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【時事】北海道土地買収 情報整理

デマが何度も何度も何度も何度もリサイクルするので、これも一回きっちり整理しておきましょう。

まあ、このネタの拡散ポイントはニュース女子ですね。当時は私も観ておりました…。これも信じてた時代がありました。

2017年12月18日「ニュース女子」より

これ、放送が2017年なのでもう6年以上経過します。X(旧twitter)上でも、色んな方に検証されて、その都度訂正が入るのにゾンビのように復活します。完全に一回デマの根絶を図りたいなぁってのが今回の記事作成の理由です。

なお、ヘッダーは「北海道」で調べたらなんかかっちょいい画像が出てきたのでそれにしました。意味?ねーよそんなもん(A新聞)


なお、データとして「森林」以外のものがありません。北海道は7割が森林であり、宅地や都市部はここに含まれていないのをご了承ください。まあ、住宅地や都市部も、そんな大規模な面積が海外資本に買われているという話も聞きませんし。


01. どのくらいの土地を誰が買っている?

まずここを確認しましょう。ネットの(周回遅れの方々の)論調はここが思いっきりズレています。


01-1. 2017年ニュース女子のデータより

さて、上記のニュース女子(2017)のネタですと、外国資本に買われた土地の面積は2411haで東京ドーム515個分だそうです。さて、ここで面積を確認してみましょう。

上記ニュース女子のデータで比較(2017年放送)
❶北海道の総面積 :8,345,000 ha ※これは東京ドーム1,784,200個分
❷東京ドーム515個分の面積:2,411ha
❸比率:2,411 / 8,345,000 = 0.028%

外国資本に買われた面積が0.028%という事は「日本人が所有している面積比率は99.972%」って事です。

0.028%という数値をまず確認したうえで、再度上記の画像をご覧ください。
オレンジの箇所、結構大きいですよね?これは「1ヶ所でも買われていたら市町村まるごと塗り潰し」というスタイルだからです。

2017年12月18日「ニュース女子」より

01-2. 2023年7月 北海道水産林務部データより

上記のようなメディアのデータではなく公的データから読み解いてみましょう。6年経過しているので数値は変動があります。

北海道水産林務部データで比較(2023年)
❶北海道の総面積 :8,345,000 ha ※これは東京ドーム1,784,200個分
❷外国資本購入森林面積:3,256ha
❸比率:3,256 / 8,345,000 = 0.039%

2017年から2023年の6年間で0.011%増加です。600年で1%増える計算。これ、爆買いと言えるのでしょうか?ここでも上記のように面積比率を算出すると、2023年時点で99.961%が日本人の所有です。


01-3. 実際の面積イメージ

ミスリード可視化はこちらのとおり。

ニュース女子の画像
実際の面積

01-4. 誰が買ってるのか?

海外資本等による森林取得状況(北海道水産林務部)の過去10年分のデータをピックアップしました。海外資本(国内の外資企業を含む)の一覧です。

・過去10年間に海外資本に買われた土地合計:1636.51ha
・最も大きい面積が買われた年:2014年(196.9ha)
・最も多くの土地取得を行っている国:中国(699.45ha)
・海外資本等による森林取得中で中国の占める割合:42.7%

その年ごとに「一番大きい面積を取得した国」の箇所を赤くしております。割と分散している印象があります。とは言っても。中国は確かにコンスタントに土地取得をしているので、累積として最大ではありますが。

が、ネットの論調では「まるまる中国が買い占めている」ようなミスリードが跋扈しています。そういう印象ある人多い気がしませんか?

海外資本等による森林取得状況(北海道水産林務部)より筆者作成

なお、ここ3年ほどは土地取得のペースが緩慢になっていますが、これはコロナの影響が多分にあると思われます。


02. 法的に防げないの?

日本側で規制をかけて、海外資本による土地取得を防ぐことは可能でしょうか?「我が国の土地が海外資本に買われていく」事に忌避感を覚える方は多いとは思いますので、確認してまいりましょう。


02-1.GATS最恵国待遇・内国民待遇

WTOのルール上、外資の土地取得排除は難しいです。その理由が、関税と貿易に関する一般協定(GATS:General Agreement on Trade in Services)です。筆者も大学の時に国際協定やウルグアイラウンドのあたりは学んだ記憶があります。(まあ、きれいさっぱり忘れてますけど)

この協定の2条最恵国待遇と17条の内国民待遇義務(外国人が日本において、租税、財産、事業活動で、日本人同等に扱う、不利にはならないようにするルール)があるため、海外資本の土地購入に規制をかけるのは不可能です。なお、国際条約・協定は国内法より上位概念です。つまり法改正をどれだけやっても無理ですね。

