見出し画像

もしも命が描けたら〜聞こえない私の視点〜

【本文中にかなり「視覚的な」ネタバレしています。台詞や内容については全然分からない状況で書いているため、私の解釈が間違ってるところもあります。話がわからないので場面の前後が記憶が曖昧です。パンフレットもあえてこれを書く前は熟読してないので聞こえないとこういうふうに見えるんだという感じでご覧ください。ただ、1部後でパンフレットや聞こえる方から教えてもらった内容も書いてるので、これから観劇予定の方はお気をつけてください】※ところどころ敬称略、田中圭さんの呼称が田中圭、圭くんなどバラバラなのはその時の流れなのでご了承くださいませ。

私の今までのnoteをみてもわかるように、わたしは田中圭さんが好きだ。ルックスも性格も歌う姿も何もかもだが、役を生きている彼が1番好きだ。

できれば生で推しをみたいというのはもう全てのファンの願望かなと思うけど、もちろん私もその一人で彼の役を生きてる様を見たいと思っていた。しかしわたしはコロナ禍のタイミングで彼を好きになったものだから、しばらくは無理かと思っていた。そんな矢先、舞台のお知らせ。印象的なビジュアルとともに、『もしも命が描けたら』。

https://tristone.co.jp/moshimoinochi/

界隈はわきたった。脚本は鈴木おさむさん。こりゃ一筋縄ではいかない舞台だぞ。台詞も半端ないだろう。耳の悪くて台詞を聞き取ることのできないわたしに分かるかな。でも会いたいという(正確には「見る」だろうけどいーんだい)気持ちは抑えられなくて。わたしに取っての初日を迎えた。それまでに東京の感染者は連日増え、その日は5094人とついに5000人を超えた。いつもよりこまめに消毒し、あまり手をあちこちに触らない様にして会場についた。

東京芸術劇場の光さす建物が好きだ。視覚優位なせいか、そういうのが好きだ。雨でいつもよりは曇っていたけど、光さすほうをみて内心、胸のドキドキが止まらなかった。平静を装っていたけれど。

画像1

前提としてわたしは耳が聞こえないから、聞き取れない。でも全く無音の世界ではなく、補聴器で聞こえるものもある。わからないのは「判別」だ。台詞や歌の歌詞やアナウンスの内容はわからない。ブザーがなってるな、音楽が鳴ってるな、喋ってるな、怒ってるな、泣いてるな、その程度だ。あくまで音の固まりで一音一音感ずるのが難しい。聴力検査の「ピー」はわかっても、同じ音で「あ」とか「か」言われてもそれは分からない。

あと内容について事前に知り得たことは、月人が恋人を失った?ことなど人生に絶望し首をくくろうとする。すると絵を描くことで命を分け与えることのできる不思議な能力を身につける。月人はふたたび愛する人ができるが、その人には他に大切な人がいた、というパンフレットのあらすじとYOASOBIの曲の歌詞のみ。登場人物の名前は開演前に覚えてなかったので劇中は全くわからない。

話を戻そう。時間になり、会場は暗転。真っ暗というのは私は実際は苦手だ。息が苦しくなる。

すると音楽が聞こえてくる。おそらくYOASOBIのテーマ曲だ。もしかしてパンフレットに歌詞の載っていた歌も流れてるのかな。歌があったとしでても私にはわからない。でも、なんだか落ち着く、高くも低くもなく私が聞き取れる範囲の音だ。真っ暗な中、それを道標に神経を研ぎ澄ます。

やがて舞台は明るくなると、田中圭と 黒羽麻璃央が登場しているのがわかる。心の中で「あ、圭くんだ!」とまず思うが、よどみなく怒涛の台詞を紡ぎ出した彼を見て、田中圭によく似た「月人」だと思い直す。それほど違う。息を呑む。なんだこれ。普段は柔和な顔が引き締まって青い作業着のせいか、精悍に見える。

田中圭は青い作業着、黒い髪、毛量がわかるふさふさセット、黒羽さんは形容し難いんだけど、上は長めの白いトップスで下は黒。髪には金色ぽい一房のメッシュ。大きめの金色のペンダント。妖精にも遊び人にもみえる。わたしは三日月という名前をわかってなかったので妖精みたいだな!と思ってた。

