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美しい星


「一雄は自分が人間どもの政治を学ぼうと足を踏み出したところで、もっと微妙な政治の本質に直面しているのを感じた。女たちはあんなに透明だったのに、政治は闇だった。彼はたしかに何かを見抜いているが、見抜いていることを誰にも隠し、彼はたしかに何かのために利用されているが、その目的を知っていて利用されているふりをせねばならず、自分の知能を隠すためには微笑で足りるが、自分の無知を隠すためには、棍棒をふりまわさなければならぬ。一雄はこうしてじりじりとレストランで待たされながら、彼自身が熟しつつあるのを感じた。甘い豊かな果実のようないつわりに向かって成熟すること。

『僕には今まで何もかも見えすぎた。こいつは人間的状態じゃなかったわけだ。測らずも得体の知れない宇宙人どもが、僕には人間的状態を教えてくれるんだ』

ー彼は二杯目のデミ・タスの冷えたのこりを啜った。ー」 

〜三島由紀夫「美しい星」より抜粋〜

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