清水エスパルスとヤンヨンソン監督がやってしまった失敗について



1年目を生え抜きの有望株を活躍させながらリーグ戦を8位で終え、2年目の積み上げを期待されたヤンヨンソン監督の清水エスパルス。

それが開幕10試合で2勝2分6敗。失点22。残留の目安すら大きく下回りダントツの失点数。やってしまいました。終わりでしょう。

どうしてこうなったのか…は、ほっといても地方紙などがまとめてくれるでしょうが、その前にこちらでもかなりの期待をかけてしまったので、それなりの責任というものを取らなければなりません。2年目こそ本当のヤンヨンソン監督の手腕が見られると思ったのですが、残念です。裏目裏目で3か月、ただ無為に失点を重ねるのをみるのはただただ悲しかったです。

なお、札幌戦と神戸戦は見てないのでそのへんはご了承下さい。



何を間違えてしまったのか


何が悪かったのかと言えば、ロマンチストなところでしょうか。クラブも監督も、理想に対する見通しが甘かったということになるでしょう。つまり、シーズンオフの編成の面でも実戦における完成度の面でも、ほかのクラブに大きく後れをとってしまいました。そして、その後れに対応することによる連携面の後れ、迷い、そういったものがさらなる失点であり、負傷離脱であり、敗戦であり、悪循環を招いたことになるでしょうか。

実際のピッチの様子で言えば、準備したものに対して相手が変化した時にどう対応しようかという部分が詰め切れていなくて、それが昨季も派手な撃ち合いにつながったわけですが、今季はいくつかの要因とその複合によって撃たれっぱなしという事態になっています。無だ。

DFラインのメンバーが大きく変わるからハイプレスとカウンターの完成度を続けるだけでも大変だろうなとは思ってたんですが、それ以上に大変なことが起こってしまいました。そして、その収拾がつかないままここまで来てしまいました。

このエントリを書き始めたのは3月のガンバ戦の後からなんですがw変わることを願って温めておいたのですがw変わらなかったですね…wそれだけシーズン当初のつまずきというものは大きいということでしょうか…ビッグクラブくらいなのでしょう、大コケしても立て直せるのは。

間が悪いという面もありますが、まあそれをいってしまうとおしまいです。降格したクラブはみんな間が悪い。というか、めぐってきた好機を逃さず仕留めるために日頃の準備があるのであって、清水エスパルスと対戦したチームはいずれも長期的にも短期的にも清水エスパルスよりも「備え」が優れていたという単純かつシビアな事実がそこにはありました。

やっていることが間違っていなくて結果が付いてこないわけではなく、みんなでせーので自分から間違った方にダイビングしてしまったので、「残念」という言葉を使うよりありません。こればっかりは相対評価の世界なので君たちはがんばったじゃすまない話ですからね。

長くなりましたが、けじめということでいかに今季の備えに失敗したのかを記しておこうと思います。



間違えた心当たりを辿ってみる


まず昨季の補強のエントリで見てきましたが、まあ恥ずかしくなるくらいに浮かれてますね笑、いやそんな黒歴史の懺悔のためにやってるわけじゃないんだ。今季の目標を見に行っただけなんだ。ざっと見ると以下のようにわけられます。

①生え抜き選手のさらなる成長を見込んで
②昨季の課題であったポゼッションの質を向上させることで

③タイトルを目指すに足るレベルのチームを作る

これをどういうふうに「やってしまった」のか、思い当たる節をいくつか挙げていきます。


❶予測できたはずの北川、予測できなかったドウグラス、そして支えられなかったコンバート

まずは選手層に関する誤算から。これは不運と残念でもないし当然という罰と両面ありそうですね。

今季の目玉の一つは高速アタッカーとしてブレイクした北川や金子、高身長アップダウンマシーンの松原といった生え抜き選手たちがタイトルに届くのかということ、そしてその象徴として、フレイレを放出して東京五輪代表のCBでSBにコンバートしたことによりプレスが空転しても最終ラインで何とかする力を発揮していた立田をCBに据えるという挑戦を打ち出していました。

で、まあその結果がこれなんですけど、ただでさえ中盤の助けがないまま下がりながらFWとボールを跳ね返す、SHとボランチの距離が遠いなどの齟齬によってお留守になるSBの裏をケアしなきゃいけないという状況が少なくない、相当のタフガイでないとどうにもならない清水のCBのポジションはやはり対人でもSB裏に対する駆け引きでも大きく後れを取り、難しかった。

