小説「Re:Maria -天使と悪魔-」ー設定資料集ー

 この設定資料集には物語のネタバレが多数含まれます。本編をご一読頂いた後に参照されることをお勧めします。

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 ※ネタバレを気にされない方は予め資料をご一読された後に本編をご覧頂くと各種設定がより明確にお楽しみいただけます。
 ※小説「Re:Maria -天使と悪魔-」の設定資料集です。

【この物語はフィクションです。作品に登場する人物・団体・名称などは実在のものとは関係がありません。】

作中舞台:西暦2031年12月 ハンガリー

登場人物編

世界を旅して回る青年

フロリアン・ヘンネフェルト
 ドイツ連邦共和国、ノルトライン=ヴェストファーレン州ミュンスター出身の青年。物語開始時において21歳。(人柄などについてはイベリスの箱庭の設定資料集へ。)
 ギムナジウムでの教育課程を修了後、自身の知らない知識や経験を得る為に世界を旅して回る事を決めて実際に多くの国々を巡っていた。旅の中で、あるいきさつにより最後に訪れた国がハンガリーである。

 学校在籍中に周囲が次々と将来の事について決めていく中、彼は己の将来を考えた時に何も浮かべる事が出来なかった。たった一度しかない人生において自身の本当にやりたい事、求める事が分からない。ある時、それは自身の知らない物事が多すぎるからだという結論を導き出し世界を巡る旅をスタートさせる。
 彼がその旅によって求めたのは、知らない知識や経験を得る事だけでなく、それによって自身が為したいと思う事に対する【答え】を得る事である。
 しかし最後の地であるハンガリーに辿り着いて尚、その答えは見つからないままだった。

 ハンガリーへ到着して2日目の朝、フロリアンは朝食をとりにカフェへ向かう道中でマリアと運命的な出会いを果たす。その出会いがきっかけとなり、最終的に自らが求める答えの在処に辿り着く。
 マリア達との紆余曲折を経て西暦2032年に世界特殊事象研究機構(詳細はイベリスの箱庭の設定資料集へ。)へと入構を果たした。

 余談ではあるが、本作中での出来事以後もマリアとは個人的な親交を保ったままである。年に一度か二度、夏季や年末に長期休暇が取れた際には二人、又はアザミも含めた三人で過ごしたりしている。
 尚、イベリスの箱庭の物語開始時点においてもマリアの本当の所属や、彼女とアザミの正体についても一切知らないままである。


国際連盟

マリア・オルティス・クリスティー
 国際連盟 機密保安局 局長。国際連盟内でも限られた人間しか知り得ない幻の第6部門、通称セクション6を取り仕切る組織の長。セクション6はまたの名を【存在しない世界】ともいう。(詳細はイベリスの箱庭の設定資料集へ。)
 国際連盟における事実上のトップであり、世界各国の首脳に対してですらある程度意向を指図できる命令権を持ち合わせるなど絶大な権力を持つ。

 彼女が担う立場の大きさとは異なり、見た目の年齢は10歳代の少女そのものである。誰もが一目見て視線を奪われるほどの端麗な容姿を持ち、ややウェーブのかかった金色のミディアムヘアに、まるで宝石のような透き通るような赤く美しい瞳をしている。
 普段から黒のゴシックドレスを纏い、見た目相応の天真爛漫さと無邪気な笑顔を絶やす事が無い。しかし、その振る舞いの中には徹底して教育を施された貴族を思わせるような上品さや気品が見え隠れする。

 今回の作中で彼女は、ハンガリーとセルビア国境付近に置いて力の弱い難民ばかりを襲撃して殺害する「難民狩り」とまずは直接会う事を目的としていた。
 立場上、公務としてそうした行為を直接行う事は難しく、他の理由(軍事機密漏洩と犯罪手引きが国連内部から行われた可能性)から【クリスマスバカンス】という名目を使って秘書官であるアザミと共に自らハンガリーの地に訪れる。

 ハンガリーに到着して2日目の朝、アザミと共に朝食をとりにカフェへ向かう道中でフロリアンと運命的な出会いを果たす事になる。
 彼女はフロリアンに出会った瞬間から彼の特異性(別項目において後述)を目の当たりにすると共に、既に他界した自身の父親の面影を彼から感じ取る。
 難民狩りを追いかける為に必要な駒・道具としてフロリアンを扱いつつ、一人の人間として彼と関わっていく中で彼女の中で次第に感情の変化が起き始めた。
 その結果、最終的に遠い過去の呪いとも呼べるトラウマ(悪夢)を超克し、精神的な大きな変化(成長)をもたらす事に繋がった。

