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しいんと静かなみずうみを持つ

 不意に6年前の写真をもらいました。「懐かしいの出てきた」というメッセージと一緒に届いた、私の昔の写真。カバーの写真は友人の写真家の人と、島サイクリングをしたときの写真です。


 本日27歳の誕生日を迎えました。周りの友人たちは結婚して、新しい家族ができて...そういう年齢になったんだ、というのは同年代の友人たちともよく話題になることです。
 この写真の頃の私は、「山で猟をして暮らす」ということに猪突猛進でした。すきな人と結婚をして家庭を持つことにはめもくれず、山でイノシシと戦って勝って、食べるんだということしか頭にありませんでした。

 今の私を鏡で見てみると、保育系の大学を卒業したけれど農業をしていて、保育士は仕事がない冬季のつなぎの仕事としてしているような、ふらふらした様子です。
 でも、猟をすることは、生活の中で1番すきな瞬間で、そのことは6年前からずっと変わりません。
 家も職も転々とした遊牧民のような私。安定という言葉から程遠いような生活に、もちろんお金がなくて、1週間に500円しか使わないようにカレンダーに500円玉を貼って生活をしたこともありました。
 それでもやりたいことが山の近くの生活の中にあるから続けて走り続けてきた6年間だったように思います。

 誕生日の今日は何かお祝いらしいことを1人でもしようかな、と思っていたのですが、昨日は友人に祝ってもらい、家族にも最近会って祝ってもらっているので、なんだかお腹がいっぱいで、何にもない日をじっくりと楽しみました。
 今日やったことといえば家の掃除だけ。それ以外は茨木のり子さんの詩をいったんぼんやりと読んで、もう1度頭の中にひとつひとつの言葉を浮かべて、色とか香りとか手触りを感じました。

 その中で、「みずうみ」という作品を何度も噛み締めるように読みました。

  『みずうみ』

だいたいお母さんてものはさ
しいん
としたとこがなくちゃいけないんだ

名台詞を聴くものかな!

ふりかえると
お下げとお河童と
二つのランドセルがゆれてゆく
落葉の道

お母さんだけとはかぎらない
人間は誰でも心の底に
しいんと静かな湖を持つべきなのだ

田沢湖のように深く青い湖を
かくし持っているひとは
話すとわかる 二言 三言で

それこそ しいんと落ちついて
容易に増えも減りもしない自分の湖
さらさらと他人の降りてはゆけない魔の湖

教養や学歴とはなんの関係もないらしい
人間の魅力とは
たぶんその湖のあたりから
発する霧だ

早くもそのことに
気づいたらしい
小さな
二人の
娘たち

      出典 : 茨木のり子『茨木のり子詩集』


 私には「しいんとしたとこ」はあるんだろうか。私の心の底にある湖はどんなみずうみなんだろう。自分のことをしいんと見つめることはできているのだろうか。
 そんな風に考えを巡らしている時間は、自分の中のみずうみに佇んでいるような時間。

 今のところ、また何にもなくなった、まっしろな27歳がはじまった。


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