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ミニマリスティックなインテリアと、マキシマリスティックなパワートレイン。 Volvo XC40 Recharge 試乗記録 #2

今回はVolvo XC40 Rechargeを試乗してきた。Volvo XC40は、2018年にデビューしたCセグメントSUVで、内外装ともにVolvoらしいスカンジナビアン・デザインを採用しつつも、従来のVolvoとは一線を画す独自のちょっとファンキーなスタイルを持っている。また、ガソリン、ディーゼル、マイルドハイブリッド、PHEV、BEVと、非常に多彩なパワートレインを用意しているのも特徴だ(2024年10月現在日本国内向けはマイルドハイブリッドとBEVのみ)。

その中で、XC40 RechargeはBEVモデルであり、2020年の登場時はXC40 P8 Rechargeと呼ばれていた。そして2024年現在はEX40に改名して販売されている。さらに紛らわしいことに、PHEVモデルはT4 Recharge、T5 Rechargeという呼称で、仕向地や年式によってはT5 Twin Engineと呼ばれる場合もある。さらに、一時期BEVモデルのデュアルモータ仕様をRecharge Twin-engineと呼んでいたこともある。もう何がなんだか。

プラットフォームはVolvoをはじめとする浙江吉利グループのCompact Modular Architectureを使用していて、Lynk&Co 01とPolestar 2と兄弟関係になる。

それはさておき、今回乗った仕様は2022年式XC40 Recharge Ultimate Twin Motorで、搭載されるモータは2個のAWDモデルである。そして最高出力は402hpという、スポーティなテイストを感じさせないコンパクトSUVのボディからは全く想像できない馬鹿みたいなパワーを隠し持っている。所謂"Sleeper"に分類できそうなクルマだ。

今回は、XC40 Rechargeに乗って快適なドライブを楽しみつつ、"Sleeper BEV"はどんな性格をしているのか確かめていきたい。

Information

Volvo XC40 Recharge
年式:2022年
グレード:Ultimate Twin Motor
パワートレイン:モータ(前後計2個)
トランスミッション:1速固定式
駆動方式:AWD
最高出力:402hp
最大トルク:660Nm
車両重量:2.1t


Driving

このクルマの最大の特徴は、2つのモータから放たれる合計最高出力402hpのパワーだろう。CセグメントSUVに402hpである。確かに車両重量は2.1tと、ガソリンモデルの1.6tと比較して圧倒的に重くなってはいるが、どう考えても速いに違いないと、数値からも明らかだ。そして実際、ものすごく速い。踏み込むと「こんなに速いコンパクトSUVがあってたまるか」というくらい速い。とはいえ、踏み始め最初から爆発的に加速するわけではなく、街乗り程度の踏み込み量なら250hp程度のSUVと同等のパワー感でジェントルにスーッと加速する。全てが制御下にある感覚で、決して速すぎて怖いという感じはしない。しかし、追い越しや高速の合流などで踏み込むとこのクルマの本気を"背中で"感じることになる。踏み込んだ途端、身体をシートに押しつけられる感覚とともに一気に加速していくのだ。そして、爆発的な加速でありながらエンジン音が無いのでクルマを頑張らせる感覚が全くないまま静かに速度だけがどんどん伸びていく。これはこのクルマのようなオーバースペック系(?)BEVでしか味わえない面白い感覚だ。もちろん、正直こんなスペック普段使いでは全く要らない。このクルマにはタコメータの代わりにパワーゲージがあって、合計4目盛まであるが、高速も含めて普段使いは2目盛分で十分だろう。普通の人ならベタ踏みはドラッグレースでもしない限り使うことはない。逆に、フル加速するとSUV故の重心の高さやアイポイントの高さ、後述するようにステアリングのコネクティッドな感覚が薄いため不安になる。とはいえ、どの速度域でも、どんなシチュエーションでもパワーに関するストレスが全くなく快適に走れることはこのクルマの最大の武器だろう。やはりパワーは全てを解決するのだ(ここでジェレミー・クラークソン氏の画像を貼る)。

