【医学生・研修医向け】君たちはどう生きるか - 誰も教えない医師の進路の話 - 6. 君たちはどう生きるか


長々と書いてきましたが最終稿です。

医師の世界は労働環境やキャリアパスが隠されていることが非常に多く、また、やりがい搾取とも思える状態が放置され下手をすると制度化までされている業界です。
更に加えて、これから進路を選択する若者に情報を与えないという悪習がはびこり、そのせいで自分の希望と合わない選択をしてしまい途中でドロップアウトしたり、場合によっては精神を病んでしまったりする先生が非常に多くなっています。


6-1. 良い研修病院


例えば研修医の募集についても同様です。

研修医募集のイベントなどでは、特に有名研修病院などが積極的にバラ色の研修生活やスーパー研修医となった先輩たちの姿などを喧伝します。
「当院の研修は世界一である」と言わんばかりのプレゼンテーションばかりです。

しかし、少し立ち止まって考えてみて下さい。
もし皆さんがそうした有名研修病院の院長であったら、「自院の世界一の研修を受けた優秀な研修医」をその後どうしたいと考えるでしょうか。

普通であれば、常勤医として雇用したいと考えるはずです。
有名研修病院であれば、研修医の募集数に対して応募数は下手をすると10倍を超えるレベルとなりますから、安定的な医師の確保もできるため一石二鳥となるはずで、しない理由がありません。

ところが実際に常勤医(給料ダンピングの後期研修医は除きます)として雇用されているのは、研修終了生の10%以下という極めて低い水準であることがほとんどです。
雇用数を見る限り、病院側は明らかに「世界一の研修を受けた研修医」を必要としていないのです。

これはどうしたことでしょうか。

この問題を考えるには、そもそもそうした有名研修病院の役割を考える必要があります。
例えば大学の関連病院として入局者の訓練をする病院、教授候補の育成を担う病院、医局とは独立しているものの大学とは大学院進学について提携している病院等々、大規模な病院であればあるほど、有名な病院であればあるほど、様々な機能を担っているのです。
そして、その機能の中で、研修医は単に安価な労働力として扱われているだけである可能性があります。安価な労働力はいくらでも欲しいのです。

もちろん多くの研修医に来て欲しいでしょうから、募集は大規模に行いますし研修にも力を入れていると喧伝します。しかし、常勤医への採用数の低さは何よりも雄弁に物語っているように見えるのです。

これを理解した上で選択するのであれば、全く問題ありません。
また、そうではない有名研修病院も数多くありますので、全てがそうとは限りません。

しかし知らずにこうした病院を選び、そこで燃え尽きたり病んでしまったりする研修医は、意外と多いことも事実です。気をつけて下さい。


それでは、良い研修病院の条件とは何でしょうか。
私が考える条件は以下の全てです。

・給料が多い
・休みが多い
・労務管理がしっかりしている
・気管内挿管やエコーなど基礎的な手技を任される機会が多い
・看護師が「働かない」ため看護師の仕事を自分でやらざるを得ないことが多い
・当直帯や救急の急患を限りなく一人で任せられる事が多い
・出会いが多く結婚相手を選べる
・同期が多く、同じ科を2人以上で回ることが多い
・様々な大学出身者がいる

お気づきの通り、良い研修病院とは必ずしも良い病院や働きやすい病院ではないのです。
是非、参考にして下さい。

6-2. 騙されずに自分の人生を生きよう


ここまで読んできた皆さんは、間違いなく一般的な十年目近辺の医師たちより遙かに世の中が見えています。
そう、皆さんの先輩たちの多くも実はこうしたことを知らずに生きているのです。

勘違いを避けるために明言しておきますが、それは決して頭が悪いとか、能力が低いということではありません。むしろ、真面目にきちんと言われたとおり以上を目指して働いている素晴らしい先生方こそ、実はこうした情報に触れにくいのです。

医師の世界では報酬や労働条件を主張することを世俗的で医師として恥ずかしいと見る風潮が未だに主流です。特に医局派遣であれば、労働条件も労働契約書も見ずに働き始め、自分の報酬を知るのは初めて給料が振り込まれた時ということは至って普通にあることです。

私はたまたま様々な場所で働く機会を得て、様々なキャリアの段階を経験し、様々な職種の友人たちに囲まれることでこうした情報を知るに至りました。そしてまた、半数以上が夢破れて医局を去り、有能な研修医であったはずの先生方が心を病んでバイト医となり、あるいは死を選びということを数多く見聞きするに至り、皆さんに情報を開示しておくべきだと考えこの文章を書いています。

こうした私の姿は間違いなく医師の世界では異端であり、眉をひそめる先生方も多いことでしょう。
先ほども書いたとおり、労働条件などに言及することは、医師として恥ずかしいことという先生は非常に多いのです。

しかし、そんな先生方にももう一度考えていただきたいのです。
果たして騙すように勧誘して入局させることが、本当に正しいことでしょうか。入局させることは新入局員の人生を背負うことでもあります。先生に、その覚悟や自覚はおありですか。また、そもそもご自身の10年後20年後の未来は、本当に安泰ですか。

60歳の時、皆さんはどのような働き方をしていたいでしょうか。
どんな家族がいて、その維持にどの位の収入や貯蓄や時間が必要でしょうか。

人生を選ぶ時には、医師以外は皆考えることです。
まずはそこから考えてみませんか。


最後に、繰り返しになりますが本稿で得た知識を嫌う医師は多いです。
特に年配の先生であれば尚更です。
ですから、皆さんは黙っていましょう。
黙って観察し、黙って危ないところを避け、黙って正しい選択をしましょう。

ほとんどの場合、自分に合った入局先は全国で多くて2箇所程度です。
選択肢の多さに迷ったら、もう一度本稿に戻り、自分の生き方を考えてみて下さい。


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