竜神の能面「黒髭」の形の話。
「今度、龍神が出てくる演目があるから」ということで能楽師様からお話をいただき、龍神の役をやるための「黒髭」という面を打っている。
見るにつけ、彫るにつけ、不思議な形だなぁ、と思う。下顎が長くしゃくれた形状が特徴的。最初にこの黒髭を考案した人は、どうしてこのような形にしようと思ったのだろうかと首をひねる。
実を言うと、「黒髭は龍神の役に使う面」と聞いて少し驚いたのだ。そうと聞くまで黒髭が龍の顔とは結びついていなかった。龍というと、上顎と下顎の両方が前方に長く伸びている。龍神が人の姿をしたものが黒髭ということなので、上顎は人の顔らしく、下顎は龍の特徴として長く伸びているということか。
そう思うと、眉根を寄せた眉間も、その下のぎょろりとした目玉も俄然、龍に見えてきた。なるほど。
黒髭は龍神と腑に落ちると、彫刻刀の運びも良くなる。彫り進めては、少し離して見てパーツやバランスを確認。さて、次はどう進もうかと迷いが生じた箇所も、龍神の顔だとわかれば進むべき方向が見えてくる。脚本を書くということをしてきた私には、どのような役に使うか、ということが面打ちにおける最良の道標となるようだ。
こちらの面は、梅若会定式能9月公演『竹生島』で使われます。
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