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濃厚接触が消え去った世界をスタローンが破壊する--映画『デモリッションマン』

エイズ、暴動、ソーシャル・ディスタンシング

 COVID-19が流行する今、もっとも真に迫る映画はなんだろう。Netflixでブッチギリの視聴回数1位を獲得し続ける『コンテイジョン』だろうか。

 僕はもう『コンテイジョン』のリアリティすら世界は通り過ぎてしまったと思う。「ワクチンが開発されて、日常を取り戻せました」という、映画的オチを現実はきっと迎えることができないことに、私たちは薄々気がつき始めているのだから。

 今しきりに世界で議論されているのは、ポスト・パンデミックの世界がどうなるかだ。コロナウイルスの流行は断続的に向こう数年は続く。外出自粛が解除されたところで、「濃厚接触」や「三密(バカっぽい言葉だから僕はなるべく使いたいくないが)」を避けつつ、「ソーシャル・ディスタンシング」を取ることを、絶えず求められるはずだ。

 そんな世界が数十年以上続いたとしたら。握手やハグといった、人と触れ合う文化を人類は禁忌とする世界が訪れるかもしれない……。

 シルヴェスター・スタローン主演、『デモリッションマン』。直訳すれば「破壊男」。文字面だけで、筋肉同士の超濃厚接触を感じさるこの映画が、1993年公開から27年の時を経て、いま世界中(の好事家の間)でポスト・コロナSFだと再注目されている。

 1996年のLAで犯罪者たちをボコボコにしまくる暴力デカのスタローンは、自分のおっちょこちょいのせいで、人質30人を過失致死で殺してしまった咎で70年の冷凍刑を処されてしまう。そして、70年後刑期を終えたスタローンは、2032年の世界に目覚めるも社会のあまりの変貌に衝撃を受ける…。なんと、あらゆる「濃厚接触」が消え去ってしまっていたのだ!

 監督のマルコ・ブランビラは、この映画は90年代初頭のアメリカが抱えた問題を、極端な形でカリカチュアライズした作品だと述べている。特にHIVの流行—フレディ・マーキュリーはエイズで91年に亡くなった—と、92年のロサンゼルス暴動だ。つまるところ、セックスとバイオレンスという人間の根源的な濃厚接触が、当時のアメリカに影を落としていたわけだ。映画では、スタローンの冷凍後、人々の野蛮性を抑制するために、肌を触れ合う行為全てがタブーとなっしまった。

セックス禁止! トイレットペーパー禁止! ネガティヴ発言禁止!

 セックスはカップルで互いにVRゴーグルを装着し非接触で行う。未来人に言わせれば、「粘液交換なんて原始人の行為」だそうだ。そして、握手でも決して手を触れることはない。これらの描写は作中では、ナンセンスなブラックユーモアとして描かれているが、そのブラックさは今見ると一層黒光りして感じさせるものがある。

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 アフターコロナの世界と不思議と符合するシーンはまだまだある。小資本の店は街から姿を消し、LA唯一のレストランはタコベルのみ。現実でも、ミニシアターや、個人経営の店がバタバタ潰れ、マクドナルドとシネコンだけしか存在しない世界はすぐそこまで来ている。

「F●CK!」といった攻撃的な単語やネガティブな発言をすれば、「モラリティ・マシン」という監視システムによって、交通違反さながらの罰則が課せられる。「危機の時代に政権批判なんて言うのはけしからん!」と、ツイートしてる有名人の顔が、いくつも頭に浮かんでくる。
 極めつけに、2032年の未来からはトイレットペーパーが姿を消してしまっている!

 あらゆる暴力/批判が消失したユートピアは、「無菌社会」と呼称されることがある。もちろん、ここでの「無菌」とは比喩であるものの、いま社会が目指す「コロナのー無菌社会」と根源は同一のものだ。事実皮肉なことに、世界はいまユートピアを実現してしまった。ロックダウンの影響でアメリカでは建国以来最小の殺人件数を記録し、大気汚染も劇的に改善された。

 あらゆる「危険」を排除することは、容易く肯定され、一度「安全」がシステムに組み込まれれば人はそれを手放すのは困難だということを『デモリッションマン』は描く。「安全」が絶対善とされる今と数々の偶然の一致を見せるのは、きっとそのためだ。

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 この映画で、スタローンともある男が、サンドラ・ブロック演じるヒロインに濃厚接触を求めるもあえなく撃沈する。しかし、それでも濃厚接触を求め続ける。そして、濃厚接触による愛の力こそが世界を変える力の原泉となるのだ。

 安全のために政府に従い自粛を続けるよりも、スタローンになりたいと僕は強く思う。

 この記事に大いに着想を受けて書きました。

The Writer of Demolition Man on the Predictive Power of His 1993 Movie(https://www.vulture.com/2020/04/interview-demolition-man-writer-daniel-waters.html)

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