$

対して、$${ \dfrac{df(x(t))}{dx(t)} }$$は代入して$${ t }$$の式になるが、同時に$${ x(t) }$$の式でもある。それを$${ x(t) }$$の式と見なして$${ x(t) }$$で微分する。

  $${ \dfrac{df(x(t))}{dx(t)} = \dfrac{df{:}(s).x(t)}{dx(t)}{:}(x(t)) }$$

まとめ

以上は、関数と常微分の読み方についてまとめた。注意すべきは、式の意味自体は微分の定義に従って全て同じであること、あくまでも表記の成り立ちから同じ意味を表す仕組みが微妙に異なっていることに過ぎないこと。これらを知っていることで、式を少しでも読み易く感じれば良いと思う。

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