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勝利の女神:NIKKE 稗史:伏魔殿の道化師はヒト探し中(11)

諸君 私は戦争が好きだ
諸君 私は戦争が好きだ
諸君 私は戦争が大好きだ

殲滅戦が好きだ
電撃戦が好きだ
打撃戦が好きだ
防衛戦が好きだ
包囲戦が好きだ
突破戦が好きだ
退却戦が好きだ
掃討戦が好きだ
撤退戦が好きだ

平原で 街道で
塹壕で 草原で
凍土で 砂漠で
海上で 空中で
泥中で 湿原で
この地上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ

戦列をならべた砲兵の一斉発射が音と共に敵を吹き飛ばすのが好きだ
空中高く放り上げられた敵兵が効力射でばらばらになった時など心がおどる
戦車兵の操るティーゲルの88mm(アハトアハト)が敵戦車を撃破するのが好きだ
悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵をMGでなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった

銃剣先をそろえた歩兵の横隊が敵の戦列を蹂躙するのが好きだ
恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など感動すら覚える

敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などはもうたまらない
泣き叫ぶ捕虜達が私の振り下ろした手のとともに金切り声を上げるシュマイザーにばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ
哀れな抵抗者達(レジスタンス)が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを80cm列車砲(ドーラ)の4.8t榴爆弾が都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える

露助の機甲師団に滅茶苦茶にされるのが好きだ
必死に守るはずだった村々が蹂躙され女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ
英米の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ
英米攻撃機(ヤーボ)に追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ

諸君 私は戦争を 地獄の様な戦争を望んでいる
諸君 私に付き従う大隊戦友諸君
君達は一体何を望んでいる?

更なる戦争を望むか?
情け容赦のない糞の様な戦争を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様な闘争を望むか?
『戦争!(クリーク) 戦争!(クリーク) 戦争!(クリーク) 』
よろしい ならば戦争(クリーク)だ

我々は満身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする握り拳だ
だがこの暗い闇の底で半世紀もの間堪え続けてきた我々にただの戦争ではもはや足りない!!

大戦争を!!
一心不乱の大戦争を!!

我らはわずかに一個大隊 千人に満たぬ敗残兵に過ぎない
だが諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰しているならば我らは諸君と私で総力100万と1人の軍集団となる

我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう
連中に恐怖の味を思い出させてやる
連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる

天と地のはざまには奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる

一千人の吸血鬼の戦闘団(カンプグルッペ)で世界を燃やし尽くしてやる

そうだ あれが待ちに望んだ欧州の光だ
私は諸君らを約束通り連れて帰ったぞ
あの懐かしの戦場へ あの懐かしの戦争へ

『少佐殿!少佐!代行!代行殿!大隊指揮官殿!』

そしてゼーレーヴェはついに大洋を渡り丘へと登るミレニアム大隊各員に伝達 大隊長命令である
さぁ 諸君
地獄を創るぞ

『HELLSING』少佐の演説(OVA版)

※ この話を執筆するにあたり、「ニケの生産数を前回の百倍に増やす」旨の記述があるため、日産百体を一万にしてその三ヶ月分くらいで九十万と仮定しました。(今ある旧ボディは今次生産分と入れ替えて出撃していっている方が合理的と思われます。)
 またラプチャーはもっといそうですが三百万ほどに仮定して話を進めています。
 原作で明記された場合は変更しますがとりあえずこの数字でよろしくお願いします。


 エレベーターのドアが開くといきなりラプチャーが現れた。しかしそれを予測していたスカーらの部隊があっという間にラプチャーを蜂の巣にする。
「クリア」
「音に惹かれてくるやつも片付けてからにしろ」
 一方、エレベーター奥で控えているのはアイスブルーの瞳を持つ仮面のニケ・アタナトイである。彼女は自分からは死角に存在するあるモノを探していた。
「……繋がった。一体、五体、十三、二十八、六十七、百!」
 外でラプチャーと散発的な戦闘を行っていたスカー隊は、今まで倒れていた量産型ニケの亡骸が動き、起き上がるところに立ち会う事になる。
 訓練時にスペアボディの起動を散々見ていたので動揺はない。むしろ頼もしさすら覚えていた。
 ラプチャーの方はというと、不意の出来事に動きを止め始めた。奴らの習性で、突飛な行動をするニケには身構えるというものがある。倒して動かなくなったはずのモノが勝手に復活する異常事態もそれに該当し、その隙を突かれて次々と撃破されていく。
 起き上がり達は武器を拾い上げ、射撃を--
「射撃終了。敵は消滅した」
 スカーの号令を起き上がり経由で感じ取ったアタナトイも射撃をせずに待機に移行させた。

