【読書】有川浩「レインツリーの国」

「レインツリーの国」という本を読んだ。素晴らしい。聴覚障害のある女性と障害のない男性の恋物語について描かれた本。こういった小説の場合は、理解のない健常者、不憫な障害者という書かれ方が多いという印象があるが、本作では聴覚障害のある女性側にも問題がないわけではないという点が描かれており、その点で新しいなと思った。

気になって点は2点。1点目は「あなたには障害がないから分からない」という態度をとることそれ自体が、障害のある人とない人との間に壁を形成するということである。これは障害の有無に限った話ではなく、「あなたは男性だから分からない」「あなたは異性愛者だから分からない」といった主張をするときに、壁が生まれるということも同様にありえると考えられる。基本的に完全に他者を理解することは不可能でありその中で理解できる範囲を大きくしていこうというのがコミュニケーションの大事な所なのだから、最初から相手には分からないという態度をとることはもはやコミュニケーションの放棄であるのではないかと思った。

2点目は聴覚の不調が言語でのコミュニケーションに与える影響についてである。相手の発言を完全には聞こえていないかもしれないと不安になることで、実際はほとんど聞こえていたとしても相手の言葉に返すことは難しくなるだろう。これが1対1の会話であればその難易度は低くなるだろうが、多人数でのコミュニケーションであれば自分以外の人にコミュニケーションを任せ、どんどん発言するハードルが上がっていくかもしれない。

自分は幸い今の所聴覚の不調があるわけではないが、もしそうなったらどうしようということを考えるきっかけになった。

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