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チー牛文学 早苗(29歳派遣社員)

 「すみません。このあたりに美味しい日本酒の店があるって聞いたんですけどおすすめ教えてくれませんか?」 土曜19時、新橋駅の近くで2人組で20代前半くらいの女性2人組に声をかける。 狙うのはいかにも上京したといった感じの垢抜けなさの残る若者。就職して上京したパターンが一番いい。かつてのわたしのように。 「あ、すみません。私たちこのあたり詳しくなくて」 1人の女性が丁寧に断り、そのまま去っていってしまった。 「いやー、早乙女とならいけると思ったのにね」 今日の声かけのパートナー

    • チー牛文学 愛理 (29歳派遣社員)

      「愛理ちゃん、いい人見つかった?」 夕食後に自分の部屋に向かう愛理にママが声をかける。 「うん、来週はまた新しい人とお見合いしてくるよ」 とりあえずママにはそう言って自分の部屋に逃げた。来週会う人がいるのはウソではないが、結婚相談所の人ではない。高校時代の友達、大山由紀にお願いして職場の人を紹介してもらう予定だ。小学生の頃から使っているベッドに寝転び、毎週楽しみにしている恋愛リアリティーショーの続きを見ようとスマホの電源を入れた。 愛理は大手自動車会社の下請けメーカーで働く

      • チー牛文学 圭佑(33歳会社員)

         「おつかれ!」  金曜20時渋谷。圭佑はゴシックロリータ調の服装にあらゆる箇所にクロミちゃんのマスコットをつけた黒髪ハーフツインテールの女に声をかける。スト値は6。黒のタレ目アイラインに泣いた後のような赤いアイシャドウ、ラメ盛り盛りの涙袋。地雷女子と称されるファッションの女性は、圭佑のナンパの定番ターゲットだ。  地雷ちゃんはマイメロのスマホから一度も目を離さず、渋谷の街を歩きスマホなどしていないかのようにスイスイと歩いていく。  今日はこれで8人目だ。1日30人声をかけ

        • チー牛文学 優子(34歳正社員事務職)

           優子は有楽町駅のカフェでアイスレモンティーを注文して人を待っていた。このカフェのアイスレモンティーは喫茶店には珍しくオンザロックで入れるため市販の紅茶を出すチェーンのカフェのものとは味も香りも格段に違う。店内には楽しそうに談笑する若いカップルとストレス解消のために井戸端会議に花を咲かせる女性のグループばかりで、晴れた土曜日の昼下がりにふさわしい、心地の良い騒がしさに包まれていた。高校の同級生である祥恵と綾乃の待ち合わせまであと十分ほど。祥恵のおばさんのツテで宝塚のチケットを

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