陰キャ非モテの私が女装して発展場に行った話#03

個室に入って鍵をかける。
少し息を整える。
キャリーバックを開けて着替えを取り出す。
これから私は「彼女」になるのだ。
今まで自分の部屋でしかしたことのない行為。
今それを繁華街の一室でしようとしているのだ。
わずかに震えるのは不安感と高揚感どちらからだろうか。

下着まで着替えるには一度全裸になる必要がある。
それはまるで男性性を脱ぎ捨てて新たな性別に生まれ変わるための儀式のようであった。
全裸になったとき胎内回帰したかのような感覚を覚えた。
ショーツに足を通す。
自らの男性性を無かったことにするのだ。
次にスカート。
黒のニーハイソックスは女性的であり無駄毛を隠してくれるので良い。
ブラジャーはショーツとセットのシンプルなデザインのものにした。
男性であれば本来味わうことのない締め付けは私に恍惚感をもたらす。
ブラウスのボタンは男性のワイシャツとは左右逆になっている。
ボタン一つ一つを掛ける毎に「仕上がっていく」感覚を覚える。

いわゆる「首下女装」の状態になった。
まだ「彼女」は降りてこない。
男の顔を変える必要がある。
実際に始めてみるまでメイクは変身できる魔法のようなものだと思っていた。
ところが実態はその逆で、おまじないではなく動作一つ一つに根拠がある。
マジカルではなくロジカルなのだ。
鏡の中の自分と向き合い悪戦苦闘する。
変じゃないだろうかと何度も不安になりながら気がつけば一時間以上経過していた。

最後にウィッグをかぶる。
長い髪。
女性の象徴。
位置を調整して毛の方向を整える。
鏡の中に「彼女」がいた。
来てくれた。
自分の部屋から出たことのない彼女が外の世界に今居るのだ。
まだまだ低クオリティでとても美人には見えないかもしれない。
たが私にはちゃんと女性に見えるし美しく思えた。

「大丈夫。かわいいよ。大丈夫」

鏡の中の不安そうな彼女に声を掛ける。
個室の鍵を開けて扉を開く。

私と彼女の夜が始まる。

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