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引きこもり 

3000文字小説

もう何日だろう…わたしが部屋から外に一歩も出なくなってから。いちいち数えたりもしないし、数えたこともない。
だから今日が何曜日で何月何日なのかも把握していない。
ま、いいか。わたしに時間など関係ない。
だから時を刻むものは置かない。
ある日、家族を不慮の事故で亡くしてからというもの、部屋に引きこもってしまった。
もうなんにもヤル気も起きない。ただ、本を読んでみたり映画を鑑賞してみたり、やることといえばそんなことだ。近くのコンビニにさえ行かない。すべて部屋の中で、こと足りてしまう。食べ物や必要なものは通販で買えばいい。
人に会いたくもないから、購入したものはいつも玄関の入り口付近の外に置いてもらっている。 
代金は口座引き落としにしてあるから問題ない。
面倒くさい、人と話しをすることも気を使うのも。
わたしは、24歳のOLをしていた。先日まではね。普通に過ごして働いて、帰ってきたら家族と過ごして楽しい日々を送っていた。あの日までは…。
近頃は人も来なくなった。外には定期的に注文してある通販の商品が溜まりつつあった。
そろそろ取っておかないと…と思いつつも億劫になっている。
わたしは、放置気味のネットのオンラインゲームを久しぶりにプレイしようと電源をONにして、近くにあったお菓子に手を伸ばした。袋の中からゴソゴソと黒褐色の虫のような動きの素早いGが出てきて、驚き飛び跳ねる。何故?Gが…
ま、いいかとお菓子はゴミ箱に投げ捨て、別のお菓子を開封してパクついた。
少し小腹が空いていたので、キッチンの上の棚からカップ麺を取ろうと、脚立を運んできて登ると足元がふらついて落ちてしまう。あたたたたッ…もうッ
小さなミルクパンに水道から水を入れてコンロに火をつける。
沸騰するまで2〜3分はかかろうか…めんどくさいなぁ。電気ポットでも買おうか。
ミルクパンがブクブクと沸騰したので、カップ麺のビニールを剥がす。しかし、ビニールはピッタリとくっついているために剥がすのにひと苦労。仕方ないから包丁でプスッと切れ込みを入れてそこから何とか剥がした。
ぺり…と上の蓋の紙を剥がすと、再びビックリしてカップ麺を投げ飛ばす。な…な…な…何?あれ?
床に落ちたカップ麺の中身が床に散らばると中から蠢く物体が…。う、う、う、蛆虫?
カップ麺だよ?これ。蛆虫なんて湧くわけ?
棚には50個くらい保存してあるカップ麺がある。
まさか…あれ、全部?そんなことがあるなんて知らなかった。
もう食べ物はない。冷蔵庫を開けると水とバターとマヨネーズくらいしかない。食欲を一気に無くした私はペットボトルのドリンクを持って戻る。
ヌルいドリンクで喉を潤しながら流し込むと、オンラインゲームのホーム画面が表示されて音が流れる。
ド…ド…ドド…ドドド…と重低音が鳴り響き、コントローラーに手をかける。
重低音は当初はオンラインゲームのものかと思われたが、そうではなかった。
隣…?隣の部屋の隣人が壁を叩いているらしかった。
音がうるさいのね。分かってますよ。とばかりにモニターの音を気持ち少しだけ落とした。モニターから雑音がザザ…ザザと備え付けのスピーカーから出ていた。
ガリひどいなぁとか思ってスピーカーに八つ当たりするように叩くとピタッと治った。
お!Kちゃん久しぶりだね〜とチャットが流れてくる。
はぁ、お久ッ、ちょっとね…家庭で不幸がありまして。
オンラインゲームの仲間は、わたしが唯一気を許している人たちだ。kちゃんさぁ…暗くなる気持ちはわかるけど、そうだッ気分転換にマッチングアプリでも始めたら?
マッチング…?なにそれ、わたし知らないし興味ないなぁ。スマホアプリでしょう?わたしはオンラインの仲間だけでいいわ…と送信。
