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【効いた曲ノート】アレクサンダル・ボロディン”交響曲第二番”



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なんかこのmagajinいつも宗教曲というか、「なんまいだなんまいだ」的な曲ばっかだなと思ったので景気のいいものも聞いてみようのコーナーです。暑すぎて開放的どころか家に引きこもれと国営放送に脅される夏というのもまた倒錯した情緒があって面白いですね…SFみたいだ。


今回はアレクサンダル・ボロディンというロシアの作曲家の勇壮な作品、交響曲第二番。”勇士”という異名もあることからお分かりの通りで、一言で言うと暴れん坊将軍です。英雄譚ですので現代風に言えば「ロシアのバーフバリ」とか「アルスラーン戦記」とかいった方が適切かもしれません。





のっけから大見栄を切る低音!白黒のノイズ、急峻な山々、ゴツゴツした岩肌、荒れた大地。ロシア全土から集まる豪傑たち(『キングダム』の合従連衡みたいなやつ)、駆け抜ける馬群、刀を抜き(斬馬刀みたいに馬鹿でかい)、弓が飛ぶ。

郷愁を誘うメロディが多用されるのも特徴で、同じく代表作である歌劇「イーゴリ公」(未完成ですが)とニュアンスが似ています。というのも、同時期に製作され(2曲同時製作と教授職との両立が無理にもほどがあって入院したのですが病床で書き上げたというのだからすごい)、そのモチーフをいくつも流用しているからのようです。「イーゴリ公」は『イーゴリ遠征物語』という中世の軍記物語をもとにして作られているので「大河ドラマっぽい」という感想は当たり前すぎました…想像力の貧困さ…





英雄が出陣という風合いの一楽章、英雄はお茶目だから愛される二楽章、処変わって月夜・帰りを待つ女性と不安を投影するような木々のざわめきがロマンティックな三楽章、そこから一転夜明けと凱旋、お祭り騒ぎとクライマックスを迎える四楽章。ひとつの戦記を読破したような爽快な聴き応えがあります。


ボロディンという人はグルジア皇太子の私生児として生まれ、医学生として首席で卒業、25歳にして化学博士、31歳で教授となった超ド級のエリートまっしぐらおじさんで、「ボロディン反応」を発見したりと普通に教科書に載っている高名な有機化学者でした。また、女性医師育成という当時としては先進的な取り組みの先頭に立っていた人物でもあります。

めちゃめちゃに忙しいはずの研究・指導の合間を縫って作曲活動を行っていたことから自身を「日曜作曲家」と称していたそうですが、専業作曲家に比べれば曲数こそ少ないものの、現在まで残る傑作揃いです。なんだかわからないけれど口ずさみたくなってしまうメロディが多く感じます。

また、ボロディンが活動していた当時もその旋律や構成の大胆さが同時代の作曲家たちの心を捉えて離さなかったそうで、以前取り上げたラヴェルが所属したサークル内でも流行ったりしていたようです。恐ろしいな。天才あるあるみたいですけど、天て平気で二物や三物与えますね。人よりできるんだから他のことをする余力もあるしコツをつかむのも早いのでしょう...そういえば先日ピアノコンクールの優勝者に東大の院生の方がおられましたな。


悲しくなるのでやめるのですが、ともあれ、そういう小さなことは忘れてワイワイできるというのも大事な魅力ですし、真実のひとつですね。王を称えよ。


それでは。



*参照したHP


https://www.nhkso.or.jp/library/sampleclip/music_box.php?id=449&iframe=true&width=840