不思議な旅の思い出
アメリカテキサス州をドライブ旅行した時のこと。
○ サンアントニオからヒューストンへ
西部開拓時代の雰囲気が残るサンアントニオから
大都会ヒューストンまで317km。制限速度
137kmの州間高速道路十号線をひたすら
東を目指し走行ていた。
運転手は夫。
五月上旬、既に真夏の日差しと砂漠地帯独特の
カラッとした空気が肌に突き刺さる。
西海岸出身のアメリカ人友人から
「テキサス人の運転は荒いから気をつけてね」
と、旅のアドバイスをもらった私達。
普段以上に安全運転を心がけていた。
○ まさかのバースト
窓の外に見えるのは
猛スピードで追い抜いて行く車と
青空の下広がるトウモロコシ畑の緑色の絨毯。
ケビン・コスナーの映画
『フィールド・オブ・ドリームス」
の風景が広がっていたのだ。
快適に車は走り続けていたのに、
車体が少し揺れ始めた。
「あれ、強い横風吹いてる?」と思った次の瞬間、
大きな破 裂音がしてハンドルが取られた。
何が起きたのか理解不能だが
夫はどうにか車を右側に寄せ、
道路続きの広い緑地帯のある路肩に乗せ停める。
心臓がバクバクし無傷でまだ生きている事が
信じられなかった。
なんとタイヤがバーストしていたのだ。
○ 修理してもらったけれど、不安、、
後継車を巻き込んだ多重事故を
起こさなかったのは不幸中の幸い。
一先ず心を落ち着かせ、
何はともあれ保険会社に連絡、
ロードアシスタンスサービスの到着を待った。
永遠に感じられた待ち時間。
修理の車が近づいて来て
男性作業員の姿を見た 時は涙が出た。
ただ彼の登場でも問題は解決しない。
事前に車種、状況を聞いている筈だが、
彼は何故かピッ タリのタイヤを持っていないのだ。
彼は私達がスペアを積んでいると思ったそうだが
夫は積んでいなかった。 彼手持ちのタイヤと交換し
取り敢えず車が動くのを確認、
私の仕事はここまでと去ってしまった。
あまりのやっつけ仕事ぶりに
私達は新たな不安の中に取り残された。
○ 下道ドライブ
夫曰く
「タイヤが合っていない、高速だと外れるかも。
ゆっくり下道で行けるだけ行こう。」
目的地はまだ百キロ以上先、無事に辿り着ける?
心の不安を口に出せず二人無言、
重たい空気の中車はノロノロ下道を走る。
小さな田舎の集落を幾つか越え大きめ
の街のガソリンスタンドに寄った。
緊張状態が続き二人とも喉がカラカラに渇き、
何か冷たい物を飲みたかったのだ。
そして付近のタイ ヤ店情報を持っているかもと
一縷の望みをかけ店の黒人青年に尋ねてみた。
○ 不意に現れた救世主
ぽっちゃり体型で優しい 印象の彼は
バナナを一本を手にし車を見にきて、
皮を剥いてモグモグ食べ始め、
「ありゃー、この すぐ先のタイヤ屋が
いいの持っているかもよ、寄ってみな。
無事を祈るよー。」
と明るく数十メート ル先を指差し
モグモグしながら店に戻っていた。
果たして中古品を扱う店があった。
個人宅前庭にタイヤが積まれ作業場があるだけで、
教えてもらわなければ絶対に立ち寄らない。
そしてなんと奇跡
的にぴったりの物があり
交換を手伝ってもらい運転を再開できた。
私達は高速を走りヒューストンに入り、
予約ホテルに夕方無事チェックイン。
シャ ワーを浴びソファーに座り漸く人心地つけ、
ビールで夫と「今生きていることの不思議」
に乾杯し たのだ。
○ 旅の思い出
強烈な日差しが 照りつけるテキサスの片田舎で
ある日の午後数時間に連続して起きたリアルな
事なのに、アンリ アルみたいでどこかシュール。
旅という非日常の場で
更にもう一段不思議で厄介な空間に紛 れ込んだが、
名もなきヒーローが突然登場。
彼のおかげて通常の旅に無事戻れた。
彼の記憶には全く残っていない だろうが、
私は臨場感たっぷりに度々思い出す、
旅先の不思議なヒーローとの出会い。
旅の思い出は色褪せず、
自由に時空を超えてあの時あの場に戻れる。
あのドライブ旅行中1番印象に残っている
旅の思い出。
もう怖い思いはしたくないけれど、
又気ままな旅に出たいのだ。