 小説タイトルである「Re:Maria」とは「(精神的な)生まれ変わりを果たしたマリア」の意である。

 本編終了後においてもフロリアンとは個人的な親交を保っている。(特別な想いがあるからというだけではなく、ハンガリーでの一件によりロザリアに目を付けられた可能性などを考えて、危険からの保護と監視の側面も兼ねて。)
 しかし自身の所属や正体については秘匿したままである。自身の経歴や正体、そして立場として背負うものの大きさをいつか彼に伝えた時、彼がどういう答えを出すのか内心で期待をしている。
 それと同時に、彼という人間が変わらなければ自身の思う結論と同じ答えを出すだろうと信じてもいる。
 そしていつか、自らが犯すであろう最大の罪を彼の手によって裁かれる事を望んでいる。
 現状は互いが特別な存在だと認め合いつつも恋人未満という関係であり、その一線を越える事は無い。

 普段はスイスにある国際連盟本部のとある区画か付近の自宅で過ごしている。
 スイスで生活している事と、その役職の事も相まって話す事が出来る言語は多く、現在判明している使用言語だけで「スペイン語」「イタリア語」「フランス語」「英語」「ドイツ語」「ロマンス語」がある。
 加えて簡単にではあるがハンガリー語も少し覚えているようだ。ある理由によって日本語と文化も勉強している様子。
 
 他者を信用しないという所から派生して【何でも自分でしてしまう】という完璧主義な側面があり、事実それを実現できてしまう才を持つ。
 言語習得以外に、料理や裁縫などに関してもプロ顔負けレベルの腕前を持っている。
 淑女の嗜みとして母から徹底的に教え込まれたものが根底にあり、それを元にさらに独学で現代に至るまでの間に徹底的に腕を磨いた事による。
 ただし、作中でも語られたように料理などに関しては、それだけの腕を持っていながらも滅多にする事がない。
 どちらかというと他者に教える事の方が好きなようで、その知識や技術はアザミであったりセクション6で働いてくれている職員によく教えているらしい。(アザミがジュースを作ったのもマリアの手ほどきによるもの。尚、メイクや服飾、写真撮影に関してはアザミの独学による。)
 アザミによると、車の運転技能も自身よりマリアの方が上手らしい。

 普段の茶化したような言動とは異なり中身は非常に真面目であり、真面目であるが故に抱え込むストレスも多い。
 アザミからはその事を頻繁に心配されている。

 余談だが、本人曰く身長は150cm有る。しかし実際はそれよりもやや低い。ヒールの靴を普段から履く事でその数字を越えている為、実質常に150cm以上という事らしい。

 彼女のモチーフとなる花は【マリーゴールド】。「嫉妬」「悲嘆」「絶望」「予言」という花言葉が示す理を持つ少女である。
 フロリアンと行動を共にして以降は「可憐な愛情」「太陽の花嫁」「逆境を越えて生きる」「いつも傍にいてほしい」といった花言葉の側面を表出させている。

 ※マリアの持つ特別な力や生い立ちについては別項を参照。


アザミ
 国際連盟 機密保安局 筆頭秘書官。常にマリアの傍らに控える人物。黒のスーツやゴシックロングドレスを身に纏う事が多い。
 非常に上品で淑やかな気品溢れる女性で、一目見ればその美しさは理解できるのだが、つばの大きい帽子やベールを常に被っている為、口元以外の素顔はまったく見る事が出来ない。

 マリアを庇護する事が彼女の行動における最大優先事項であり、基本的にマリアの意向こそが行動理念の全てである。
 筆頭秘書官らしく徹底された迅速で正確無比な仕事ぶりは第三者視点から見ても驚愕の領域。

 写真撮影が大好きな一面もある。これはマリアが笑顔でいた時の思い出を永遠に残しておきたいという彼女なりの心情の表れ。
 そういった理由の為、自身が写真に撮られる事に関しては極度に苦手としている。
 同じ理由でフェイスメイクやヘアメイク、ネイルや服飾といったマリアをこの世で最も可愛く輝かせる為の情報収集や技術習得といった努力には余念がない。

 そんな彼女の正体はかつて人間により神と呼ばれ崇められたもの、いつしか人間によって悪魔へと貶められ蔑まれたもの、人々が化物と呼ぶ存在。地球における数千年、万年に及ぶ長い時を過ごしてきた超常の存在である。
 元々の根本となる1柱の神に加え、『復讐の女神たち』と呼ばれる3柱など多くの神々を取り込んで存在を為す。その中には神だけでなくグリモワールの悪魔達も含まれているとされる。
 遠い昔に死の淵に直面していた瀕死のマリアを自身の権能により救った存在(別項目にて後述)。

 彼女の正体を知るものはマリアと、ヴァチカン教皇庁に在籍する総大司教であるロザリア(後述)のみである。

 そうした存在でありながらも、上記記載の写真撮影に加えて、料理をしたりメイクをしたり裁縫をしたりと、長い時をマリアと過ごす事ですっかりと人間世界の俗世間に染まり切っている。

