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休職日記 9日目

グラデーションカラーにするために毛先のブリーチをしたら、一週間も経たないうちにカラーが抜けて毛先だけ金パのヤンキーになったのがつい先月のことだ。「こりゃいかん、怒られる」とカラートリートメントを塗ったくり自分であれやこれやしているうちに毛先が何故かくすんだ緑色で落ち着いてしまった。アッシュグリーンと言えば聞こえはいいが、どちらかというと苔っぽい。頭が苔むしている。おまけに髪の毛が傷んでいるのでシルエットが末広がりだ。ああもう切りたい。さっぱりと春らしくショートカットにしたい。美容室のお姉さんにも会いたい。鏡を見るたびにショートカット欲がムクムクと沸き上がるけど、でも今切ったら誰からもリアクションがもらえない。それがなによりもったいないし、つまんない。ヘアカットはある種のエンタメなので、ただ切れればいいってもんでもないのだ。そう思うと、今日も美容院への足は遠のいてしまっている。

夜、お友達と久しぶりに電話。相変わらず「わかる」の連発でたのしいし、元気そうで安心した。当たり前のように、この国の現状を憂う話もした。思えば去年参加した推しのバースデーイベントで、許容範囲を越えた幸せが推しから供給されて溺れそうになったあの日の夜も政治の話をしたんだった。幸せすぎて身がもたないから釣り合いをとるために真面目な話もしとこうよ、なんて言って。こうなってくるとあの日が最早、夢のようだ。

本当なら彼女とは今月一緒に舞台を見に行くはずだった。舞台も楽しみだったけど、友達と知らない街で遊ぶのもそれ以上に楽しみだった。でもそれも、全部なくなってしまった。釣り合いなんかのためじゃなく今、ちゃんとこの国の内閣がわたしたちに何をしようとしてるのか見ないといけない。声に出さなきゃいけない。抱えきれないほどの幸せをもらったあの日の夜を取り戻すために。

【一日一映画】

グランド・ブダペスト・ホテル(2014)

脚本・演出・音楽・衣装・カメラワーク、この映画を構成するもの全てが完璧、一分一秒たりとも見逃したくない!と見るたびに思う大好きな映画。時代で変わる画面のアスペクト比をはじめとする、こだわりだらけの構図は、どこで一時停止しても絵になる美しさ。見るだけで脳汁がドバドバ出て大変。ビジュアルの美しさに反して、この作品全編通して底の方に流れる退廃的な空気もたまらない。学生の頃にこの作品に出会っていたら、何かしら進路に影響を与えられていたはずだ。雪山で決死の追いかけっこをしている最中に殺した敵に対して、しっかり黙祷を献げるシーンが最高に好き。怒ったり慌てたりしながらも、ホテルマンとしての尊厳と誇りを忘れず振る舞うグスタヴ氏とゼロが笑えるし超いい。

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