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店主と猫

商店街の隅には昔ながらの駄菓子屋
そこにあるベンチがあたしの定位置
野良猫だったあたしを拾ったのがここの店主

傷だらけのあたしを見て「困ったもんだ」と呟いて
お店の中に入れてくれた。
店主は「傷が治るまで、傷が治るまでだからな」
と言って猫缶と水をくれた。

結局、ここの看板ネコとして飼われた。

前までは店主の顔が怖くて客もあまり来なかったけど、あたしが来てからは人が来るようになった。
日向ぼっこをしていると子供があたしをなでに来る
そんなあたしに「お前は招き猫だな」と言って
あくびをするあたしを見て店主もあくびをした。

そんな穏やかな生活をおくっていたある日
店主が突然倒れた。
あたしはよくこの店に来ていた子供を見つけ
鳴いて助けを求めた。

珍しく鳴いているあたしを見て子供も
何かを察したのかあたしの後ろをついてきた。
倒れている店主を見て「わっ!」と驚いて近くの大人を呼びに行った。

店主がいない間、あたしはこの店を守った。
数日がして店主の娘とやらがあたしを抱えて
「お父さんが会いたいって」と
泣きそうな顔で呟く。

あたしは店主を見た時びっくりした。
あの怖い顔があたしを見て目尻にシワをよせ
にっかりと笑っていたから。

「お前に出会えてよかったよ、招き猫さん」
あたしは店主の寝ている布団に潜りこみ
冷たくなっていく店主の横でちいさく鳴いた。

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