次に操舵感覚について述べていく。このクルマのステアリングは40km/h程度までの低速域では軽くて扱いやすい。それを越えてくると適度な重さが加わり、高速域でも十分扱いやすくなる。また、このクルマにはステアリングを重くする設定があり、操舵感覚の安定感が増すので私はこの方が好みだ。とはいえ、その車重故に感覚は鈍重でダイレクト感は弱いため、クイックで楽しいといった感覚は希薄である。

足はVolvoにしては結構硬い。そのため、高架道路の路面の繋ぎ目などある程度の凹凸ならいい感じにいなしてくれるが、街乗りでのマンホールとか段差は正直気になるし、リラックスした乗り心地かというと「速度域による」と言わざるを得ない。ここはガソリンエンジン搭載のモデルの方に軍配が上がる。また、足の硬いSUVはコーナーで比較的リーンしにくいパターンが多いが、XC40 Rechargeはかなり車体が重いため結構リーンする。グリップ性能には優れるので足が剥がれそうになる感覚はないが、リラックスした乗車体験は損ねてしまうと言える。

静粛性はエンジン音がない分優秀だが、内燃機関を搭載した同クラスのLexus NXには明らかに劣る。モータ駆動なので加速時も一貫して静かではあるが、渋滞で隣のクルマのエンジンが聞こえるくらいだ。つまり、車体自体の静粛性はプレミアムブランドと比較するとあと一歩といっところだ。Toyota Harrierくらいと言ったらわかりやすいだろうか。また、車体の重さと硬い足故に路面がちょっとでも粗いとロードノイズが大きくなる。

このクルマの最大の欠点はブレーキの処理の雑さだ。このクルマは回生ブレーキが強く全体的にブレーキが強くかかるので、PHEVやBEVによくある「最初は回生ブレーキが主体なので弱くブレーキがかかり、最後の摩擦ブレーキで急に強くかかる」といった挙動は弱く、踏んだ量と実際の減速量に乖離がなくて良い。ただ、ブレーキの最後に強い揺れとともにキュコッとサスが軋む音がする。強くブレーキを踏んだときだけではなく、ワンペダルドライブモードでブレーキを踏んだり、足を完全にアクセルペダルから離したときにもこれは起こる。単に最後だけ揺れるということは車体が重いがサスが柔らかいクルマにたまにある挙動だが、軋む音は結構気になる。

また、これもブレーキに関連した話だが、少し強めの回生ブレーキが欲しい時に困った。例えば、内燃機関車でいうところのエンジンブレーキが欲しいシチュエーションだ。いちいちタッチパネルから設定画面を開いてワンペダルドライブモードをAutoかOnにすべきだろうか?ToyotaのハイブリッドカーでいうところのBモードや、Hyundai Ioniq5など一部のBEVがパドルシフトの代わりに設けている回生ブレーキ強度調節インターフェースが欲しい。

最近のVolvoらしくない、ややファンキーなボディデザイン

最後に視界と取り回し性について記述する。このクルマは全体的に角張ったデザインなので四隅の位置を把握しやすくボンネット先の見切りも良い。しかし、Cピラーが極太なので斜め後ろの視界が悪い。そのため、合流やバックで出庫するとき、
結構厳しい。

かなり太いCピラー

また、解像度の高い360°カメラが装備されるものの、リアカメラがバンパーのナンバープレートの位置にありかなり低いので、あまり遠くまで視認できない。故にバックでの出庫や切り返しの時は後方のカメラはほぼ使えないと思った方が良い。