 ちなみにそれらは全て【マリアの笑顔を見る為に】行っている事である。
 全て『マリアの為に』。マリア第一主義の実践者であり、マリアの狂信的な保護者。

 余談として彼女の人間形態における身長は176cm。ヒール靴を履く事で普段から180cm以上の身長となり、大きな帽子を被る事でさらに身長が高く見える。マリアと並ぶとその差が際立つ。
 神、又は悪魔としての能力を顕現させた状態での体長に関しては計測不能。
 
 彼女のモチーフとなる花はその名の通り【アザミ】。報復の理を司る。
 本来は別の正式な名前があるはずだが、本人はマリアから贈られたこの名前を特に気に入っている為、その名前以外で呼ばれる事を好まない。
 ※アザミの花には聖母マリアにまつわる逸話もある。


マリアとアザミのお目付け役の老女
 国際連盟 機密保安局に在籍する職員の一人。他の職員たちを取りまとめるリーダー的存在であり、二人が留守をするときはセクション6を預かる身となる。半世紀の時をマリアとアザミと共に過ごす老女。
 全世界で唯一、ただの人間の身でありながら世界の頂点とも呼べるマリアと神そのものであるアザミを正座させたまま数時間もの間に渡り説教をする事が出来るような特異な人物。
 ただし、その説教や度を過ぎた心配性も彼女達二人に対する深海より深い愛情と天上を越えた忠義によるもの。二人もその事はよく理解している為、面倒くさいとは思いつつも一切悪くは思っておらず、親しみを持って接している。
 マリアが自身の本心を語る事までは無いものの、気を許している数少ない人物の一人。アザミとはマリアの熱狂的な保護者として仲が良い。

 マリアは本作中でフロリアンとデートまがいの行為に耽っていた事をこの人物に察知される事をやや恐れている。アザミは狂信者同士として積極的にばらそうとしている節がある。



世界特殊事象研究機構
(World Abnormal Phenomenon Research Organization)

レオナルド・ヴァレンティーノ
 世界特殊事象研究機構、通称W-APRO(ワープロ)のトップに立つ人物。総監。(人物詳細はイベリスの箱庭の設定資料集へ。)

 ハンガリー、ブダペストの地で開催される国際連盟主催 特別総会(難民問題解決に向けた取り組みについて)へ出席するために同国を訪れた。
 世界を代表する巨大な国際機関である機構も一国家と同じく、諸問題に対する取り組みの責任を負うべきだという声に応えて難民問題解決に向けての施策を作中で発表。諸外国と同じように受け入れを行う方針を表明した。

 その他、マリア達が追っていた難民狩り事件について犯人が使用していた特殊擬装(軍事兵装)の解析を機構本部へ命じて行わせるなどした。

 マリア達とは旧知の間柄。機構の設立に関して彼女が深い助力をしてくれた事に対して今でも感謝の念を抱いている。


フランクリン・ゼファート
 世界特殊事象研究機構、通称W-APRO(ワープロ)の重鎮。将官の立場である司監を務める。
 機構設立時よりレオナルドに付き従う人物。(人物詳細はイベリスの箱庭の設定資料集へ。)

 今回はレオナルドと共に国連主催の特別総会へ出席するためにハンガリーの地を訪れた。あらゆる面でレオナルドの補佐を行い、彼からの信頼も非常に厚い。

 レオナルドと同じく、国連 セクション6のマリアとアザミとも旧知の間柄であり、彼女達から逐一送られてくるメールなどをレオナルドへ伝える為の窓口的な役割を本小説では果たしていた。
 彼女達からのメールや依頼が来る度に常に振り回されている苦労人。


事件を起こす者

難民狩りの男 ライアー
 ハンガリーとセルビア国境付近において、その地に集った難民を鴨に見立て、自身の享楽を目的として殺害行為に耽っていた男。人種・国籍・年齢などは一切不明。

 生まれてすぐに両親に捨てられ、その後孤児院に引き取られるも後年に脱走。異国の地へ辿り着くも生活の手段を持たずに強盗犯罪に手を染めて生きて来た。
 過去には難民に紛れ込んで不法越境しようとしたこともあったが、現地国境警備隊により即座に捕まり収容所へ送られる。その地でも脱走を企てるが一度目は失敗。あらゆる策を講じた二度目は成功。
 二度目の脱走の際には人並み以上の社交術と知恵を回すようになっており、巧妙な嘘を吐く事から「ライアー」の名称で呼ばれた。
 脱走後にやはり生活の術を持たなかった為再び犯罪行為へ走る。