【第2条最恵国待遇 MFN:Most-Favoured-NationTreatment
加盟国のサービス及びサービス提供者に対し、他の加盟国の同種のサービス及びサービス提供者に与える待遇よりも不利でない待遇を与えなければならない。(=与えられた最も有利な待遇をすべての加盟国のサービス提供者に与えなければならない)
【第17条】内国民待遇(National Treatment)
約束表に記載した分野において、約束表に定める条件・制限に従い、サービスの提供に影響を及ぼすすべての措置について、他の加盟国のサービス及びサービス提供者に対して、自国の同種のサービス及び提供者に与える待遇よりも不利でない待遇を与えなければならない。

外務省 サービスの貿易に関する一般協定(GATS)の解説

日本人が土地を購入できるのと同様に、外国人も土地を購入できます。なお、これを修正するには加盟国の賛同を得て、条約の締結し直しが必要となります。現時点では、日本だけでどうにかなる話ではないですね。

なお、GATS加盟国が全てこのような形かというと、実はそうではありません。GATS加盟国においても「外国人等に対する土地の取得及び利用を制限する権利を留保」することにより、国内法で制限することができている国も存在します。1994年当時は短命政権が連続していた時代で細川・羽田・村山政権時代。おそらくはこの協定に土地売買に関する留保条項を入れる(土地の取引はGATSの締結内容に含めませんよ)ところまでの余力がなかったものだと推察します。悔やまれますね…

これを変更するにはWTO閣僚レベルの会議で3/4以上の決議が必要です。


02-2.憲法上の「財産権」

例えば「日本人が誰も見向きもしない土地」を売却したい土地所有者がいたとします。外国人がここを購入したいと言ってきた場合、かなりの方が売却するのではないかと思います。

日本人の買い手のみに限定した場合、いつまで経っても売却が出来ない、1円の利益も出ない。が、外国人に販売すれば売却益が出ます。仮にこれを、政府が「国防上まずいから販売してはダメです」とストップをかけた場合、土地所有者は「得られるはずの利益を国によって阻害された」形になります。「財産権の侵害」は憲法違反になりますので、国はここを制定する訳にはいかないようです。(後述の高市早苗チャンネルにて解説有)


02-3.玉木雄一郎(国民民主党代表)の解説

玉木代表も「現在の状況下では出来ない」という解説をしていますが、完全にNGとは言っていません。TPPやRCEPでは留保がなされていますので、その方向性からの規制に言及しておられます。
が、それでも「かなりの外交努力が必要」と述べておられます…。


02-4.高市早苗経済安保相の解説

かつて「安全保障土地法案」の議員立法を目指しておられた高市議員の解説がこちら。GATSと財産権の側面から法規制は難しいと結論付けておられます。「利用規制」については後述します。


03. 水資源は大丈夫?国防上大丈夫?

世界では約8.4億人が給水サービスを利用できていません。また水洗トイレを使えない人が約23億人もいます。世界的に生活用水は枯渇傾向ですね。この水資源を中国が狙っているという論調は根強いです。また、中国には国防動員法があるので、防衛上の懸念があるという主張もよく目にします。本当にそうなのか、ここを検証しましょう。


03-1. 北海道水資源の保全に関する条例

まず、国土交通省の資料をご覧ください。47都道府県で86条例、656地方公共団体で834条例を制定しています。意外とガチガチですね。

国土交通省 地下水関係条例の調査結果

で、実際に北海道はどうなっているのかというと、下記のとおりです。この条例は2012年4月1日にスタートしています。

【事前届出制】
水資源保全地域内に土地を所有している方などが、その土地の権利を移そうとするときは、契約締結の3月前までに、その土地の所在地を管轄する道の総合振興局・振興局に届出が必要となります。届出面積の基準はありませんので、移転の面積が小さくても、届出が必要です。

北海道水資源の保全に関する条例
北海道水資源の保全に関する条例

中国資本であろうがなかろうが、水資源に関しては土地取引行為の事前に届け出が必要です。水源地を買われたとしてもその地下水は勝手に使えないですね。


03-2. 河川法による制限

地下水が利用できない場合、次に「水を確保できる手段」は河川かなと思います。が、これは現実的ではないですね。

公共用物たる河川は一般公衆の共同使用に供せられて公共の福祉に奉仕すべき使命を有するから、特定人がこれにつき完全に排他的独占的な使用権を有することは公共用物としての性質と相反する

国土交通省 水利権について

03-3. 水輸送コスト

北海道は湧水数は多いようです。ミネラルウォーターの生産も増加傾向にあるようですが、全国におけるシェアは4%程度。全国における北海道の人口比率とほぼ同様です。ここから推察されるのは「ほぼ、道内で地産地消的に消費されている状態」でしょう。これは輸送手段・コストなどの制約が多いためと考えられます。遠方に陸路・水路等で運ぶには、水は商品単価が安すぎるのではないかと思います。例えば同じ重量でも「精密機械10トン」と「水10トン」だとかなり動くお金が違いますよね。