リアカメラはかなり低い位置にある

Interior and Practicality

Front

ミニマリスティックなインテリア。EX30など最新のVolvoと比較すると若干古さを感じる。

インテリアはVolvoらしくミニマリスティックなデザインでありながら、アクセントを添えるべきところは添えているよくできたものとなっている。特に、全体の視覚的統一感は他のブランドよりも良くできていて、メインは合成皮革や樹脂パーツ、布系パーツの艶消しグレー。そしてアクセントに金属感の強いシルバーメッキ塗装とモノクロームな等高線風テクスチャのインパネ。視覚的ノイズが少なくて良いデザインだ。

具体的にインテリアを見ていく。インパネは基本的に合成皮革や柔らかい樹脂が使われていて、身体が触れる部分は全て柔らかい。一部硬い樹脂が使われているところもあるが、艶消し塗装がされていて質感は良好だ。一部アクセントとしてシルバー塗装の部分もあるが、金属感が強く重厚感があって良い。特にエアコン送風口の質感が高い。

インパネの地図の等高線のようなテクスチャの樹脂パーツには、ほんのりアンビエントライティングが入っている。Volovのシンプルなインテリアにはちょっと場違いな感じもするが、SUVを好む層はこういうアウトドアチックなディテールが好きなのかもしれないし、従来のVolvoとは一線を画すエクステリアデザインにはマッチしていると思う。

等高線風のインテリアパネルはほんのり光る

ドアパネルは上部やアームレストは合成皮革など柔らかい素材で、スイッチ類のパネルは艶消し樹脂。ドアポケットはフェルト張りとなっているため、キーなど硬いものや小さめのボトルを入れた時に傷がついたり運転中に音が鳴ったりしないので良い。

ドアポケットがフェルトで覆われているのは好印象

また、ドアポケットのサイズは十分で、1.5Lや2Lのボトルも余裕で入り、さらに500mlのボトルも2つくらい追加でねじ込める。

ドアポケットは1Lのボトルを入れてもまだ大分余裕がある

今回乗ったUltimate Twin Motorは最上級グレードなのでharman/kardonのオーディオシステムが搭載されていて、音質がとても良い。特にこのモデルはエンジンノイズがなく静かであるため、クルマで音楽を聴くにはもってこいの環境だ。

harman/kardonのオーディオシステムが装備される

オーディオ関連のスイッチは物理ボタンで、音量調節はダイヤルとなっていて、運転中も安全に操作しやすい。特に音量調節ダイヤルは回し心地も良好で、質感が高い。一方でエアコン関連は曇り止め以外は後述するタッチパネルからのみ操作可能で、最悪のインタフェースとなっている。また、ハザードのボタンが一番運転席から遠い位置にあり、且つ小さいボタンであるため、正直使いにくい。運転中にすぐ手の届く場所、例えばタッチパネルの上か下に大きなボタンとしてあるべきだ。

エアコン操作も物理ボタンにすればいいのに……

センターコンソールの建て付けは非常に良好で、揺すってもびくともしない。素材は縁が艶消しグレーの硬い樹脂素材で、パネルはピアノブラック塗装。縁に関しては合成皮革の方が良いと思ったが、センターコンソールの膝が当たる部分はやや抉られた形になっていて直接膝が当たりにくくなっているので問題ない。

センターコンソール

インフォテインメントの下にはUSB Type-Cのポートが2つ、12Vソケットが1つあり、その下の空間にはワイヤレス充電器がある。ラバー素材で滑り止めされているため、運転中に物が動いたり音が立ったりせず、気を散らせることもない。このような丁寧さが嬉しい。その手前に蓋つきの小さな収納があるが、使い道はスマホを立てておくくらいだろうか。次に手前にあるのはシフトノブとカップホルダー2つ。これらは縦並びではなく横並びなのでシフト操作をペットボトルが邪魔することもない。

ピアノブラック塗装樹脂を使っているのは残念だが、使い勝手は良いセンターコンソール

センターコンソールボックスの前部分は取り外し可能なゴミ箱になっている。センターコンソールとゴミ箱の接触部分にはフェルトがちょこっと貼ってあり、ゴミ箱の取り外しに音が鳴りにくいようになっていて、このような細部の心遣いが嬉しい。