話は舞台に設置された白く丸い円の上で進む。奥も見えるので傾斜があることがわかる。背後には大きな丸があって、そこに投影され、満月になったり月になったりする。

冒頭には円には両手で抱えられるくらいの石?岩?があちこちに無造作に置かれている。3人が手に取って運んでるので重くはない。まん丸ではなくて不規則な多角形。形状はこちらの写真がわかりやすい。

彼は絶望して首をくくろうとしている。縄を首にかける所作でそこがわかる。パンフレットに冒頭の台詞があると教えてもらっていたので寸前に叩き込んだそれを必死で思い出しながらオペラグラスを通して口を読む。

あとでパンフレットを読んで知った「三日月」こと黒羽さんから渡されるのはゴッホの画集だ。三日月の時の彼はおそらく黒子というか、裏方も兼ねていて、物を動かしたり取り出したり移したりする。圭くんや小島さんもそういうことをする時があるが、黒羽さんが1番多く狂言回しの様だ。その時も三日月としてではなく押し入れから見つけた画集として渡すのだと思う。語られる絵は明確にしてないがこれも事前に教えてもらっていた。「星月夜」。私の大好きな絵の一つだ。トートバッグをいつも持ち歩いている。このnoteについているのがそのトートの一部。糸杉と月と家々と。空のうずは落ち着くのかこころを不安にさせるのか。

画像2


関係ないが、田中圭主演『総理の夫』原作者の原田マハさんがこの絵について『たゆたえども沈まず』で書いていて、フィクションだけどキュレーターの資格を持つ原田さんだから面白い。

そして月人(げっと読むがもちろんこれも聞こえない。事前情報で知っていたのみ。他の登場人物もわたしには名前がわからないまま進む)は怒涛の台詞をどんどん紡ぎ出す。絶望のためか早口で激昂しているようにみえる。もちろんわたしには台詞がまったくわからない。そのうち額には汗がうっすらと浮かぶ。息継ぎする暇もなくしゃべってるのはわかるので、すごいなと感嘆する。

誤解を恐れずに言おう。黒羽さんと小島さんは舞台的な所作で美しく、特に三日月の黒羽さんは優雅で。2人とも話し方も舞台のそれだ。前を意識したそれ。しかし田中圭は違う。月人としてそこにあり、声を張り上げてるわけでもない。怒涛の台詞ももちろん言わされてる感はなく、月人として喋っている。生身の人間として動く。だから3人の中において、なんだろ他の二人が妖精や大人みたいに見えるとしたら田中圭は人間や青年に見えるのだ。うまくいえないけど。

台詞がわからないので話で覚えられないから前後が曖昧な記憶になってるけど、月人が真ん中で独白している間丸い円盤のふちを黒羽さんこと三日月が歩く。優雅に。時計回りに。時計回りのせいか、秒針の様にすら見える。ところどころ置かれている岩が時計の数字の位置にすら見える。あれは正午、あれば3時…。

ついに月人が身を投げた時、また暗転。三日月と月人が向かい合ってるので、新たに手に入れた能力の話していたのかな。

そういえば結局絵を描いているシーンはあったけれど、完成した絵は見られないし、作業服はおそらく仕事の運送会社のものだから、画家に見えにくいんだよなぁ。回想の時に筆とか使って書いてるシーンがあったらよかったなぁ。フライヤーにも筆あったし。

月人の人生を振り返ってるのかな?独白の時は、黒羽さんは小島さん扮する恋人?と語り合う月人と二人の前に裏方として柵を持ってきてずっと掲げていたりする。あれは夜景か何か景色でも見てたのかしら。岩を動かしたりもする。飲んでる?ときも岩をテーブルと椅子にしてグラスをもってきてた。あともう一つ何かやってたな、忘れちゃった。(後で捕記、水族館でアシカ?アザラシ?のぬいぐるみを持って動かしてたんだった!)

