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『喉が痛いは“火”のせい!?~上火と中国医学の世界~』


中国で暮らしたことのある人ならかなりの頻度で耳にする言葉“上火(shàng huǒ)”。中国人との会話の中で喉が痛い、頭が痛い、吹き出物ができたなどと言うと、大抵は「上火了吧?多喝水!(shàng huǒ le ba? duō hē shuǐ! 上火でしょう?水をたくさん飲んで)」と返ってきます。

おつまみのピーナッツを食べていれば、「别吃太多,不然会上火。(bié chī tài duō bù rán huì shàng huǒ。上火になるから食べ過ぎないでね)」と注意されます。日本人からするとなぜ何でもかんでも“火”のせいにすの?“火”ってそもそも何?と謎の多い単語です。今回は中国人の生活に根付いている“上火”の意味とその背景にある中国医学についてご紹介します。

“上火”-中国医学における火の意味


上火は一言で表すのにちょうど良い日本語の単語が無く、翻訳しにくい言葉の一つです。上火を中日辞書で調べてみると「のぼせた状態、火照った状態」と出てきます。

「のぼせる」と聞くと、日本人ならお風呂に長く浸かり過ぎてのぼせた状態を思い浮かべてしまいます。しかしこの「のぼせる」は少し意味が違います。中国医学の基本的な考え方で、人間の体には陰と陽というプラスとマイナスの力が働いており、この陰陽のバランスを保つことが良いとされます。

体内には目に見えない“火”のような熱があり、その“火”が陽に傾く、つまり強くなり過ぎて体内に熱がこもり、様々な器官に炎症が起きた状態のことを“上火”、その“火”を下げることを“降火(jiàng huǒ)”と呼びます。“上火”の主な症状として喉の痛み、歯の痛み、吹き出物、口の中が乾く、不眠、口内炎等が挙げられます。

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“上火”の食べ物と“降火”の食べ物


先程の陰と陽の考え方で、中国医学では食べ物にも熱属性と涼属性のものがあり、熱性の食べ物を食べ過ぎると上火になります。冒頭のピーナッツもその一つです。ちなみに中国人の友人曰く「炒ったピーナッツはダメだけど、水煮にしたものは大丈夫」だそうです。同じ食材でも調理方法で属性が変わることもあるようです。

他にも代表的な上火になりやすい食べ物には辛い物、脂っこい物、乳製品などがあります。熱々の真っ赤な四川料理やバターたっぷりの洋菓子、揚げたての唐揚げなどは間違いなく美味しいですが、上火にならないためにはほどほどが良さそうです。

反対に降火効果のある食べ物にはキュウリやゴーヤなどのウリ科の野菜やスイカ、梨、バナナ等の果物がありますが、同じ果物でもライチ、マンゴー、ドリアンなどは上火になりやすい食べ物なので注意が必要です。中国の書店ではこの“上火”の食べ物と“降火”の食べ物を専門的に取り上げた本がたくさん並んでいます。

美味しく“降火”


上火の原因は食べ物だけではなく、気候も関係します。特に熱帯や亜熱帯に属している南方の地域では高温多湿の夏季が数ヶ月続き、上火になりやすい状態です。そのような地域では降火効果のある美味しい食べ物が充実しています。日本でも最近は人気のある台湾スイーツや香港スイーツにはこの中国医学の知恵が生かされています。その中でお勧めのものを何点か紹介します。

○緑豆
日本では緑豆もやしのイメージが強いですが、中国ではどこのスーパーでも市場でも手に入るポピュラーな食品です。値段も安く、乾燥豆1㎏あたり百円程度で売られていることが多いです。お粥に混ぜたり、スープに入れたり、饅頭の餡として使われることもあります。特に南方では夏に“绿豆粥(lǜ dòu zhōu)”又は“绿豆汤(lǜ dòu tāng)”がよく食べられています。日本で言うお汁粉のようなもので、小豆の代わりに緑豆を使います。温かいままでも、冷やしても美味しいですし、降火効果で夏バテを防いでくれます。また“緑豆アイスキャンディー”もお勧めです。こちらも日本で言う小豆アイスのようなもので、街の小さな商店でも大抵は置いています。

○仙草
中国原産の植物で漢方の生薬の一種です。降火効果があり夏バテ対策として使われています。仙草の茎や葉を乾燥させたものを煮詰め、煮汁を冷やすとゼリー状になります。この“仙草ゼリー”は中国の南方で人気のスイーツです。仙草ゼリー自体は苦みがあるので、シロップやハチミツをかけて果物やナッツをトッピングしたスイーツとして売られています。最近では日本でも流行したタピオカミルクティーのように、甘いミルクティーに仙草ゼリーを入れたものなどもあり、とても美味しいです。自宅でも楽しめるように缶詰や粉末でも売られています。

効果抜群“涼茶”にチャレンジ!

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降火と言えば語らずに終われないのが“涼茶(liáng chá)”です。広東省などの南方では街中に涼茶専門店がたくさんあります。店のカウンターには効能別に複数のやかんが並べてあり、中には漢方薬を煮詰めた薬液‐涼茶が入っています。値段は紙コップ一杯で五元くらいからあり、子供からお年寄りまで親しんでいる庶民の味です。

店の中では近所のお年寄りが寛いでいたり、「今日は暑かったね。」と言って学校帰りの学生や仕事中のお巡りさんが立ち寄って一杯飲んでいったりします。“涼”と言っても冷たい飲み物ではなく大抵はホットか常温の状態で売られています。

味については人により意見が異なると思いますが、漢方薬の苦みに慣れていない日本人にとっては相当インパクトのある味かと思います。「良薬口に苦し」をそのまま体験できる味です。ただこれは個人的な観察結果ですが、何度か飲むうちに不思議と味覚が慣れてきて、この強い苦みに“はまる”人もいるようです。中国の南方へ旅行に行く際は是非チャレンジしていただきたいです。

終わりに

“上火”のように中国医学に基づく考え方は中国人の日常に様々な影響を与え、その生活に根付いています。もちろん中国でも西洋近代医学による治療を行う病院もたくさんあります。

この二つの医学は大本の概念から病気へのアプローチまで全く異なっています。中国人はそれぞれの良い点を認め、新しいものも受け入れ、伝統的なものも守りながら賢く使い分けているようです。日本でも体質改善などに漢方薬は注目されているので、街中で漢方薬局を見かけた時は一度立ち寄って中国医学の世界を体験してみるのも良いかもしれません。

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。

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