【読書】見田宗介「まなざしの地獄」

見田宗介氏による「まなざしの地獄」という書籍を読んだ。永山則夫という死刑囚がなぜ連続殺人をおかすに至ったのかについて記した1冊。連続殺人を行うような人は自分とは縁遠い存在であると思われがちであるが、著者はどのような過程で人を殺したかを丹念に記している。永山則夫という極めて個人的な存在についての記述にとどまるのではなく、それを生み出した社会的背景についてまで描くところが、著者の腕の凄さ。それを淡々と行うところがかっこいいと思った。

主な感想は2点。1点目は「東北人は粘り強い」というよく分からない言い回しについてである。このことは別に「東北人は粘り強くない」ということを主張したいわけではなく、東北人というくくりが雑だなぁという印象を持っていたという意味であるが、本書からそうした言説の発端がうっすら見えてきた気がする。それは何かというと、集団就職である。都市部の労働力として東北から金の卵としてやってきた東北人が粘り強く働いていたことから、この言説が産まれたようなのである。このことは裏を取っていないので本当か分からないが、このよく分からない言説の起源が分かったことはちょっとすっきりした。

2点目は、偏見についてである。永山則夫が殺人をおかすに至った理由として他者からの目(まなざし)が挙げられていたが、ここでいうまなざしとは今で言う偏見に近いと思われる。東北出身だったというのは彼にとって過去に過ぎないわけであるが、このことが東京に出てきた現在にもつきまとい、さらには地方出身者の未来として未来にもつきまとうこととなる。出身地に左右されず結果を出せば望み通りの人生を歩めるはずだという考え方もあるとは思われるが、やはりモデルケースが目に見えないことは辛いことだろう。

理想を言えば、自分が永山則夫の事件をリアルタイムで知っている世代であれば、この本の良さをもう一段階深く味わえたのではないかと思う。とは言え、これが社会学における想像力と実証なのかと認識させられた、面白い1冊であると思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?