車でデートする二人。月人のハンドルを握る手とアクセルを踏む足でわかる。楽しそう。柵越しに何かを見てるのもたのしそう。

「僕と結婚してください!」と申し込み、彼女は優しくそれを受けた様に見える。台詞がなぜわかったかというと、右手を差し出してたし、オペラグラスごし見えた口でわかった。あ、プロポーズしてるんだな、と(他に判ったのは「ふざけんじゃねえよ」が2回ほど。これはオペラグラスで口を見ながら聞こえた。圭くんのふざけんじゃねえよ、は大好物なので神様が教えてくれたかしら)。

この間ずーっと月人は喋り続け、汗がしたたるのがオペラグラスでわかるし、後ろを向くと後頭部もびっしょりなのがわかる。たまに髪の毛がぴょこんとなってたりね。水も飲まず出ずっぱりでこんなにしゃべり、ちゃんと月人として動いて激しい動きもする。両手を広げ、片方下げて、片方上げて、また別のほうをあげたり対象の動き。視覚的に美しいなと思う。

しかし、恋人は倒れ(なぜかはわからなかったけど、小島さんにスポットライトがあたらなくなり、座り込んでるので死んだかな?とわかる)、月人は絶望して首をつり身を踊らす。踊らした瞬間、暗転。

しばしの間。たしか音楽がまた流れてた様な。繰り返しあちこちで冒頭できいた客が流れていた気がする。それくらいわたしにすら「耳に残る」。

後半。「スナック フルムーン🌕」の看板。真ん中にワインレッドのソファ。テーブルとほかの席は冒頭からの岩をつかっている。それで、スナックなんだなとわかる。

月人は作業服の上を脱いで作業着の上は下にはだけている。白いTシャツ。小島さん(役名わからなかった、あとで虹子とわかる)は青い大きな花柄のタイトなワンピース。ノースリーブ。髪は一つに三つ編み?スナックのママなのかな。冒頭の恋人の時は確か月人と同じ青い作業着ので、下からそのワンピが見えていた。職場の後輩だからなのね。

パンフレットのあらすじから、月人が励まされて?惹かれる人なんだなって分かるけど、どういう経緯でスナックにつれてこられたのかさっぱりわからない。「よろしくお願いします!」とお辞儀して(例によって深い)たから、働いてるの?その割にはソファでお客さんの様に乾杯したりパスタ食べたり、あとなんか「こんなの食べたことない!」とニコニコ(このへんいつもの圭くんみある横顔)食べてたりするので、お客としてなのかちょっとわからない。あ、グラスもお皿も空。食べる仕草はちょっと圭くんにしては余裕がない様に見えるのは台詞のせいか。それ以外は全く自然。

そのうちに、小島さんの恋人黒羽さんが現れる(役名聞こえてないのであえてこう書きます)。あ、遊び人だ、チャラチャラしてると所作でわかる。勝手に月人が喜んで食べてたのを食べちゃう。あー。

3人で話す時、笑えるシーンがあったみたいで、隣の人の肩が震えていたし、会場の雰囲気が緩んだ気がしたのでそうなんだなと気づく。3人自体はそんなに笑えるシーンとわかる所作はしてないんだけど、その日の夜公演(ソワレ)では圭くんが我慢できず後ろ向いて笑ってたとか。そういうの見たらわかったかな。この中で笑いが分からないのはわたしだけかな?と少し孤独を感じる。みんな笑顔の中、一人だけ真顔なのは暗闇に紛れてるけど。話がわかりたいなぁ、圭くんのせりふの一つ一つがわかりたいなぁと切ない気持ちになる。

でもひとつだけわかったのがあって、たぶん。「僕じゃだめなんだ!」と繰り返していってたような。そこだけ悲しげな雰囲気と口のカタチと聞こえてくる波長でなんとなくそうだと思った。

全体を通して思うのは田中圭の鍛えている肉体が他の二人と比べて顕著で、本当にいつもよりごつく、精悍にみえるの。作業服のせいかしら。作業着も着こなしている。それなのに後半のスナックのシーンはシャツになっているせいか少年のように儚く心細く、幼く見えるのだ。不思議!終わった後、スナックの小島さんと月人の関係って初日ではわからなかったけど、次の日見てようやくわかったんだよとフォロワーさんに個人的に聞いてようやくわかった。おそるべし。話の筋はわからないのに、なんか幼くみえたのよ。

