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#58 ニオイの思い出/及川恵子

いつでも私は14歳

ニオイの思い出を辿ると、どうも切なさや懐かしさ、郷愁につながってしまいますね。
そしてもっと進むと、過去の恋愛話につながってしまう。

星野源だって、「くだらないの中に」の中で、

「髪の毛の匂いを嗅ぎあって くさいなあってふざけあったり」
「首筋の匂いがパンのよう すごいなあって讃えあったり」

と歌っていますしね。
どんな時代だろうと、ニオイと恋愛はつながるものなのです。
(恋愛を語る時は“香り”と言いたいけれど)


余談ですが私はその昔、好きだった人のTシャツの匂いがすごく好きで「Tシャツを1枚持って帰らせろ」とお願いしたこともありました。結局は未遂に終わりましたが。赤ちゃんにお母さんの服をかけてあげると落ち着くからかよく眠るといいますが、あの時の私は、自分の心の安定のためにTシャツを欲したのでしょうか。

しかし!

わたしが「ニオイの思い出」というタイトルで強烈に思い出すのは、
中学校時代の私が経験した、梅雨の日のことです。

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(↑Google earthで見てみたかつての通学路。母校は今年の4月に閉校になってしまいました)

自宅への下校途中。

たしか梅雨明けが近い時期だったと思うのだけど、
あの、
梅雨の時期独特の、
雨で濡れたアスファルトの香りが、
湿気と一緒に一瞬で立ち上ってくるのを
14歳の私は強烈に感じたんですよね。

私のことだから、たぶん友達とひたすらおしゃべりしていながら帰っていと思うんですよ。
だけど、そんな時間も一瞬で止まってしまうくらい、あのニオイに感情を奪われてしまった。
特に「いいニオイ!」というわけでもないのに。

それから、あの時のあのニオイは強烈に記憶に残っていて、
20年以上経って、微かにあのニオイを感じだだけでも、
下校途中の景色が強く強く思い起こされます。
たぶんこれは一生続いていくはず。
というと、私は老婆になろうが14歳の時の景色と感情を思い出せるってことだな。それはなかなか興味深い。

ニオイは記憶と強く結びつくというけど、
嗅覚から広がる「ふとした瞬間に過去を強く感じさせる」役割や機能みたいなものって、人間にとって不可欠なものなんでしょうかね。
ノスタルジーとかセンチメンタルって、本能的に必要なものなんだろうか。

そうそう。
私の故郷・石巻では、雨が降る前になると街一帯に強烈なニオイが立ち込めるんですよ。
形容しがたい、何かが腐ったようなニオイ。
パルプのニオイだ、とか水産加工場から出るニオイだ、とかいろいろ言われてきたけれど、いまだに原因は謎。
なかなかタフな青春時代を過ごしたな、と感じています。

及川恵子