Outside of recognition

人知れず変化し続ける
昔の姿は見る影もない
誰の記憶からも消え去り憎悪と恐怖の目が向けられる
己自身でも己が何であったか理解できない
理由もなく動く
何故かはわからないし知ったことではない
動き終えた時目の前に存在する
その生命を前にして高ぶるナニカをぶつけるだけ

存在が変化し擬似的な消滅を迎えることで
また新たな生命が生まれるのだ
繰り返し繰り返し
なんども繰り返し生命の均衡を保つ
循環する憎悪と恐怖と無垢な心
誰もその因果を変えられはしない
気づくはずのない変えることのできない運命
偉大な人物も尊敬を集める人も
身近な人物も大好きなあの人も
消えてしまって気づかない
「目の前のそれが彼らなんだよ」
そんなことは夢にも思わない

なんの不幸か
どうして
なんで
わからない
気づいたら
知ってる人がいなくなっている
でもみんな何事もないように過ごしている
聞いてみても私を怪訝そうに見るだけで

あの原理を発見した人も
あの絵を描いた人も
テレビで見ているあの人も
私の弟や友達や彼氏も
いないのに
いなくなってるのに
なんでみんな普通に過ごせるの?

まだ存在している私の友達
彼女の家族はいなくなっていた
でもそれが当たり前だとでもいう風に
飄々としている
なんで?

…正確には存在している
でも、違う
わかる
だって…
真っ黒なんだもん
体が顔が
全部真っ黒
塗りつぶされたように
人の形をしているだけのモノ
いつのまになり変わった得体の知れないもの
気づかないはずがないのに
私だけが気づいている?

街を歩く
今日も“出た”らしい
よくわからないものが
なんと表現すればいいかわからないが
強いて言うなら『ソレ』
この呼び名はすでに一般化してしまっている
出現するだけで身震いがする
激しい憎悪と恐怖が体を支配する
私個人は何かされたわけではないのに…

ソレはいつも突然発生し動き始める
大都市の真ん中に出現することもあれば
どことも知らない限界集落にだって現れる
決まってソレらは人の前まで移動して消える
こっちまで泣き出してしまいそうになる悲鳴を残して
わけがわからない
なんだってそんなことのために現れるのか
なんでそれだけなのに
憎くて怖いのか
わからない

ソレが出た
今の私は何が何だかわからなくなっていた
母と父は部屋に閉じこもってしまって動かない
小さな子供のような姿のソレは

私の弟だった

え?
弟は私の前にくるとボロボロと泣き出して
抱きついてきた
こっちまで悲しくなるような鳴き声は
今の私にはこたえた

悲鳴を残して弟は消えた

…頭の整理がつかない

両親に言った
弟だった。ソレは弟だった
両親はあんなものをうちの息子と見間違えるのか!と怒鳴ってきた
そうだった
あれには憎悪と恐怖を抱くのが当たり前なのだ
私がおかしいのだ

真っ黒な存在
今までソレだったものが弟として現れたこと
私以外の認識の異常

何かが見えそうだが…
なんでこんなことが起きているんだ?

…弟だった黒い存在がいなくなっていることに気づいた。
そしてさっき怒っていた両親は何事もなかったようにしている

弟について聞くと
あんたには弟なんていないでしょと言われた

……ああ

その日を境に私に見えているものが一変した
真っ黒な人型だったソレは人間のように見えた
…いや、あれは確かに人だ、人間だ

近所のおばちゃん、八百屋のおじさん、学校の先生、友達のお母さん…

なんで?
悲しそうな顔で現れて、大事な人から恐怖の眼差しで見られる
悲鳴を残して消えてしまう

なんのためにこんなことが行われているのか

私はなんでこんな地獄を見せられないといけないのだ

彼らが何をしたというのか

…ふと、彼らの考えていることが知りたくなくなった
あの悲しそうな表情は、察するに消える前の大事な人のことを思っての表情だろう
しかし、実際どうなのかはわからない

そこで、私は彼らに接触することにした

…あの、おぞましいまでの恐怖感がいつしか消えていることに気づいた

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