 事件を起こす直前、不法入国していた国の現地警察により捕まりそうになる中、【プロフェータ】と名乗る謎の人物から『お前は神に選ばれた』という言葉と共に軍事機密と思われる特殊兵装・擬装を渡される。
 その後は渡された擬装を用いて国境付近で殺害行為を自身の享楽として繰り返していた。

 最終的にマリアとアザミの手により、アシュトホロムからリュスケの地へ思い通りに誘導され、自身に擬装を渡した人物の事を彼女らへ話した後にアザミの手によってその命を絶たれた。

 しかし、メディアが報じた彼の死因は拳銃による自殺であった。これはアザミによる隠蔽工作が実を結んだ結果である。


ヴァチカン教皇庁

ロザリア・コンセプシオン・ベアトリス
 ヴァチカン教皇庁に所属し、総大司教(パトリアルクス、又はグランドビショップとも)の地位を持つ人物。万物の生命に対する絶対的な裁治権を個人の立場で有する。

 美しいストレートの金色のロングヘアにどこまでも透き通るような青色の瞳を持つ容姿端麗な10代後半を思わせる少女。彼女がなぜヴァチカンにおけるピラミッドの頂点に近いその地位に就いているのかについては現状は不明。

 マリアとアザミの所属や能力、その過去や正体を全て把握している人物でもある。
 アザミに対して強い憧憬の念と、その感情を通り越した強烈な殺意を抱いている。また、マリアに対しても世界から排除すべき危険な存在であるという認識。
 だが、マリアに向けるそういった認識とは別で、作中でマリアが語ったように特に仲が悪いという訳ではない。例えばどこかの地で出会う事があれば普通に挨拶をして世間話に興じる事も出来るし、誘われればお茶会を楽しむ事も出来る。
 話題によっては殺伐とした茶会になる事必至ではあるが、共にそうした憩いのひと時を共有する事は可能。

 マリアを排除すべき対象に据えている辺りは、彼女が目的とする理想の世界創造を諦めるのであれば何も手は出さないとも言い換える事が出来る。
※ただし、生命の永続性に関する裁治権を有するが故に、生命としての普遍から著しく逸脱しているマリアの在り方(『マリアの生い立ち』や『能力』にて詳細記述)は是正されるべきものだという認識である。その鍵を握るアザミに執着するのもそれがひとつの理由。


マリアの生い立ち

※本項目には小説【イベリスの箱庭】の物語の根幹に関わる部分が大いに関連してきます。同小説の設定資料集と合わせてご覧下さい。
 その他、物語の根幹に繋がる重大なネタバレを含む為、読み進める際はご注意ください。


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マリアの過去
 時を遡る事、およそ千年前。大西洋に浮かぶリナリア島にはリナリア公国と呼ばれる公国が存在し繁栄していた。
 マリアはそのリナリア公国を政治的に統治していた七貴族の内の一家の出身であり、当時を生きていた人間である。

 公国における七貴族の子供たちの内、身近な年代のイベリスやレナト(公国や二人の詳細はイベリスの箱庭の設定資料集へ)とは特に親交が深く、どこに遊びに行くにも付き添うほど仲が良かった。

 当時、マリアはレナトに対して淡い恋心を抱いていたが、それが叶わないという事を理解していた。
 二人から自身に対して直接言われた事は無いが、レナトとイベリスが既に恋仲である事を知っており、国家の政略結婚により二人が結ばれ、次期国王と王妃になるという事を知っていたからだ。
 その為、自らその恋愛感情を表に出した事は一切なく二人の前でも何も知らないフリをしていた。そして、二人の結婚が正式に発表された際にも祝賀パーティーに出席し、二人の幸せの門出を心から祝っていた。
 さらに、いつか自身は他国の見ず知らずの王室か貴族の息子の元へでも嫁ぐことになるのだろうと認識しており、その運命を受け入れるつもりであった。

 しかし、西暦1035年にマリアの人生は大きな転機を迎える事となる。

 領土拡大戦争「レクイエム」により公国は戦火に包まれたのだ。マリアは、自らの祖国が滅びゆく瞬間をその目に焼き付ける事となった。
 マリアは戦争に巻き込まれる気配を感じ取っていた大人達が予め手配していた船によりリナリア公国から脱出するも、祖国が目の前で破壊され、燃やし尽くされる様子と、現国王の娘として島へ残った親友であるイベリスが住まう城が巨石によって押し潰されていく光景を眼前にして心に深い傷を負う事になる。
 その際、脱出の船で隣に乗り合わせたのが次期国王となるはずであった青年、レナトであった。

