ボロ切れクリーム
人々は、苦しい状況になると、何らかの攻撃対象を見つけ、攻撃し、意見が一致する者があれば、同調し、徒党を組んで、攻撃する。
おおよそ、その攻撃行動は利益を生まない。そのような攻撃集団が出来上がるまでの、うじゃうじゃとした一連の動きや流れを見ていると、鳥肌が立ち、首筋が痒くなる。
首筋が痒い時は、痒いことを意識すると余計に痒くなってくる気がする。
意識しない!と思うのも、かえって意識を強める。
苦しい、イライラしてきたかも!
どうしたらいいってんでえー!!
ワシがあせあせしている一方、電車で隣に座る男が、優雅に痒み止めクリームを塗り塗りしているではないか。
ワシは攻撃的な気分になってきた!
こんなバカタレはとっちめてやらないといけない、と思って、男を咎めた。
「おいバカタレ!優雅なもんだな、見せつけるようにしてさ?」
すると男は逆ギレしてきた。
「…え、何だお前?何?」
まさか…自分の過ちを分かってすらいないとは…。
ワシはものすごんくイライラしてきた!
「優雅にヌリヌリしてんじゃないって言ってるのだえ!」
「はぁ!?お前マジで何なんだよ、気持ち悪い」
「気持ち悪いのは、お前のその周りを見ることができない厚かましさだろうが!?」
そう言ってワシは男に拳銃を突きつけた。
男は一瞬固まって、か細い声で謝ってきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
どうせ何が悪いかわかっていないのだらふ??
ワシは車内の他の乗客にコールアンドレスポンスを仕掛けた。
「やあやあ毎日働いたり勉強したり頑張っておらっしゃる皆々様!今!今この男が、厚かましくも優雅にふんぞりかえっているのが、腹立つとは思わないかね?腹立つお人は声を返してくれましょう!?」
「…。」
反応がない。
寝てるのか?と思って天井に一発、タァンと撃ち込んだ。
「腹立つお人は声を返してくれましょう!?」
「は、はーい…!」
今度はぱらぱらと声が聞こえてきたが、まだ他人事に考えているな、皆々様よ…。
ワシはもう一発天井に、ポロリと撃ち込んだ。
「腹立つお人は声を返してくれましょう!?」
「はーい!」
しっかりめに声が聞こえてきた。
やっぱり皆も同意見、あの男をしっかりと批判して、過ちを繰り返させないようにせねばならむ。
「おい!この男野郎!いかに自分が厚かましく場違い者か分かったか!?みんな言ってるぞ!こちらはワンチーム!」
「…ごめんなさい、ごめんなさい」
「謝っているが、何が悪かったか理解しているのか?そこが分かっていないのなら、その言葉には何の血も通っていないんだよ。わかるよね?」
「あの、すみません、えっと…電車の中でクリームを塗っていたこと…です…?」
ワシは男の顔のすぐ近くにペロンと一発撃ち込んだ。
「少し違う」
「えっと…少し足を広げて座ってしまってて、スペースを圧迫してた…?」
男の顔のすぐ近くに、ズドンと撃ち込んだ。
「お前さんふざけてるのか?」
人が痒みで苦しんでいるのに、当て付けのように優雅に痒みどめを塗った…その醜悪さがわかっていない…?
「最後のチャンスをやる」
「えっと、あの、肘が当たったりとか…?」
ワシはブチ切れて、男の顔面に銃口を突きつけて、思い切り引き金を引いた。
しかし、弾切れだった。
「あら、あらら、おかしいな…ちょいとすんませんね…」
ワシはそう言って立ち去ろうとしたが、男に掴みかかられボコボコにされてしまった。
ボロ切れのワシは、車内からつまみ出され、黄色い線の内側に放り投げられた。
一線を越えてしまってたのはワシなの?あの男の方じゃないのかえ?
黄色い線の内側までお下がりください、のアナウンスがしつこく耳に響いた。
#小説 #エッセイ #stayhome #撃ちで踊ろう #不要不急の発砲
ワシのことを超一流であり続けさせてくださる読者の皆様に、いつも心からありがとうと言いたいです。