3バックならまだ担当エリアが狭いので頑張れていましたが、その代わり中盤以降の担当エリアがとんでもないことになってあえなくおじゃんとなりました。

まあ、群を抜いたボール奪取力を誇ったファンソッコでも下がりながらのクロス対応はマークずれや対応不足で毎試合決定機を作られるくらいの厳しさですので立田さんだけが悪いということでもなし。でも相性というのもあったとは思いますね。ファンソッコさんのやらかしをカバーしてたのは狭い空中戦なら任せろマンのフレイレだったんですよね…目の前の相手でいっぱいいっぱいの立田さんに求めるのは酷ですし、そもそもフリーでクロスあげさせすぎだから。

また、攻撃面でもこのDFラインの変更を助けたかったところですが、北川は日本代表でのトップ下業務で消耗してしまったり、今までのドリブルの進路変更で快刀乱麻のカウンター演出となるはずのシーンをフリックで相手に渡してしまい逆カウンターを受けてしまったりという齟齬があり引っ張る立場のはずの本人もいじけてしまったりと悪い意味で代表に染まってしまったところが出てしまいました。ゴールこそありますがプレッシングや中盤の上りを助けるキープといった昨年の確変期の良さは残念ながら出てませんね。

ただ、この北川の機能低下は昨オフから予測できたはずです。それでも使わざるを得なかったのはドウグラスの不整脈という緊急事態によるところでしょう。原因不明全治不明と恐ろしい情報が飛んでいましたが、なんとか3月末に出場までこぎつけ、5月でスタメン復帰まで来ました。ただ、キャンプを丸々できなかった影響が大きすぎ、身体面でも連携面でも非常に低調です。2トップの確変が昨季躍進の唯一の要因(決めきってくれるおかげで粗が目立ちにくかった)であったので、この失速も致し方ないといえばそうですが、それにしても確変に頼らないためのポゼッションだったんちゃうんかい、という話を次でやります。


❷「ポゼッションの質」に関する誤解、もしくは誤用

次は②のポゼッション志向に関して。ここは監督の責任が大きいのかなという感じがしますね。

まず3バックへの陣形変更を行いましたが、特に昨季の課題となっていたミドルゾーンでのプレス(自陣中盤でのSH、CH、SB・WBの3人の寄せ)がさらにもろくなってしまうなど、陣形変更に合わせた動きが仕込まれず、昨季の持ち味になっていたハイプレスとショートカウンターとの両立ができなくなってしまいました。ガンバ戦の炎上は昨年からの継続性が消滅したことを確信させた非常に思い出深い観戦になりました。あれが今季を決めたという結果に、残念ながらなってしまいましたね。したくなかったので、ここまでブログ書かなかったんですけどね。。

プレスがはまらず下がりすぎた5バックをマイナスに折り返されて失点、最終ラインでパスを引っかけられて失点。敵陣でどう崩すかという部分以前の問題で、もそもいい形でボールを持てる場面が少なく、机上の空論でしたね。おそらくこれは補強や負傷による戦力変動に合わせた決断だったはず。敵陣深くへのフリーランを持ち味とするエウシーニョを活かしたいということだと思われましたが、エウシーニョ復帰以降もエウシーニョがいい場所でボールもって立ち往生、渋滞してカウンターのリスクが高まる、ということになってしまっているので、そもそも設計ができない、ないしはまちがっているのかなという気はします。

そもそもポゼッションはゴールからボールと人を遠ざけて失点の可能性を最も低くするプレイであるというベースが見いだせないんですよね…もちろん個々の技術的な不足はあるとは思いますが、そもそもポジションが悪い、SB上がるタイミングがとかボランチが寄りすぎるとか、それをおとりに出すのに前線準備してないとか…相手の守備網に応じて動きなおせないということによって機械的にボールホルダーに寄せられるだけでボールを手放してしまうという事態が改善できていません。

ロンドが適当とか、マネキン相手にしか練習してないとかなんでしょうか…どうなんだろう…守備の寄せ方も相変わらず前線からいかなくてもいいGKまでいって広大なスペースを渡したりしてるので、そもそもプレスのかけ方を練習してないというか、間違ったままOKとしているんでしょう。バックパス自動的においかけるけど後ろは相手のFWとCHを基準にしてるのでがら空きというのを昨年からずっとやってますからね。そこを改める練習をやってくれれば守備がうまくなってその守備をかいくぐるために攻撃もうまくなるはずなんですよ…きっと…