 亡命後、しばらくの間は自身の両親とレナトとその家族と共に暮らす事になる。
 マリアは、時折レナトが誰もいない場所でイベリスを失った悲しみなどにより一人泣いている事を知っていた。
 ある日、マリアはレナトが泣いている姿を部屋の入り口からそっと覗き見た。その際に物音を立ててしまった事でレナトに覗いていたことがばれてしまう。
 最愛の人を失った悲しみを抱くレナトに対し、マリアはかつて自身の秘めていた感情を抑える事が出来なくなり、イベリスの代わりに自身がレナトを支えると申し出て手を差し出すもレナトはそれを拒絶。
 理解していた事だが実際に想いを寄せた人物から拒絶された事でマリアの心は再び傷を負う事となった。

 その後、マリアは両親と共に違う場所へと移動する事になった。
 しかし、移動先の地でマリア達を待ち受けていたのはこの世の地獄ともいうべき仕打ちであった。
 現在でいうところの難民であり、滅びた国の人間という事で受ける偏見と差別。その地に元々暮らしていた人々から侮辱や暴言、殴る蹴るなどの暴力を受け続ける日々。そんな日常の中でついにマリアの母親は衰弱と病気によって他界、父親も間もなく死に際に立たされた。

 死を前にした父からマリアへ向けての最後の言葉である【生きる為に森へ向かいなさい】という進言によってマリアは森へと一人で赴く事を決意。

 自身の祖国を奪った戦争を憎み、自身の手を取る事を拒んだ人が愛した親友に嫉妬し、自身の両親を奪い、自身を傷つける事しかしなかった人間達の愚かしさを身をもって経験した彼女は世界に対する悲嘆と絶望を抱いた。

 森へと向かいしばらく歩き続けたマリアだったが、ついに歩く力もなくなり、指先ひとつ動かす事も出来ない状態で倒れてしまう。そんなマリアの前に魂食いをする為にある悪魔が現れる。
 それこそ、後にマリアのかけがえのないパートナーとなるアザミであった。アザミが彼女の魂喰いをしようとしたその瞬間に、彼女から発せられた言葉によってアザミは彼女を生かす事を決意。その身を綺麗に治癒した。

 その後、マリアとの間に契約を結び、正式にマリアに従属する悪魔としての主従を確立。契約した際に不老不死の力を彼女へと与えた。
 この時、マリアは自身が内包していた特別な力(未来視)を呼び起こす事になった。

 以後、西暦2031年に至るまでのおよそ千年に渡る歴史をアザミと共に過ごす。
 
 マリアが「他者を信じる事」を極端に避けるようになった理由は過去のこうした経験によるものである。

 ある時を境にして誰にも必要とされず、誰からも受け入れられることのなくなったマリア。
 人間の可能性など信じない。世界の可能性など信じない。
 "この世界に【人の手で作る未来など必要ない。】"
 どれだけ歴史を歩もうとも変わる事のない人の本質と世界の愚かさを正す為に今の彼女は理想を抱いて裏世界で暗躍をしている。

 彼女は箱入りのお嬢様であった過去とは違い、現代では言葉遣いもどこか上から目線であり、挑発的な言動で相手に対するからかいの言葉が出てくることも多いが、それらは裏を返せば【自身の本心を見抜かれる事を極度に恐れている】事の表れでもあると言える。
 物語中において、全てを語ったわけではないにせよ、フロリアンへ自身の心の内に内包する本音を隠す必要が無くなった際の態度の変化からもそれらは見て取れる。
 尚、本作中で言動に対する心情についてはフロリアンに簡単に見抜かれてしまった。

 誰よりも他者を信じようとせず、誰よりも世界を憎んで尚、彼女が本当に求めていたのは、実の所【この世界で自身を必要としてくれる第三者(他者)】であったのだ。

 彼女の本当の願いはただ一つ

自身の持つ特別な力を知らない誰かに、自身の本質を見た上でただ一言

【"君の事が必要だ" と言って欲しかった】

である。


登場人物の持つ特殊能力

マリア・オルティス・クリスティー
所有能力【予言】【預言】【不老不死】【???】

【プレディクシオネス・フュートゥラス《未来予知》】※予言
 自らの意思で万物の未来を視通す力。ある人物や物体の1秒後から遠い先の未来まで、どういう運命・結末を辿るかを見通す事が出来る。
 ただし、見通す未来における【結果】という概念は一つではなく複数存在する為、その人物や物が辿る【経過】が重要となる。

 その様子は一本の樹木が天へ向かうにつれ枝葉に分かれて先端へと繋がる様子と似ている。
 自身や他者の行動によって予言した未来の結果改変がある程度可能。

 例えばAという人物が1年後に交通事故で亡くなるという結果を予言によって未来視した場合、その1年の間には複数の【基点】というものが表れる。

例:人物Aがある時点から1年後に交通事故死する結末を迎える為に必要な基点(ポイント)
 基点① 3か月後に友人とカフェへ食事に行く
 基点② 9か月後に就職する
 基点③ 11か月後に就職した先の同僚と過去に友人と食事に行ったカフェへ行く約束をする。
 結末  ある時点から1年後、カフェへ行く途中で事故に遭い死亡する

