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隠者のお山さん

村々から見える山に隠者が住み着いたという噂が村々に広まった
木も殆ど生えない高原
村人達は集まり隠者を訊ね、供物を届けるようになった

その中で相談を受ける事もあった
村々の家畜がトラやヒョウに襲われて困ってる
流行り病で大人や子供達が苦しみながら亡くなった

それから数十年、村々の青年達から疑問と不信が起こった
年配の村人達は、なぜ働きもせず、山でただ呑気に暮らしてる隠者に
食べ物から身の回りの奉仕まで布施をしてるんだ?と

年配者達は口々に言った
遠い他の村々での出来事を知らないのか?
遠い村々では、家畜が襲われ、流行り病で村人達が亡くなって来た

「それは、トラやヒョウ達が寄り付かない場所で
清潔な土地だからではないですか?」
「では、親達から昔の村々の状況を聞くといい」

更に数十年後、隠者が年老い村人達は将来が心配になり
改めて皆で隠者の許を訊ねた

「そうかね?、では、結婚なんかしたくないという娘達に、
山に住み、瞑想をする事に興味があるか尋ねるといい
勿論、それを本人達が望む場合の話、無理強いはいかんよ」

「しかし、率直に言って、娘達に嫁いで貰う事は
結納という大きな収入源にもなってるんです」
「嫁ぎたくない娘達は、結納以上の物をもたらすだろう
山で暮したくない娘達には、木を育てる仕事でも任せるといい」

「それはなぜですか?」
「食器でも楽器でもいい、木材でもなんでもいい
同じ物で軽く叩いてみるといい、男達&女達の
音の違いの意味が分かる筈だ
聴く者の耳が鈍くなければの話だが」

「花や作物もだが、木の方が簡単な筈だ
嫁に行きたくない娘達が育てた木は、価値が知られ
高く売れるようにもなるだろう」

「なぜ、嫁に行きたくない娘達なんでしょう?」
「色々とあるんだが、素養があり、登るべき自分の山に近く
または、斜面に向かって麓に立ち、後は登るだけの
位置にいるからなんだ、分かるかな?」

娘達が自分達の高原で暮す集団となり、隠者が去った後も
村々は平和だったが、やがて娘達も若い年齢で去り始め
最後の一人になった時、その娘は村人達に告げた

「私が去ってから暫くは、村々は平和な事でしょう
しかし、その後は、村々は昔の状態に戻るでしょう」

隠者になる事を望まない者達同士での娶り嫁ぎの繰り返しで
やがて村々は、昔の状態に戻って行った
家畜はトラやヒョウに襲われ、流行り病が時々起こる

発達に目覚める者達は去り、そうでない者達は
娶り嫁ぎでまた戻って来る事を繰り返す

目覚める者達を降下させる作用が、こうしてどこでも失われて来た
無用な降下から去った者達は、戻って来る事はまずない


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