だからこそ、3バックだろうが4バックだろうが変わらない話なのだと思われますし、さらに言えば4バックに戻したことでこの「間延び」によってCHとCBに降りかかる負担が大きくなりました。その結果が竹内、ヘナトという代わりのいない守備範囲の広いボランチの相次ぐ故障、というさらなる裏目につながってしまったように思います。撤退戦をしようにもそのたくわえもなし、と進退窮まった感じですね。。

ヨンソン監督はこういったいわゆる連携の構築に時間がかかるきらいがあるのですが、キャンプの誤算などを差し引いてもちょっと到達度が低すぎますし、去年終盤の蛮勇からペースチェンジに優れる白崎と困ったときに跳ね返してくれるフレイレと何事も暴力で解決するコンディション100パーセントドウグラスをただ引いただけという状況なので厳しいですね…エウソンサイドに張ったらあかんのかな…死ぬのかな…w

スタイルは一日にして成らず、ですが、そのスタイルが崩れて一からという状況になってしまっているので、積み上げのある他のクラブと比べる歴然とした差になってしまいますね。逆に言うとまだ日の浅いクラブに対しては近い勝負をしてるっちゃしていますが、そのラッキーは今のところ片手にも入っていません。



成熟のしかたを間違えてしまったということ

ということで、予定内と予定外メンバーの変動、ポゼッション志向の逸走(?)によってただでさえ流動的でリスクの大きかったサッカーがますます歯止めがかからず、相手に利してしまった、と今のところの仮説として挙げておきます。

ただ、志向自体はこれまでのヤンヨンソン監督の志向と大きな隔たりは感じません。私の願望としては相手に合わせた堅守なんですが(相手のビルドアップをひっかけてのカウンターとか最高ですね)、監督の信条としては相手云々関係ない敵陣でのプレイにあると思いますし、これまでの失敗の要因となったバランスの悪さの背景にはそれがあると思います。

そこで、選手層にせよ、戦術的な齟齬にせよ、それが通じなかったときにどのように立て直すかという柔軟性がピッチ上にもピッチ外にもなかったね。まだそこまでのクラブでありチームじゃなかったねということが、今季の結論になるでしょうか。不退転の少数選手の陣容とポゼッション志向のかけ合わせが悪魔合体になってしまったとしか…w

この戦術上、陣容上の不備が明らかな状況であっても撤退戦に移行するというチョイスを5月になってもとれていません。物理的な意味でラインを低く守るというのは今のDFではまず不可能みたいなので、FWが相手ボランチのラインまで下がってプレスを開始し、ミドルプレスの不備もFWに助けてもらうことが必須となりますが、それを行うという腹のくくり方をできぬまま、守備的なSHとして最も計算できる石毛を前十字靱帯断裂でシーズン絶望、そして刈り取れるCHであるヘナトと竹内を負傷で失ってしまいました…

少数精鋭は信頼度の現れ、というのが新体制発表時のGMの言葉ですが、(赤字が凄いらしいという事情を見ずにあえて)言葉通り受け取るのだとすれば、その信頼がそのままこの成績に出たのだということになるでしょう。

そういうチョイスをしてしまったのは、クラブの掲げる中期目標だとかお財布の都合ですとか、監督の采配を超える次元の話もあるとは思いますが、、それを引き受けて契約延長したわけですので、単にその勝負を成功させるだけの手腕がなかったということは引き受けざるを得ません。悲しいことですが、しょうがないですね…

…こういうことだけはしないと思ってたんだけど… まあ、監督の作っているサッカー自体にも先に挙げたとおり選手を守れない脆さがありますし、逆に言えばそれを若く走れる選手とピンポイントの個人技に助けてもらったということも言えるのだと思います。もっと選手の可能性であったり、クラブの可能性であったり、そういうものを伸ばせるぞと任せてもらったはずなのですが、残念ながら事態は悪い方へ悪い方へと傾いてしまいました。よしんば降格をまぬかれたとしても、契約を続けることは難しいでしょう。カップ戦のチャンスは残ってはいますが、一発勝負でこの粗をターンオーバーの完成度で突かれないはずはなく、かなり悲観的にならざるを得ません。



5/12追記

正式に解任が決まりました。お疲れ様でした。次があればもうちょっと堅実な志向のクラブで見てみたいかな。勝負をせいてしまったことが一番の失敗だったので。