 この場合においてはカフェへ食事に行ったことが最初に引金になり、就職した先の同僚と再度そのカフェへ出向くという行為を辿る事で死亡へと繋がる。
 ここでは一例としてかなり厳密に定義をしたが、実際はこれよりもさらにアバウトな基点を辿ったとしても予言した未来へ辿り着く可能性は高い。
※例:『1年後に同僚と食事に行く』のみが成立した場合でも同じ結末を辿る可能性は存在する。

 よって、反対に【人物Aが死亡しない為にはどうすれば良いのか】を数ある枝葉の中から探り当てる事で予言した未来へ結びつけさせるのか、回避させるのかをマリア自身の言動によって選択させる事も可能となる。

 つまりこの場合においては究極的には【1年後、外出する】という予定そのものが因果となる為、
【仲の良い友人と食を囲むのであれば、自宅へ友人たちを招いてみんなで楽しむのも一興だと思わないかい?】
 といった言動を行い、店へ出向くのではなく『外に出る事を回避させる』事で交通事故死の未来から結末を遠ざける事が可能である。
 反対に
【都会のお洒落なレストランもたまには悪くないのではないかな?そうだ、私がとっておきのお店を紹介しようじゃないか。】
 などと敢えて交通量が多い場所へ誘導する事で確実に交通事故に遭う未来へ導く事も可能だ。

 重要なのは『いつ・どこで・誰が・何をして・どうなった』というような行動における結果(基点)の積み重ねである。
 この能力によって視た未来を元にマリアは国連の他セクションや各国首脳に対して助言という形で干渉する事で自身の思い通りになるような結末を引き寄せている。

 予言によって自身の未来もある程度先まで常に視ている為、反射的な危険回避行動を取っている。
 例えば、後ろ向きで歩くと3秒後に他者とぶつかる。又は5秒以内に次の曲がり角へ差し掛かると他者とぶつかる。などである。
 本来であればこの常時発動させている予言によってフロリアンと衝突する事は有り得ない事象であった。故に、自身の能力がまったく通用せず、危険回避どころか存在そのものを察知できずに曲がり角で衝突してしまったフロリアンの存在には出会った当初から、あらゆる意味で相当な衝撃を受けていたのである。
 ※この事をリュスケの地でロザリアへ伝えた際、彼女に怪訝な表情を浮かべられたのもロザリアがマリアの持つ予言の力をよく知っており、詳細まで熟知していた為。

【プロフェシィア《預言》】
 上記の予言とは異なり「確定された未来」を予知する事を指す。自身の意識によって視通す未来ではなく、無意識によって見える天啓や啓示ともいうべき予知能力。
 この能力によって視た未来は【既に決定された事実】である為、改変する事は基本的に一切できない。

 本作中における預言はリュスケの公園で見たものだが、【犯人と対峙】し【犯人が銃を撃つ事】で【必ず犠牲者が出る】というものであった。
 この点で重要なのは【誰が】という部分だけが抜けていた事である。
 その場にいたマリア・アザミ・フロリアン・子犬の内、自身とアザミについては銃で撃たれた程度でどうにかなる体ではない為犠牲者の対象からは除外出来る。
 つまりあの場においては犯人と対峙する事でフロリアンか子犬のどちらかが確実に死ぬという未来が決定されていた。
 マリアは預言の回避を試みるも結局は子犬が銃撃によって死亡するという結末を迎えている。
 
 尚、こうした『悪い預言』を見る前には前兆として過去の悪夢を見るという別の予知も働く。それはマリア自身が何らかの予感を察知している(いわゆる第六感や虫の知らせなど)からなのか、能力による付随効果なのかは定かではない。

 フロリアンとの出会いによって悪夢から解き放たれたマリアが今後、悪い預言を垣間見る前にどのような状況を迎えるのかは現状不明である。

【不老不死】
 アザミと契約する事によって得られた身体的能力。切り傷など小さなものであれば言うに及ばず、例え体の一部が吹き飛ぼうとも即座に自己再生するほどの強力な治癒能力と肉体の老化停止が合わさっている。
 千年前から変わらない少女の姿でいるのはこの為。

 ただし、どんな身体的損傷でも即座に回復するとはいえ、痛みが無いわけではない。痛覚は普通の人間と同じである為、絶対に死なないと分かっていても痛そうな事は当然本人が避けている。
 一見無駄とも思える常時発動の予言による危機回避を行うのもその為。

 又、魂の形作る輪郭に沿って光の集合体として顕現するイベリスとは違い、マリアは千年前の肉体を完璧なままで常に維持し続ける為、今を生きる人間として存在し続ける事が出来る。

