【読書】髙野ひろみ・武田聡子・松尾晴美「永寿総合病院看護部が書いた 新型コロナウイルス感染症アウトブレイクの記録」
「永寿総合病院看護部が書いた 新型コロナウイルス感染症アウトブレイクの記録」という本を読んだ。素晴らしい。永寿総合病院では院内感染の報道がされ風評被害にも遭うなど大変な思いをして怒りの感情を抱いても仕方ないにもかかわらず、この本ではそうした怒りや不満の感情を表出させず、単に何が起こってどのように対応したかを淡々と、しかし時に不安や無念さなど当時の感情を交えつつ記録されている。
本書を読んで、当事者が語る風評被害は重いなと思った。一生懸命頑張って患者のために取り組んでいるのに、夫が会社への出勤を取りやめるように求められたり(しかもその間の給与については明示されない)、卒園式への出席をやめるよう求められたり、子どもの学校への出席も「出席をするといじめられるのではないか」という懸念から躊躇せざるを得なかったりと、散々な目に遭っている。かく言う私も、永寿総合病院が遠くてよかった、意外と近くて不安だなどといった感情を抱いたという点では、サイレントな加害者であると言える。感染者や感染リスクの高い人に対して警戒するというのは合理的であると言えば合理的であると思うが、やはり警戒される側の無念な気持ちも知っておく必要があるなと思った。
また、院内感染が起こる前に現場のスタッフは違和感に気がついていたという記述もリアリティがあった。別の病気で入院している人が1人高熱を出し、看護師が1人高熱を出し、次の日には別の入院患者や看護師が高熱を出し…。感染症の正体が分からなかったことや、院内感染が自分の目の前で起こっているということを認めたくないなどと行ったこと、簡単にはPCRなどの検査を受けられない当時の体制(これは病院の責任ではない)などが重なり、院内感染の発見が遅れたようである。現場の違和感をどのように共有していくかが1つの課題であると思った。
以上、当時はなぜこの病院で院内感染が起こったんだろうと思ったが、現場ではそれに必死に対応していることが分かり、シンプルに病院を責めるのは違うなと思うに至った。現場も感染させようと思って感染させたわけではないし、目に見えないだけに感染にはランダム性が伴うので、もっと優しくなりたいなと思うようになった。
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