3人とも長身で、月人と小島さん(恋人の時?虹子のとき?わすれた)と、抱き合うシーンがあるんだけど(月人から抱きしめるのと、小島さんから抱き締めるのと)、バランスがすごくよくて、わたし(150センチ)だったらバランス悪いよなぁ、それで彼女なのかなと思う。二人立って並んでまえを見るシーンもあってすごくきれい。並んでといえば、黒羽さんとも前半並ぶシーンがあって、それも身長が揃ってきれい。片方は青で、片方は白で。二人が立って並ぶシーンは背後の満月にも三日月にもなる丸の中にはまって絵画の様に美しい。これ意識してるよね。

丸といえば、ここに色々投影されるとき、満月はクレーターが見える。徐々に三日月になるシーンもある。ゴッホぽく!見える街並みと月がみえている時もある。マーブル風になってるときもある。丸じゃないけどスナックのとき彼らがいる円盤にも模様が投影されてスナックの床のようにみえる。ミラーボールになっていたときもある。水族館かな、魚やエイが泳いでたりする。わたしはせめて圭くんの表情を見ようとオペラグラスを多用していたので、たまに戻すとあれっ、変わっている時がつくことも多かったので、油断がならない。

この丸に。最後に小島さんの愛する黒羽さんが倒れた時に(黒羽さんは前半の小島さん同様横たわるのではなく、小島さんに向けて跪くように固まるのでなんとなく倒れたのかな?と)、月人がいむき命を賭けて描いた絵と思われる美しい絵が投影される。花々。植物。こういう絵を描く人なんだなと初めてここでわかる。でもスケッチブックは最後まで客席に向かって見せないからどんな絵かは実際はわからないけど。 

この辺前後がもう曖昧でちがってるかもだけど、黒羽さんは復活し、歩いてスナックの看板を変える。それはもうフルムーンではなくクレッセントムーン、三日月🌙だ。小島さんと二人が話すあいだ、月人は体育座りで固まり、表情のない顔で座る。中には三日月が左側に投影され(上弦の月?)、その輪郭を反時計回りに月人が歩く。黒羽さんと違って、わざとだろうふらふらバランスをとって、あるく。細い三日月をなぞるのは大変だ。

そして舞台の真ん中、円盤の一番高くなっているところへ歩いていき、なにかを喋り身を投げる。暗転。

カーテンコール。小島さん、黒羽さん、田中圭とでてきて、片方ずつ広げて両手で深いお辞儀。深い表情。手を叩いていたので、オペラグラスで表情を深くみえなかったけど。下手上方に向かって田中圭が手を差し出し、三人でお辞儀。次は上手。最後正面。大きな拍手の中、3人は下手へ消える。カーテンコールは2回。2回目は田中圭だけ出てきて、先ほどと同じくお辞儀をする。そこで話はわからないものの、異次元に連れ去られていた私ははっと我に帰り、もう月人をまとっていなくて、いつもの「圭くん」がそこにいる!と気づき、涙で視界がぼやける。わたしは推しに会えたんだなって。そしてあの膨大な台詞を短期間で覚え、ものにして、さらに月人としての所作も全部叩き込んで。尊敬した。今まで見たどの役とも違って精悍で、「俳優」というよりごつい「役者」だった。そこが舞台の違いか。みんなの様に聞き取れないけど、映像作品とは違う早さ、凄み、肉声の太さ、魂のこもった叫びと慟哭、いろんなものが入り混じっていた。あの膨大な台詞を覚えられる前提になっていて、鈴木おさむさんの田中圭への台詞覚えへの絶対的信頼が感じられる。月人のいろんな感情のうずまき、表情が瞼を閉じても脳内にこだまし、映し出される。田中圭とはかくいう役者だったか。そこへ名前の通りしなやかな黒羽さんと落ち着いた小島さんの役のまとい方がスパイスされる。彼らと、背後や床の丸に映し出されるアートワークとYOASOBIの音楽、多重奏になって私たちの意識が絡め取られ、囚われ、異次元の世界に運ばれていく。

カーテンコールでふと観客は唐突に現実に引き戻され、投げ出され、生身の俳優に戻った3人に正対し、思わず拍手をするのだ。

まるでひとときの夢。魔法にかかったような。

丸い床と丸い背景。丸い世界から戻ってきた。

さあて、旅は終わった。どうしようか。わたしは今度はこの物語のピースを埋める旅に出ようか。物語が把握できたとき、私のこの舞台に対する見方はまた変わるのかもしれない。






















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?