 この力によって肉体面は完璧なままで居続ける事が出来るが、精神面は人間のものと変わりない。
 その為、精神的な側面はアザミからよく心配されている。
 人生を何周もしたような達観、諦観した物の見方や過去の知識、どこか人生を冷めた目で見ている様子はフロリアンにも伝わっていた。

 尚、完璧な肉体を全盛のまま維持し続ける事は可能ではあるが、マリアは生殖能力を失っている。
 未来を視通す目をもつ代わりに、未来を生み出す力は失われた。

【ラプラスの悪魔】※マリア・インペリアリス
 彼女が内包する秘められた能力。今後の作品展開で明らかとなる。


アザミ
所有能力【内包する神と悪魔の権能】
 自身が取り込んでいる神と悪魔の持つ権能や力を制限なく最大級に使用する事が出来る。作中で使用した能力は下記の通り。

【空間遮断】
 作中において難民狩りの犯人に神罰を下す際に外界から隔絶した空間へ自身と共に閉じ込めた。

【無数の棘】※神罰
 何物をも貫く黒い棘。全方位から対象に向けて数限りなく打ち出す事が出来る。遮断された空間内では角度、距離共にレンジ無制限。
(『刺される対象となる物体を棘が貫通した』という結果を概念化した後に実際の棘が顕現する。実際の表出よりも結果の方が先に有る為、どんなに硬度のある物体でも貫通する事が出来る上に回避する事が出来ない。)
 作中では難民狩りの男に向けて無数の棘をどこからともなく顕現させ続け、対象が絶命するまで急所はわざと外しながら串刺しにし続けた。
 最終的に血で真っ赤に染まった犯人であった肉塊は棘の上に花を咲かせるアザミの花そのもののようにして宙に浮かぶことになった。
 アザミが攻撃として用いる能力は総じて【神罰】の名で呼ばれるが、その中の一つ。

【自己分裂】
 作中でフロリアンと対話を行う為に切り離した自身の影。マリアの傍から離れることなく目的を遂行するために使用した。
 影は一度に何体でも投影する事が出来、さらに本体からどれだけの距離離れていようとも意思共有も可能で、遠隔地にいる自身そのものとしてふるまう事が出来る。(その点で言うとイベリスの持つ能力よりも圧倒的な上位性能を誇っている。)
 ただしやはり影は影である為、本体よりも使用できる能力が極端に制限される。空間遮断などの大きな力を行使する事は難しい。
 余談ではあるが、能力制限を除いて本体と寸分違わぬものであるはずなのに、マリアには影か本体かは簡単に見抜かれてしまう。
※その影(対象)に【未来があるか】を瞬時に読み取っている為だと思われる。予言の力の応用。

【遠隔監視】
 フロリアンの安全の為、イシュトヴァーン大聖堂にいるロザリアを監視する目的で放っていた【目】。
 現実空間において存在を認識する事が出来ない、透明な超高性能監視カメラといったようなものである。

【魂喰い】
 特にしなければ存在し続ける事が出来ないという訳ではないが、定期的に人間の魂を喰らっている。※魂を喰らう事で力の増強は可能。
 アザミはその人物の持つ魂の色を見る事が出来、その色合いによってその人物が抱く現在の感情を読み取ることも出来る。
 マリアのような金色の輝く魂が極上のご馳走である事に対して、難民狩りの男のような貧しい色の魂は道端に転がる砂利を噛み締めるようなものだという。
 それでも「無いよりはまし」というのは自身の能力の限界値を僅かでも引き上げる為に有効である為(この行為が他の能力発動の条件となる場合がある。※後述)。

【人体複製】
 詳細は不明。自らが絶命させた難民狩りの男・ライアーの死体を偽装し、死に至るまでの過程をでっちあげ現地警察やメディアを欺いた。
 複製された人体は現代科学をもってしても本物と見分ける事は困難という。この能力を使用する為にはその人間の魂を自身に取り込むための魂喰いをする必要があるとみられる。

【治癒】
 千年前にマリアに施した再生治癒。どれだけ酷い損傷を受けていたとしても100%元通りに再生させる事が出来る。



ロザリア
所有能力【裁治権】【サイコメトリー】【生命創造】【洗脳】

【生命に対する絶対的な裁治権】
 裁治権という言葉そのものの本来有する意味についてはここでは記載しない。
 ロザリアが持つ生命に対する裁治権とは『この命はこうあるべきだ』という生命の秩序を監視・監督し、その範疇から逸脱しようとするものを改めさせる能力を指す。
 また、それを実現可能とする為に本来人の身では有り得ない、神に連なる特別な力である権能を持ち合わせている(現時点での詳細は不明。)
 生命の秩序を乱すような者に対しては迷うことなく天罰という名の裁きを与える。

