みつる

いつかクリエイティブなお仕事がしたい。

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ホットチョコレート(8)(完)

8. ホットチョコレート  楓(かえで)は伴(ばん)奏者(そうしゃ)の神川(かみかわ)さんに合図(あいず)を送る。 ピアノの音がまるでカーペットが転(ころ)がるように音楽室に広がって、それに乗(の)っかるようにみんなが歌い始める。 楓も指揮(しき)をしながら一緒(いっしょ)に歌う。 音楽室の窓(まど)から流れる朝の陽(ひ)ざしがみんなの顔を照(て)らした。 歌うみんなの表情は光に負(ま)けないくらいキラキラしている。 茉莉(まり)花(か)のほ

    • ホットチョコレート(7)

      7. 移(うつ)ろい  ついに放課後(ほうかご)の合唱(がっしょう)練習(れんしゅう)の時間がやってきて、楓(かえで)の胃(い)はまた洗濯(せんたく)の準備(じゅんび)を始めている。 練習は教室(きょうしつ)で行(おこな)われ、神川(かみかわ)さんは音楽室から運(はこ)んできたキーボードを机(つくえ)にセットした。 後ろのロッカー側(がわ)に寄(よ)せられた机の前にみんなが並(なら)び、みんなの前には指揮者(しきしゃ)が立つための椅子(いす)が一脚(きゃく)置

      • ホットチョコレート(6)

        6. 風 「…おはようございます…。」 校門(こうもん)に立っている教頭(きょうとう)先生にあいさつをして、楓(か えで)は重たい身体(からだ)を前進(ぜんしん)させる。 身体はまだどっしりと重いし、今日の放課後(ほうかご)は合唱(がっしょう)練習(れんしゅう)も行(おこな)われるので学校を休みたくてたまらなかった。 けれど、明日は土曜日で学校がお休みだから、今日は頑張って行きなさいとお母さんに言われて仕方(しかた)なく家を出てきた。 毎朝茉莉(まり)

        • ホットチョコレート(5)

          5. 紅 「中田(なかた)!浜口(はまぐち)、今日は早退(そうたい)するみたいだって。」 紅(こう)はロッカーから教科書(きょうかしょ)を取り出して、そばにいた茉莉(まり)花(か)に声をかけた。 「そっか。」 茉莉花は珍(めずら)しく漢字のドリルを広げている。 5時間目は漢字のテストだ。 「昨日は一緒(いっしょ)に帰らなかったのか。」 「楓、気付いたら帰ってたの。まりと帰るのがいやだったんじゃない?」 指で漢字をなぞりながら言った。 「何があったか知らないけど、浜口、何だか

        ホットチョコレート(8)(完)

          ホットチョコレート(4)

          4. 雨 「じゃあ、今日は浜口(はまぐち)さんの指揮(しき)で歌ってみましょうか。」 肉付(にくづ)きの良い桐谷(きりたに)先生は、笑うと目がなくなってしまうのが特徴的(とくちょうてき)だ。 「はい…。」 楓(かえで)は自信(じしん)がなさそうに立ち上がった。 窓(まど)を叩(たた)く雨音(あまおと)が、静(しず)まり返(かえ)った音楽室にひびき渡(わた)っている。 朝の10時だというのに、夜のように外はどんよりとしていて暗(くら)い。 茉莉(まり)花(か)と楓は、指揮者の

          ホットチョコレート(4)

          ホットチョコレート(3)

          3. 蓮  「っしゃー!!終わり―!!」  蓮(れん)はチャイムが鳴(な)り出すと同時(どうじ)に、チャイムより大きな声を発(はっ)した。  「今日の終わりの会で指揮者(しきしゃ)の発表だってさ。」  蓮の後ろの席(せき)の紅(こう)は、蓮の肩(かた)を軽(かる)くたたいて、ランドセルを取りにロッカーへ歩いて行った。  蓮は椅子(いす)の前足を少し浮(う)かせて、紅の席にもたれかかり、茉莉(まり)花(か)の席の方を見た。 窓際(まどぎわ)の席に座(すわ)っている茉莉花

          ホットチョコレート(3)

          ホットチョコレート(2)

          2.楓  「いらっしゃい!あら、そんなに息(いき)を切らしてどうしたの、まりちゃん。」 公園(こうえん)の横にポツリと建(た)つ、ミント色の看板(かんばん)を下げたクレープ屋さんの前で、茉莉(まり)花(か)は肩(かた)を激(はげ)しく上下に動かして立ち止まった。 蓮(れん)の叔母(おば)でもあり、クレープ屋の店主(てんしゅ)である桜子(さくらこ)さんは大きな目をさらに大きくさせて声を掛(か)けた。  「蓮が…えらそうなこと言うから…注意しようと思ったの。そしたら蓮の

          ホットチョコレート(2)

          ホットチョコレート

          1.茉莉花  甘(あま)い香(かお)りが校庭を包(つつ)む昼下(ひるさ)がり、6年2組の仲良(なかよ)し4人組は、すっかり使(つか)い古(ふる)したランドセルを背に校庭を歩いている。  空は雲一つない青空で、頬(ほお)をなでる風はひんやり心地よい。  中田茉莉(なかたまり)花(か)はそんな秋を知らせるキンモクセイの香(かお)りや、空の表情が大好きだ。  なんだか夏休みが始まる前の日みたいにワクワクした。  「今日もダンスのレッスンがあるの?」  優しい笑顔で尋(たず)ねたの

          ホットチョコレート