海外への水販売も検討しましたが、これは相手国・地域との信頼関係の構築が不可欠になりますが、水バッグをえい航しての輸送、定期航路の貨物船のバラスト水としての輸送、専用船(タンカー)による輸送など、様々な輸送形態の可能性があると考えられます。コスト面からは、専用船による輸送が最も効率性や安定性を発揮できるとみられますが、相当量の安定的な利用量を前提とせざるを得ず、相手国における受け入れ態勢の整備が不可欠になるものと見込まれます。

株式会社日本政策投資銀行北海道支店企画調査課「北海道の水ビジネス を考える」

要は継続的に大量の水を採集して運搬を行わないと、コスト的にペイしないって事ですよね。


03-4. 治外法権になる訳ではない

国防動員法がよく引き合いに出されますが、土地を買われたところで、そこが治外法権になる訳でもありません。例えば横浜中華街では日本の法律が適用されない訳ではないですよね。あくまで「日本国内では日本の法律が適用される」です。これに関しては堀江貴文氏がズバリ記載しておられました。

PRESIDENT ONLINE 堀江貴文寄稿

03-5. そもそも動員をかけようにも無人の土地が多い

投機目的で「この土地を将来的に高値売却しよう」という人に、二束三文の土地を売りつける商法を「原野商法」と言います。電気もガスも通っていない場所が非常に多いようです。もちろん、ここに人は住んではいないです。無人のところからどうやって動員をかけるんでしょうか?

PRESIDENT ONLINE 堀江貴文寄稿

04.土地利用規制

土地売買の規制が難しいので、日本は「利用」で制限をかける方向性に舵を切りました。その辺の解説を少々。


04-1.重要土地等調査規制法

2022年9月20日「重要土地等調査規制法」が施行されました。この法案で指定されたのは「自衛隊の基地」や「原子力発電所などの重要拠点周辺」です。安全保障上、重要な土地は自由に利用できないのですね。具体的にはこちらです。

【注視区域】
・重要施設の周辺
:防衛関係施設、海上保安庁の施設及び生活関連施設
 ※原子力関係施設と空港から選定。
 ※施設の敷地周囲おおむね1,000mの範囲内で指定。
・国境離島等:国境離島や有人国境離島地域等の離島について個別指定。

【特別注視区域】
・特定重要施設:機能が特に重要なもの又は阻害することが容易であるもの。 他の重要施設による機能の代替が困難であるものの周辺の区域。
・特定国境離島等:機能が特に重要なもの又は阻害することが容易であるものであって、 他の国境離島等による機能の代替が困難であるものの区域。

重要土地等調査法の概要

04-2. 国防上重要な個所が買われているか?

では、よく俎上に上がる「国防上重要な場所が買われているか」も併せて検証しましょう。実はあまりかぶっていないんですよね…

ニュース女子の画像
北海道の自衛隊の基地箇所

札幌・小樽・千歳あたりの「くびれの部分」は一致するとして、他の箇所はほぼ一致していないというか…


05. 国民民主党の外国人土地売買の規制法案

2023年5月11日、国民民主党により「外国人土地売買の規制法案」が提出されました。「国内の土地が外国人に自由に売買されるのは問題。重要土地調査法だけでは不十分」として、外国人による土地の取得・利用実態を5年以内に調査することを政府に義務付ける内容です。
さらに同年6月16日には、日本維新の会と協議し内容を修正した法案を再提出。この再提出された法案には下記のような内容も盛り込まれています。

・水源地なども規制する
・土地だけでなく建物も規制する。
・国が集中的に施策を策定・実施する責務を有する。
・地方公共団体が国の施策に協力。
・取引前に事前届出。事前審査・立ち入り調査を行う。

法案はこちらの「我が国の総合的な安全保障の確保を図るための土地等の取得、利用及び管理 の規制に関する施策の推進に関する法律案 要綱」をご覧ください。上記GATSや財産権との兼ね合いもあり、結局は法制化はされていません。


06. 結論

・土地は実はあまり多くは買われていない。0.04%程度。
・そもそも、水の採収は条例と河川法で規制されている
・水を採収しても、海外に輸送するのは運送コストが高い。
・GATSの関係で、最恵国待遇がある。国内法より上位概念。
・土地取得規制は「財産権の侵害:憲法違反」になってしまう。
・治外法権になる訳でもなく、海外資本の所有地も国内法で統治される。
・原野商法で人が住んでいない。したがって国防動員法での懸念も薄い。
・国防上重要な土地が買われているかというと、そうでもない。
・利用規制は「重要土地法案」で法制化済。

そろそろここの事実関係、ちゃんと出回らないかなぁ…

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