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指導対局

 10日以上も経っているのに今さら文章化しておこうかと思ったのは、その間に腹の立つことと悲しくなることがあったからかもしれない。プラスもマイナスも記憶というものは徐々に薄れていく。ネガティブな出来事は記憶のままに、楽しかったことだけを記憶から記録に変換して、明確な濃い思い出として残したい。できればそれでマイナスな気持ちを見えないようにしたいと思った。

盤外

 楽しかった出来事とは指導対局の事だ。指導対局とは、文字通り指導を目的とした将棋の対局である。対局時には指導を受ける側(下手)の棋力に応じて、指導する側(上手)の駒を何枚か減らすことが多い。駒落ちと言われる対局の形式である。対して駒数のハンデがない形式は平手(ひらて)という。
 その指導対局を先日受けに行った。参加の動機は指導棋士が好きな棋士だからというシンプルなものだった。「〇〇支部開催の指導対局会」という名前の催しに申し込むのは少々の勇気を要したが、それは私がなんの根拠もなく「支部」という言葉に怯んでいただけだったようだ。いざ申し込んでみたら淡々と順調に参加する段取りが進んでいった。そこから指導対局当日までは、ある程度期間があったので、ぴよ将棋を使って駒落ちの指し方を練習しておいた。
 そして指導対局当日を迎える。指定の時間に会場に着き受付を済ませると、その後は待合スペースで朝日杯の棋譜をチェックしたりぴよ将棋をいじったりして過ごしていた。やがて自分の番になった。

盤上

 手合は四枚落ちからさらに桂馬を1枚落とした五枚落ちでお願いした。ぴよ将棋では指し慣れた手合だったが、アプリのAIとプロ棋士とは勝手が違う。普段は9筋を破ったら、すぐにと金作りを目指すのだが、その日はなかなかと金を作れず困ったなと思いながら手を進めていた。龍と馬と成香ができていて、下手としては申し分ない序盤だったはずなのだが、そこからの方針がなかなか決められなかった。それでも一手一手、何かしら自分の考えに従って指していった。攻めの手がわからないタイミングでは居玉の解消に一手使い、成香はなんとか上手のカナ駒(金将か銀将かは忘れた)と交換できた。成香が消えたため盤上の攻め駒は龍と馬、持ち駒はカナ駒だがすぐには使い方がわからないという状況になった。
 「これはやはり、と金作りか。」そう考えて盤を見ると、"①歩を打っても二歩にならない ②馬の利きがある"の2条件満たすマス目が目に入った。だからそこに歩を打ったが、その瞬間に今度は「しまった」と思った。歩の裏から香車を打たれる手が…と思ったと同時に、その香車を上手に打たれてしまった。ある意味"読み筋通り"だったのだが、だからと言って余裕などない。香を打たれたのに歩で受けられないという事実に私は動揺していた。

感想戦

 その後も問題の歩打ちの後悔を引きずっていたが、それでも指導対局は無事に終了した。感想戦でまず私が言ったのは歩を打ったのを後悔したということなのだが、下手の手として特に問題なかったと言われほっとした。むしろそれなりの厳しさを持った手との評価をいただいて少し驚いた。その他にもポイントとなった局面や手順をいくつか教わり感想戦もお開きとなった。
 帰宅後は出来る範囲で、教わった内容をメモしておいた。時間が経っているのにもかかわらず、今こうして振り返ることができたのは当日のメモのおかげだろう。やはり記録は大切だ。

 そういえば冒頭で述べたマイナスの感情も、ここまで書いてきたら本当に気にならなくなってきた。楽しい記憶を記録に変換させておく。損のない手のように思う。

 

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