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蒼と灰

10代の頃私は、蒼く尖っていて、強かった。

努力して手に入れられないものなどないと思っていたし、じっさいほとんど違いなかった。

まともな恋をしたことはなく、男の人は何でも言うことを聞いてくれるものだと信じていた。

多くの女子からは、たぶん好かれていた。
たぶん、というのは、休み時間ごとに自分の机の周りに群がる人たちをみて少なくとも当時はそう思っていたから。

けれど、ずいぶん後になって「同じ制服を着ているのにあなただけがまぶしく見えた」と親しい友人が言っていたから、ひょっとしたら単にみんな誘蛾灯に集まる習性だったのかもしれない。

私は表出された私という強い光の裏に、濃い陰を持っていた。
きっとその暗く深い陰が、私という平凡な人間を光輝く何者かに見せていたのだろう。
友人にとっても、自分自身にとっても。

私は親切な人間だったけれど、優しい人間ではなかった。
自信を持った強い人間のように振る舞うのは当然の義務だと思っていたし、弱さを表出して他人に寄りかかろうとするのは甘えだと信じていた。

発狂しそうに全身を蝕む闇をどうにか抑え込みながら、簡単に弱さを見せる人間を憎んでいた。

憎みながら、手を差し伸べていた。
本当は反吐が出そうだった。
手を差し伸べていたのはそれが強く生きる者としての義務だと思っていたからであって、決して私が優しい人間だったからではない。

私は、名前のついたもう一人の私、自身の陰を、愛してもいた。
確かに、私は私の陰のために強かった。

私は歳をとった。
経験や社会というものたちが私の陰を喰い荒らし、徐々に私の陰はその身を薄くしていった。

何かを怒ることも、憎むこともなくなった。
私はもう蒼くもなく、尖ってもいない。
光を失った私は優しい人間になった。

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