kちゃんらしいね…笑相変わらず引きこもってんの?
うん…まあね。人と顔を合わせたくないし会話するのも気を使うからね。
分かる分かる、俺もそうだよ。
そういえばMちゃんのこと聞いた?
どうかしたの?
アイツさ、自殺したんだよ。kちゃん知らないでしょ。しばらくオンラインしてなかったから。
しばらくって…そんなにあいだ開けてないと思っていたが、聞き流す。それで?
薬飲んで錯乱状態さ。ODしたんだよ。
OD?何それ?
オーバードーズも知らないの?
まぁ、とにかく風邪薬とか多重に服用してさ。
ふ〜ん、いろいろあったんだね。
話すことが面倒くさくなったわたしは、一旦オンラインから離れた。ふぅ…わたしにしては、頑張って話せたほうかな。
オンラインゲームに飽きた私は動画サイトを流し観ていた。
わたしがよく観ている心霊系やオカルトな動画を自動再生リストを作って垂れ流しして流し観て過ごす。それ以外の動画はオススメリストにならないため、それしか観てない。
映っていたのは、特定の情報ばかりをアップしている人たちで彼らの専門は、事故物件などに入りこんで調査したり探検したりするような連中でくだらないところがわたしには好みだった。そのとき、ガチャガチャと入り口付近で音がしたような感じだった。
わたしは、また誰が来たのか?と思った。
最近、多い不可思議な現象なのかそれとも通販サイトの配達員が溜まった荷物の検査で訪ねてきたのかとあまり気にしてはいなかったが、こう毎日になるとさすがに気になりだしていた。
なんなのよ…もう。ほっといてほしい。
わたしは再び動画に目を向けていた。すると…ガチャ…とドアが開いたのだ。マジなの?
怖くなった私は急いで押し入れに身を隠した。隠れる必要はなかったがそのときは、何故か反射的にというか隠れてしまったのだった。入り口付近で何やらヒソヒソと声が聞こえてきた。男?それも一人ではないようだ。そぉ…とゆっくりと風呂場を覗いてみたり部屋の中を物色し始めていた。
強盗かしら…?怖いと、押し入れの中のわたしはブルブルと震えていた。わたしが不意に押し入れのドアに当たってしまい、ドンッと音を立ててしまうと、わたしよりも彼らのほうが驚いた様子で飛び上がるように出て行ってしまった。
ふぅ…良かった、と入り口の鍵が閉まってることを確認すると再びモニターの前にきてオンラインの仲間に今の出来事を知らせようとしたが、何故か電源が入らない。
なんで?さっきまで普通についていたのに。
彼らがあちこちいじってショートしてしまったのかもしれないと仕方なく動画でも見ようとした。
動画の連中はライブ配信していたようだ。
あ〜あ、面白いところを見逃してしまったじゃないの。とわたしは悔しがっていた。
今回はどんな家だったのかしら?
連中がいうには、事故物件の中で幽霊を目撃したようで中の様子を説明していた。
どうやら、数年前から心霊現象が起こると話題の家らしい。アパートか?
わたしはひょっとして隣りの部屋と勘違いしたのだろうと思った。さっきもドンドンと壁を叩く音がしたし。
隣りの住人とは顔を合わせたことはない。だからどんな人が住んでいるのかさえ分からない。
しかし、ことは思わぬ展開を迎えていた。
それから時間を置かずして警察の関係者が数人入ってきた。
おおかた、近くの交番の巡査といったところだろう。
あなたたちね!おかしいのうちじゃなくて、隣!さっきからガタガタうるさいんです。何とかしてください。と言っても無視されてる。警察関係者は、写真やら現場検証を始めた。
何なの…え?どういうこと?
わたしの視線の先には、腐って腐乱したわたしがいた。

完〜

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