なんのために使おうか。

「10万円入ったら何に使う？」

このご時世、1度は耳にする質問。

「まだ決めてないんだ」

「そうなのか？」

「ああ……なんかさ、生活を援助するためのお金だと思うとな。僕は在宅勤務が出来て給与補償もあったから、生活には困らなかったが。でも、いつ今の生活が崩れるかなんて、分からない、そう考えると、使っちまっていいのかなってさ」

「はー、真面目なんだな」

真面目？

いや、僕はただの臆病者なだけだ。

未来が予知できるなら。変わらずに生きていけると分かっているのなら、たった10万円、簡単に使っちゃうかもしれない。

でも、誰が予想してた？今こんな風に世の中が変わってしまっていることを。

半年前の自分は、2019年末に当選メールのきたバンドのライブを、3月普通に見てると思ったし、4月には毎年恒例の映画「名探偵コナン」の新作を見て、ゴールデンウィークには家族を旅行に連れていき、そして夏にはオリンピックに興奮していると思っていた。

信じて、疑わなかった。でも。

全部、なくなった。

世の中は元に戻ろうと奮闘している。だが、まだ油断はならない。こうして普通に出勤し、10万入ったら趣味のロードバイクに使うんだ、と目を輝かせる同僚と、マスクのままで語っているが。

ウイルスは消えていない。命を脅かす恐怖は、まだ残っている。

目に見えないものに立ち向かう術なんて無い。どうすれば生き残れるかなんて、分かってないんだ。ゲームのバイオハザードは直接噛まれなきゃゾンビにならないけど、このウイルスは近くにいるだけで感染するし、見た目じゃ感染者が全く分からないんだ。

世界中がこの恐怖に怯えてる。

いつ自分が感染するのか。息ができない苦しみに耐えられるのか。自分は無事治るのか。

そんな恐怖に怯えて、震えてながら、生きている。

生きるためにお金は大事だ。だから、いざと言う時のために、とっておきたい。いつどうなるか分からないから、生命保険にだって入るんだ。備えることは、家族への責任だと思う。自分に何かあって困るのは、自分以上に、家族だから。この10万円を重宝する日が、来るかもしれない。

生きるために笑顔は大事だ。この自粛で僕らはたくさんの楽しみを奪われた。世の中に溢れる様々なエンタメが、いかに僕らの心を潤わせてくれていたのか。こんな世の中になっても、俳優、芸人、タレント、テレビやアニメの制作局、漫画家、動画投稿者など、ソーシャルディスタンスを保ちながら、たくさんの笑いを届けてくれる。共通の話題が生まれ、家族や友人とも笑い合える。だからこそ、笑顔をくれるエンタメに、この10万円を使いたいとも思う。

たった10万円、なんの足しにもならないと考える人もいるかもしれない。

でもそれは、誰かにとっては大事な10万円。

税金に使おうか。住居費に使おうか。生活費に使おうか。食費に使おうか。学費に使おうか。もちろん、目の前の彼のように趣味に使うのも正解だし。逆に世の中のために、寄付という手もある。ああ、もし別の難病にかかっていたなら、医療費に使うかもしれない。

なんのために使おうか。

誰のために使おうか。

考えるのは僕ら。

「10万円入ったら何に使う？」

#給付金をきっかけに

#小説のような

#エッセイのような