センターコンソールのゴミ箱
ゴミ箱は取り外し可能

センターコンソールボックスは特別深くはないが十分な大きさである。蓋の建て付けも良好で作りが良い。

内燃機関モデルと設計が共通なのでコンソールボックスは特別深くはないが十分な大きさ

このクルマにはŠKODAがやりそうなちょっと嬉しい機能もある。先ほど挙げたセンターコンソールのゴミ箱もそうだが、他にもフロントウィンドウに駐車券を挟むクリップがあったり、グローブボックスから展開できるフックなどがある。流石に充電ポートの蓋の裏にアイススクレイパーがあったり、ドアに傘が収納されていたりということはなかったが、全体のデザインをミニマリスティックにしても細部の作りが親切なのが良い。

ŠKODAのようにフロントウィンドウに駐車券用クリップがある

ドライビングポジションは良好。さすがはVolvoのシート。細身な日本人にはやや大きいようにも感じたが、ゆったりリラックスして座れて長距離もラウンジのように快適に座り続けられる。さらに、運転席・助手席両方に座面エクステンションも装備されるので、腿の裏が疲れた時など、長距離運転で役立つ装備もある(伸縮部分の隙間にゴミが溜まりがちでちょっと掃除が面倒になるが)。ただし、この価格帯でありながらシート素材に本革を選べず、合成皮革と合成繊維のコンビシートが標準で、オプションとしてウールが選べるのみというのは、ちょっと気になるポイントだ。なお、ステアリングコラムはマニュアル調整だが可動域はかなり広く、いい感じのポジションに設定できる。

長距離でも疲れにくいコックピット

ステアリングスイッチは物理ボタン。1つ1つのボタンが大きくて操作しやすい。 MercedesやVW、LandRoverなど最近の欧州車が相次いで静電容量式のものを採用する中で物理ボタンを採用するのは利便性も好感度も高い。

シンプルだが使いやすく質感も高いステアリングホイール

インフォテインメントシステムやステアリングコラムのレバーにインタフェースを集約した結果、ステアリング右下は非常にスッキリとしていて、テールゲート開閉ボタンしかない。

これだけ?

グローブボックスはかなり小さい。開口部は大きいものの、収納部分は薄いので車検証と説明書でいっぱいいっぱいだ。

グローブボックスは中身が結構薄い

麻素材だろうか?IKEAにありそうなシンプルなポーチに説明書が入っていて、ここからも他のブランドにはないスカンディナビアンデザインを感じる。

IKEAにありそうな説明書入れ

今回乗ったUltimateグレードにはパノラミックサンルーフが標準装備されている。指でなぞって操作するタイプのインタフェースなので、サンシェードやサンルーフをどの程度開きたいのかなど細かい操作で思い通りに動いてくれないことが多いが、パノラミックサンルーフが標準装備されてるだけでも十分に嬉しい。

大きなパノラミックサンルーフで気持ちの良いドライブを楽しめる

Rear

このクルマの後席は成人男性が座っても問題ない広さで、身長176cmの私のドライビングポジションに設定した運転席の後ろに私が着座しても拳2個分くらい足元空間に十分余裕がある。しかし、床下にバッテリーが配置されるためか若干座面と床の距離が近く、腿の裏が浮く。とはいえ、前席シートの下に足を突っ込める余裕があるので、そうすれば腿の裏も浮かず、長距離のドライブでも問題なく過ごせるだろう。頭上空間も角張ったボディ形状故にかなり大きく、パノラミックサンルーフを装備していても拳1.5個分以上の余裕がある。

膝回りの余裕は十分

一方で、中央席の居住性はまあまあといったところか。このクルマは内燃機関搭載モデルと共通の設計であるため、フロアの中央にトランスミッションとプロペラシャフトを通すためのトンネルがあること、前席のシートレールがボリューミーなことから、中央席の足元空間はない。左右席の乗員と足の置き場を奪い合うことになる。一方で、頭上空間に関しては中央席でも余裕がある。

