【効いた曲ノート】ジャン・シベリウス "ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47"
あけましておめでとうございます。旧年中はご愛顧頂きありがとうございました。本年も変わらず趣味を全開するぞ、ということで早くも正月をもてあましつつあるので最近聴いて良かったよの話です。
フィンランドの作曲家シベリウスのヴァイオリン協奏曲。北欧諸国の冬の昏さと厳しさ、その凍てつく空を舞う鷲のように自由で優雅な、それでいて気高い峻厳さをギラリと覗かせるヴァイオリンの旋律。そういった美しさが光ります。
寒空を舞う孤高の荒鷲
本曲は数あるヴァイオリン協奏曲の中でも特徴的な「出落ち」を持っています。もっとも有名なのはメンデルスゾーンのものだと思われます。オーケストラによる「つかみ」をすっ飛ばしていきなり入ってくるやつです。
しんしんと冷えていく空気のような弦楽器の和音を背に「極寒の澄み切った北の空を、悠然と滑空する鷲のように」(作曲者本人による)悠々と独奏ヴァイオリンが飛び立つと、翻弄するようにメロディがぐにゃんぐにゃん変わり、従って伴奏との掛け合いなどというあまっちょろいものではなく、緊張感のみなぎる立ち合い、絡み合いで風の強さと寒さが顔を叩くように音楽の地平線が広さと深さそして厳しさを増していく
おいおいどうすんだと思ったらヴァイオリンがもっとすごいことを起こすのですごいです(こなみかん) ヴァイオリン協奏曲の中でも超難曲といわれるのもなるほどなという感じ。ただ、その高度な差し合いを「空を舞う鷲のように」軽やかに見せてしまう。涼しい顔をしてえげつないことをするから人はそれを「美しい」と感じるのでしょう。
ロマンチシズムでバリバリ鳴らすソリストよりかは今回のヒラリー・ハーンさんのようなさらりとした演奏のほうが映えるなという感じがします。
指揮のエサ=ペッカ・サロネン氏はシベリウスと同じようにフィンランドで作曲しながら指揮をしていらっしゃるのですが、ニールセンやシベリウスをこの方のCDで知って好きになったので個人的にファンです。正統派のハンサムで鳴らし今は立派なイケオジです。
イケオジ。
森、風、そして吹雪
このヴァイオリン協奏曲はシベリウスの転機に作られたものだそうで、売れっ子の指揮者であったもののグルメで浪費癖があり借金をブクブク増やし荒んでいた都市生活から逃れるため郊外への移住を計画した頃に作曲したものだそうです。ヴァイオリン協奏曲の作曲は1903年、移住は1904年と言われています。
豊かな森と静けさが創作のインスピレーションを与え、シベリウスの作風も削ぎ落とされた静謐なものへと変化してフィンランドのナショナリズムと共に独自の名声と地位を獲得していきます。その最初の成果のひとつが本曲の改訂作業でしょう。
現在も保存されシベリウスミュージアムとなっている旧シベリウス邸「アイノラ」
このヴァイオリン協奏曲も初めはより長大で技巧を凝らした曲だったようですが(シベリウスはもともとヴァイオリン奏者を目指していました)、ブラームスの協奏曲に衝撃を受け、1905年に大幅改訂されます。
その結果現れたのが弦楽器が紡ぐフィンランドの冷たい空であり、フルートの風であり、クラリネットやファゴットの仄めかす密やかな森の空気であり(シベリウスの管弦楽曲特有のファゴットのザ・枯れ木感が最高)、強奏で現れる容赦のない金管の地吹雪。
雪で閉ざされた森と湖の国。3楽章のまん中とか音伸ばしてるだけなのになんでこんなに寒くて鳥肌たってしまうんだろう。大団円でもなく悲劇でもなく、ことさらにニヒリスティックなわけでもなく。ただただ厳しくも美しい自然がそこにある。それがこの曲の1つの境地ということのように思われます。
無性に木の香りのするサウナに入りたくなってきました...w
それでは。