【サイコメトリー】
 人物、物体問わず万物の過去を視通す能力。
 通常サイコメトリーとは対象となるものに触れる事で過去の記憶を読み解く能力を指すが、ロザリアの持つ能力は対象に触れるだけではなく視線を合わせるだけで行使可能である。
 マリアの持つ予言や預言といった未来予知の能力とは真逆の性質を持つ。

【生命創造】
 実際の人間と見紛う程精巧に作られた人形に意思を持たせて行動させる事が出来る。
 リュスケの地で自身の取り巻きとして連れていた修道女たちは全てロザリアの手によって作られた人形である。
 本来、紛い物の生命を生み出す事は神に対する冒涜として忌避される事象であり、生命の裁治権を有する彼女の持つ能力として矛盾があるように思われるが、ロザリア本人にとって、その人形たちが厳密には ≪生命≫ としてカウントされていないという事に基づき得られている能力。
※この点を補足すると、彼女のもつ裁治権の適用範囲とは言い換えれば【彼女が生命であると認識しさえすれば対象として効力を発揮できる】という事も意味する。

 一般の人々からすれば、それはどこからどうみても一人の人間としか見えない程精巧に作られているが、マリアには遠目からでも紛い物の生命、つまり人形であると簡単に看破された。
※アザミの影を看破する際と同じく、人形そのものに【未来が無い】という情報を予言の力を用いて見抜いている為だと思われる。

 尚、この人形たちはいくらでも創り出す事が出来るが意思を持たせて運用できる数には限界がある。
 現在のところ、同時に運用できる限界数は10人とみられている。アシュトホロムにおいて連れていた人形の数は4人であった。

【洗脳】
 ロザリアの容姿、雰囲気、声質、役職とサイコメトリーの能力を併せ持って初めて実現できる強力な力。
 どんな人間にも過去の経験による弱みが存在する。魂という連続する糸が持つ綻びである。彼女はサイコメトリーでそれらを読み取った上で、最も効果的に懐柔できる対話内容と自身の持つあらゆる素養をうまく組み合わせて用いる事によってどんな人物であっても自身の狂信者へと変貌させてしまう。

 狂信者に変貌させた後の始末が大変なので、自身の目指す理想の為に必要な時を除いてむやみには使いたがらない。しかし、本能力こそがロザリアの持つ能力を総合した上で得られる最上級の力だと言える。

 作中においては、マリアと親密な関係となったフロリアンを懐柔する目的で使用したが失敗。
 本来であればどんな人物に対しても効力を発揮する能力ではあるが、フロリアンに対しては効力を十全に発揮する事が出来なかった。
 洗脳が完成する寸での所で彼の意思によって拒絶されたのである。その事実にロザリアは内心驚いたが、その前にマリアの能力が彼に通用しないという情報を得ていた為にそれもまた然りとすぐに認識を改めた。


マリアとロザリアの相互間能力無効化
 マリアとロザリアはお互いの能力をお互いに対して使用する事が出来ない。厳密にいえば行使しようとすることは出来るが【効果が無い】。
 それは未来と過去という相反する概念のぶつけ合いとなり効果が相殺されるという理由の為。
 単純に言うと作中でマリアが言ったように【相性が悪すぎる】という事になる。
 

作中登場その他(細かい設定)

擬装(漏洩した機密兵装)
 ライアーが国境線付近において難民狩りの犯行をする上で使用していたもの。完全なるステルス性能を求めて開発されていたとみられる特殊兵装。
 従来の飛行機などに搭載されていたステルス機能というものはレーダーを反射する事で『限りなく探知されにくい』状況を作り出すものであった。しかし、この兵装によるステルス機能というのはそうした大型兵器ではなく兵士が着用する事を前提として『機会による探知、及び機械や肉眼で視認する事が不可能』という領域にまで達したものである。

 人間が着用し機能をONにする事で、完全に透明となって周囲の風景に溶け込み、人間や機械の視界から文字通り『消える』事が可能な性能を持つ。

 光学特性を過激に変化させることによる電磁誘起透明化現象を再現する事を根本原理としているとみられる。また、赤外線による熱探知を無効化する為、素材には熱伝導を遮断するニッケル酸サマリウム(SmNiO3)を使用しているようである。

 戦場で兵士が着用した場合、敵にとっては『何も存在しないはずの場所』からの攻撃が可能となるなど、戦争の在り方そのものを大きく変えてしまう程の力を持っている。
 
 西暦2030年代における監視カメラや監視ドローンと言った類の監視機器は非常に発達したものであるが、それらをもってしてもこの兵装を着用した者を発見する事は不可能である。

マリアとアザミの乗る車について
①車種を決めたのはマリア
 生命の持つ「魂の永続性」というテーマがあるところに共感を見出したと思われる。

②車内インテリアのスターライト
 リナリア公国から見える星々と全く同様の配列を模したLEDが埋め込まれている。マリアの要望による特注。




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