内燃機関モデルと共通設計なので、トランスミッションとプロペラシャフトを通すトンネルがある

センターコンソールの後ろにはUSB Type-Cのポートが2つあり、後席の乗員もスマホの充電には困らないだろう。また、後席用のエアコン送風口も前席同様メタル調になっていて、質感が高い。

後席の座り心地はソファのように柔らかいもので、ホールド性はないものの快適に過ごすことができる。ただし、リアのヘッドレストが硬く、若干前に突き出しているので、頭をつけて座りたい人にとっては気に食わないかもしれない。また、後席にもシートヒーターが装備されているのは嬉しい。

ヘッドレストの硬さが結構気になるが、それ以外は概ね快適なシート

リアのセンターアームレストには2つカップホルダーがある。BMWやLexusなどのプレミアムブランドのクルマは蓋がついていたりするが、このクルマは蓋のない簡素な作りになっている。

リアのセンターアームレスト

リアドアのパネルは前席のものと同じ素材が使われていて質感が高く、ドアポケットも1Lのボトルが入ってなお余裕があるくらい大きい。当然ドアポケットのフェルト張りもある。しかし、リアドアの窓は一番下まで下がらないのはいただけない。

フロントと遜色ない質感のリアドア

このクルマは若干窓の下端の位置が高いので、ダークグレー基調の内装と相まって後席は若干閉塞感がある。今回乗ったUltimateグレードのようにパノラミックサンルーフが装備されるとこの点は大きく改善される。

ISOFIXアンカーポイントは左右の後席にあり、蓋付きなタイプなのでアクセスしやすい上に蓋を紛失するリスクもないので優秀だ。

ISOFIXアンカーポイント

リアドアの開口角度は大きくないものの、ドアの開口部は広く背が高いので、乗り降りはしやすいし、荷物の積載やチャイルドシートの取り付けもしやすいだろう。また、サイドシルがちゃんとドアパネルに覆われている形状なので、乗り降りの際もズボンのふくらはぎ部分が汚れない。

開口部の大きさが十分で乗り降りしやすい

リアシートの横には小物を入れるスペースがある。あまり使い道を思いつかないのだが、折り畳み傘を入れるとかであればちょうど良いかもしれない。

一見するとセンターコンソールのようにラバーの滑り止めがありそうだが、実際は単なる樹脂のみ

Boot

十分な広さで使い勝手の良い荷室

XC40 Rechargeの荷室容量は452L。通常のXC40の460Lを比較すると、後述する"フルート"を含めて483LであるRechargeの方が荷室が広いから驚きだ。たいていのPHEVやBEVは床下にもバッテリーが搭載される都合でベースとなるモデルよりかなり荷室容量が犠牲になるのが普通だ。例えば、同様に内燃機関モデルと共通設計のCセグメントSUVであるMercedes EQAはベースのGLAから85Lも小さい340Lとなっている。ちなみに、他のCセグメントSUVのライバルの荷室容量は、Lexus UX300eが367L、Volvo EX30が400L、Mercedes GLBが465L、BMW iX1が490L。XC40 Rechargeは利便性の高い部類のモデルであると言える。

荷室床面は入り口から完全にフラットであり、バンパーが厚くないため重い荷物の積み下ろしも容易な設計だ。

重い荷物の積み下ろしもしやすい

このクルマの荷室の床下空間は電動化されたパワートレインを持つとは思えないほど大きい。Volvoのエンジニアはバッテリー配置の設計で本当に良い仕事をしたと思う。また、床板は従来のVolvoと同様に立てて固定することができ、仕切り板としても使えて、蝶番のところに3箇所ある出っ張りは買い物袋を引っ掛けることもできる便利設計だ。それ以外にも、荷室側面のフックや荷物を固定するためのリングも十分な数ある。しかし、12Vソケットなど給電できる設備はないので、荷室で掃除機をかけたいときは若干苦労する。

