決着(落とし前)は指詰めで

彼は組の風紀係をしていました。
組を抜けたり、喧嘩の落とし前、いざこざのけじめとか組内のこともあればほかの組とのこともありましたが指を取るのが担当でした。
指詰めしたらきちんとお寺に行ってお布施を払って供養していただくのです。1本1本お寺に持参するわけにいかないから何本かまとまるまでアルコールの入った小瓶に指を入れて冷蔵庫に保管しておくのです。
冷蔵庫を開けると指があるのはぞっとしませんが人間の慣れというのは怖いものです。
そのうち見ても何とも感じなくなるもんです。
さて彼は一概な人でしたから、ある時に幹部が組を出るというときに指を詰めなくていいとなったことが気に入らなくて組に行かなくなりました。
下っ端も役付きも待遇は同じにせないかんというのが彼の言い分です。
言い分はわかったけれど組に預かったものを返せと言われたのに無視していました。
その頃、彼は体の具合が悪くて入院していたのですが業を煮やした親分が
いきなりやってきたのです。
親分付きの若い者が病室のドアを開けると二丁拳銃を構えた親分が立っていました。
今でもはっきり脳裏に刻まれているのですが、一つが金色の拳銃だったのです。
後にも先にもあんなに美しい拳銃を見たことがありません。
さて、彼がいなくてひとりベッドの上に座っていた私に向かって、
「奥さん悪いけど、あんたの旦那の命はもらうけん。」
言われた私は「ああ、そうですか」
と応えたのですが、親分の後ろに立っているのは「あんたしかあいつを助けられん」と言って彼を心配してくれた兄弟分の困った顔が見えました。
彼が刑務所に入ってるときに食事をさせてくれた弟分の顔も見えます。
みんな知っている人たちばかりで良くしてくれた人たちです。
この人たちと彼が命の取り合いをするのを止めさせねばと心から思いました。
ある程度、私は腹をくくっていました。
彼も言い出したら引かないし私がなんとかするしかないということです。
シナリオもある程度は書いていて彼が預かったものを私が勝手に処分したことにするしかないと思っていました。
ごめんなさいで済む世界ではありません。けじめはけじめです。
私は自分の指で話をつけるしかないと分かっていました。
誰にも知られずに指を落とすと決めた私は近所の金物屋でノミを買うことにしたのですがこの時に一回しか使うものじゃないからと280円のノミにしたことを後悔しました。290円のノミの方が幅が広かったのです。
幅広のノミの方だったら指を一回で切り落せたと思ったからです。
まな板の上に小指を置いてノミを振り上げた時にキレイに指が切れてなくて指の皮が繋がっていたので仕方なく繋がった皮を切っていたら階段の上から長女が「おかあさん、なにしゆうが」と言ったのでびっくりして「お漬物を切りゆうけ、終わったら上がっていくけんね」
それから用意していた白い布を指に巻き付けてから彼に連絡したのですが連絡が取れません。
1時間以上してやっと連絡が取れた彼に「若頭」に連絡をしてほしいと頼みました。
彼は「女やから気にせんとはよう病院に行ってくれ」というけど「いやや」
先に渡してからの話やと行かないと言い張っていたら「頼むから行ってくれ」しゃあなしで病院に行って間もなく若頭がやってきました。
私が事情を説明して「これで話をつけてほしい」と小指を渡しました。
若頭は「○○ちゃん、この指は大事に供養させてもらうけん」と心なしか安堵した風な顔をして去っていきました。
みんな顔見知りで仲の良かった人たちばかりです。
殺し合いせずに私の指1本で済んでよかったと今も思います。
ただ一つ残念なのは指を落とした場合、骨を削って短くしてから指の皮で骨を巻くのです。そうすると指が何かに当たっても痛くないのです。
私の場合、
病院の医師が「あなたは女性だから少しでも長く指を残したほうがいいでしょう」ということで骨きりせずにそのまま縫合したしたので小指の先が何かに当たると飛び上がるくらい痛いしずっと小指がつっぱった感じが残っていて違和感が消えないのが困ります。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?