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香りで記憶が蘇る「プルースト現象」思い出す記憶の共通点を紐解いてみた

先日、コインランドリーに行った際、かつてパリのスーパーで洗剤コーナーを見てまわっていた時のことを思い出した。

何かの匂いをかいだ際、ふと過去の記憶や感情が蘇ってくる時がある。

私の場合、地下鉄の匂いをかいだ際は、ロンドンの地下鉄を思い出すし、シナモンの匂いをかいだ際は、ニューヨークのマグノリア・ベーカリーで食べたシナモンロールを思い出す。

考えてみると、思い出すのは、海外での旅先のことが多いのだが、不思議と悪い気分にはならない。

でも、別れた恋人を思い出す匂いは別だ。
SHIROのザボンの香水や王将の匂いをかぐと、元カレを思い出して、嫌悪感や切なさが押し寄せてくる。

匂いによって思い出す記憶の数々。
思い出される記憶には何か共通するものがあるのだろうか。
そんなことを考えながら、この現象について調べていると、この現象は「プルースト現象」と呼ばれていることがわかった。

プルースト現象とは

プルースト現象とは、匂いが引き金となり、意図せず何かの記憶が呼び起こされる現象のこと。
マルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」で、主人公が紅茶に浸したマドレーヌの香りをかいだ際、幼少期を思い出した場面に由来する。

本来、視覚や聴覚などの五感はまず情報を管理する大脳新皮質に伝わる。
しかし、嗅覚だけは大脳新皮質を経由せずに、本能を司る扁桃体や記憶を司る海馬へダイレクトに伝わる。
そのため「匂い」は他の感覚に比べて、人の記憶や感情に大きな影響を与えているといわれている。
つまり、ある匂いをかいでいる際に、感情が大きく揺さぶられるような出来事が起こっていると、その出来事は匂いとともに記憶に残りやすいということだ。

共感を呼ぶプルースト現象

2019年にリリースされ、爆発的な大ヒットを遂げた瑛人の「香水」の歌詞もプルースト現象の例だ。

別に君を求めてないけど 横にいられると思い出す
君のドルチェ&ガッパーナのその香水のせいでしょ

別れた彼女と久しぶりに会った際、彼女が変わらずにつけていたドルガバの香水が、かつて二人が恋人同士だった時のことを思い出させたという内容だ。


宇多田ヒカルの「First Love」の

最後のキスは タバコのflavorがした
苦くて切ない 香り

の歌詞もプルースト現象の一例である。

「香水」や「First Love」のように、昔の恋人と関連がある香りをかいだ際に、当時、付き合っていた頃のことを思い出した経験がある人は多いだろう。

それは、おそらく、二人で過ごした時間の中で経験した、喜びや悲しみ、怒りなどといった感情は多くの人にとって忘れがたいものとして記憶に残っているからではないだろうか。


きっと、恋人と過ごした時間というのは、誰かに愛されることで生まれる"確かな自分"を感じた時間だったからだと思う。

匂いで蘇る記憶は確かな自分を感じた瞬間の記憶

匂いをかいで蘇る記憶は、ポジティブな記憶が多いと言われている。


確かに、海外旅行の記憶はいいものばかりで、初体験のものも多く印象に残っている。

だとすれば、元カレとの思い出はどう解釈すればよいのだろう。

おそらく、別れをへて、感情が改ざんされたために、結果的に思い出すと、負の感情を抱くようになってしまったのだろう。

そう考えると、今でこそ、思い出してもいい気分にはならないが、当時は確かにちゃんと幸せだったなぁと思う。

海外旅行にしても元カレと過ごした日々にしてもそこには、満たされた自分がいた。


強く願った夢を叶えた自分
誰かに愛された自分
それはきっと、自信に満ち溢れ、愛され、確かな自分を感じた瞬間の数々だった。

以前、投稿した「思い出は上書き保存」では、「マチネの終わりに」の一節にある「過去は変えられる。変わってしまうとも言える」という言葉を紹介した。

確かに過去は変えられる。いや、自分の都合のいいように意図的に変えてしまっているのだと思う。

プルースト現象では、ポジティブな記憶が蘇りやすいと言われているように、(必ずしもそうではないと思うが)きっと元カレとの思い出も当時はたくさんのプラスの感情で満たされたポジティブな経験だったのだと思う。


だったら、今こうして嫌な記憶として思い出すのはもったいないのかもしれない。


プルースト現象を知ったおかげで
ベスト2の黒歴史を精算できた気がする。

ありがとう。
プルースト現象。

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