Volvoならではの仕切り板にできる床板
かなり余裕のある床下空間

このクルマのリアシートは40:60分割可倒式なので、40:20:40分割可倒式のAudi Q4 e-tronなどほどは長尺物の積載性は優れないが、一応スキーハッチがあるので、4名乗車+長尺物積載に対応している。ただし、スキーハッチ開口部に中央席のヘッドレストの足が大きく貫通しているため開口部の幅が狭い。

スキーハッチに貫通するシルバーの棒は中央席ヘッドレストの脚

後席を倒す際には背もたれのボタンを押す必要があるが、トノカバーを装着している場合、トノカバーとCピラーの小さい隙間から手を伸ばす必要があるため荷室からのアクセスはあまり良くない。だが、このボタンを押すと後席のヘッドレストも畳んでくれるので、倒してからヘッドレストが前席に干渉して完全に倒せないといったことは防げるのは便利だ。

後席を倒すスイッチへの荷室からのアクセスは悪い
後席を倒すと完全にフラットになる

後席を倒した後、後席を戻す際にシートベルトのタングが後席に巻き込まれがちなことはマイナスポイントだ。そこはクリップで固定できるようにするか、巻き込まれないように溝を作るかしてほしい。

このクルマにはボンネット下にも31Lの荷室がある。こういうのをFrontにあるBoot(荷室)ということでFroot(フルート)と呼んだりする。本来エンジンのある空間がBEVでは自由に使えるから荷室にしたという感じだ。31Lの容量はTesla Model Yの117Lには劣るが、充電ケーブルを入れておくには十分な大きさである。

フロントにエンジンがないクルマならではの荷室

尚、タイヤ補修キットはフルートの床面の下に搭載されている。

タイヤ補修キット

Infotainment System

インフォテインメントシステムはEX30やPolestar 3などに搭載された最新のVolvoのインフォテインメントシステムと比較してしまうと古さを感じる。しかし、タッチパネルとしての性能(レスポンスや解像度、処理速度)は依然として優秀で、iPadのようにスムーズに使える。特に、ナビゲーション機能にGoogle Mapを用いているため、Apple CarPlayやAndroid Autoを接続しなくても非常に快適に使えて素晴らしい。

Google Mapは視認性も操作性も抜群

しかし、ナビゲーション以外の部分に関しては本当に最悪なUXである。例えば、エアコンの温度を調節したい場合、デュアルゾーンクライメートコントロールを使用していない場合は画面下端の小さな領域に表示されたUIをタップして調節することになる。タッチパネルであるだけでなく、こんな端にある小さなボタンUIなんて運転中に誰が操作できるだろうか。さらに、デュアルゾーンクライメートコントロールを使用している場合は、一度エアコンメニューを開かないといけない。

デュアルゾーンのときは温度調節さえもエアコンメニューを開かないといけない

また、風量調節や風向、車内循環切り替えも全部一度エアコンメニューを開いてからタッチパネルで設定しなくてはいけない。シートヒーターも、画面下端のシートのアイコンを押したら起動する優しいものではなく、シートのアイコンを押すと展開されるDialog UIから設定する必要がある。Volvoは安全性で大きく評価されているメーカーなのに、こんなエアコン操作方法を採用するなんて、運転中の"ながらスマホ"を推奨することと何が違うのだろうか。

諸悪の根源であるエアコンメニュー

このインフォテインメントシステムの欠点はこれだけではない。唯一物理ボタンとしてHomeメニューに戻るボタンが画面の下にある。しかしこのボタンを押すと展開されるメニューは「直近使用した機能4件」が表示されるものだ。つまり、直近にMap以外の機能をいくつも使用していた場合下記のようになる。ここからMapに戻るには、左下の小さいUIからアプリ一覧を開き、Mapを選択しなくてはいけない。物理ボタンを1つ設けるならMapに戻れるようにしてほしい。

唯一の物理ボタンを押した結果

ドライバーズディスプレイに関しては、Audiのバーチャルコックピットほどカスタマイズ性はないものの、マップを表示できて、視認性も優れていて使いやすい。

ドライバーズディスプレイは全グレード標準装備

As a BEV

バッテリーサイズ:78kWh
航続可能距離(WLTCモード):484km
航続可能距離(実測値):394km
電力量消費率(WLTCモード):188Wh/km
電力量消費率(実測値):198Wh/km

今回のドライブの結果、実際の航続可能距離は理論値の81%であった。同じクラスのBEV SUVと比較すると悪くはない値であるが、褒められるような数値でもない。バッテリーサイズは今回乗ったモデルは78kWhで普段使いでは十分なサイズだ。ただ、RWDモデルは73kWhのバッテリーしか選べないこと、一部市場においてAWD、RWD両方で選べる82kWhバッテリーの設定が日本向けモデルにないのは残念だ。

普通充電ポートは左フロントフェンダーにある

充電は普通充電AC200Vが9.6kWまで対応していて、0~100%で8時間かかる。一方、急速充電は150kWまで対応していて、10~80%まで34分かかる。

急速充電ポートは車両の左リアフェンダーにある

今回は主に都内で利用したが、意外と急速充電器が少ないことに気づいた。確かに、商業施設などの充電器の設置数は充実したと思う。しかし、ほとんど普通充電器で、空いてないことも多い(今回の試乗で私は2回ほど充電機会を逃した)。充電器マップをみると、急速充電器はディーラーに設置されているものが多いが、他メーカーのディーラーに「急速充電器貸してください!」って凸るのもな……

Is the Volvo XC40 Recharge a good car?

まず、このクルマの"Sleeper BEV"の部分を振り返ってみる。確かに、余裕すぎるパワーはこのクルマの長所だった。当然ドラッグレースでもしない限り402hpフルで使うこともないが、どんなシチュエーションでもパワーに関するストレスが一切ない余裕は、本当に素晴らしい体験だった。ただ、正直なところスポーツカーでもGTでもないし、普段使いするならSingle Motorモデルの235hpで十分だと思う。Single Motorでもスムーズな加速は健在であり、パワーには困らないはずだ。また、Plus Single MotorとUltimate Twin Motorの価格差はおよそ100万円もあり、Plus Single Motorでも十分な装備内容であるから、この価格差を払ってまでUltimate Twin Motorにする理由はそうそうないはずだ。

総合すると、XC40 Rechargeは日本の道路事情にマッチするコンパクトなサイズのSUVでありながら居住性や積載性に優れる便利なクルマであり、快適でリラックスできる室内空間により(特に高速域では)走るラウンジのように素晴らしい乗車体験を実現する。また、装備内容や質感に対して(BEVとしては)価格も納得のいく水準であり、私はBEVのCセグメントSUVの中ではトップクラスにおすすめできるモデルだと思う。ただし、Ultimate Twin Motorを選ぶ必要はなく、Plus Single Motorで十分このクルマの魅力を享受できる。

では、内燃機関搭載モデル(マイルドハイブリッドであるB3やB4)も含めて考えるとどうなるか。それはまだB3やB4の方がこのクルマのコンセプトに合っていて完成度が高いと思う。BEVモデルは高い重心と硬い足故に田舎道や舗装のコンディションが悪い路面は苦手であり、これは軽量で乗り心地も柔らかい内燃機関モデルの方が良いだろう。さらに、マイルドハイブリッドモデルならSingle Motorからさらに100万円安くなる。

Pros

  • かなり余裕のあるパワー

  • 余裕のある室内空間

  • 十分な荷室容量

Cons

  • 使いにくいインフォテインメントシステム

  • 性能も装備もSingle Motorで十分

  • 高い重心と硬い足はシチュエーションによっては乗車体験を損ねる

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