 砲煙混じりの薄曇りの空の下、地上は地獄絵図そのものであった。打ち捨てられたニケの遺体がそこら中に転がっており、数えるだけでも日が暮れそうなほどだ。
 ラプチャーの骸もまた、砲撃や銃撃でメチャクチャになったままだ。双方共に回収もされず放置されたところが、軍の混乱ぶりを明らかにしていた……

 スカーらは適当な深さの砲撃痕を見つけ出し、そこを仮司令部を形成し始めた。起き上がり達は続々と増えていき既に一千を超える勢いだ。それらはスカーらを囲んで防御陣を形成していた。
「こちらケイト隊、敵は居ないのでそのまま合流します」
 別地点のエレベーターから出たケイト達は戦闘することなく上がれたのは行幸であった。まずそちらから重要物資を上げさせよう。
「ケイト参りました! ご指示を!」
 早速の快速ぶりだ。ケイト達の部隊は道すがら転がっていたニケ達の遺体も担いできた。無論、事前の取り決め通りだ。
「先……  ケイト、ご苦労だった。まずこのエレベーター発着場を恒久的に確保しておきたい。周囲を塹壕で囲むぞ」
「了解」
 ケイト達は武器からシャベルに持ち替えて、周辺を掘り返し始めた。ここを最終防衛ラインにするのは確かだが、ここから動かないわけではないので、適当な距離を囲うだけで済むだろう。
「アタナトイ、準備が出来たぞ」
「ご苦労。スカー隊は少し休め」
「部隊を順次地上に上げていく」
 スカーはデコイを撒きつつ、敵の襲来に備える事にした。

 次に地上に上がってきた部隊長はヘッジホッグである。
「それじゃ工兵達を率いて前進しますか! 砲兵部隊は連絡あるまで待機……  いや、あそこの高射砲を引っ張って移動させようか」
 彼女達の部隊は非常にコンパクトにまとまっているので、他の前線指揮官より早く到着した。
 また、工兵の任務としても最優先で上げたい兵科なのもある。
 まず彼女達が不死の軍勢を引き連れて、仮想敵と戦うための主戦場やその道筋を整備していくのだ。

 今から数ヶ月前、ヘッジホッグら工兵部隊員は訓練がてら、エレベーター発着場からの地図作成を行っていた。発着場から北西部に山が存在している。これは天然の要塞に出来そうであるし、そこから周辺は拓けた平野が広がっている。
 街などもあるのだが既に廃墟と化しており、家屋やビルディングが疎らに存在するばかりなのでこれらは気にしなくて良いだろう。

 ヘッジホッグらは発着場から山までの中間地点に防御拠点を設営し始めた。
 この辺りに司令部を設置して、同時に山から横に塹壕を掘りながら前線拠点を構築していく。道路は戦闘でボロボロになっているので適宜舗装し直して物資輸送を楽にしなければならない。やる事は山ほどある。
 後方から、シャベルを持った首なしのニケ達が殺到してきた。
「おっ来たね。山の方の部隊に合流してひたすら掘ってきて!」
 アタナトイは情報を再入力して、ニケ達を移動させた。
「まずは簡単でいいんだ、一夜で形にしていくよ!」
 とある島国が生んだ大英雄、木下藤吉郎が出世の足がかりとした一夜城。ニケ達が総出で作り上げたそれは、ラプチャー達の妨害をもろともせずに完成した。

「そろそろ相手も本気でかかってくる頃合いだ。部隊の上がり具合は?」
「前線部隊は八割ほど上がりました。向こうも五割ほどだそうです」
 司令部参謀のディシプリンが報告する。
「また、スタルカーは伝令兼物資輸送係として往復を繰り返しています」
 ネメシス達もニケ達の骸集めに精を出していた。彼女達医療部隊は、量産型ニケの破損部位交換が主任務なので、量産型ニケのカラダそれ自体が物資に相当する。これはまた、アタナトイの不死の軍勢には再戦力化に繋がる。
 また、オーケアニデス所属のニケはイレギュラーに近い精神状態の者が少なくない。これはニケとしては治療に関して部位交換での精神的影響が少ないとも言える。
「今はそれでいい。ネメシス達は司令部移転までニケ回収を最優先だ」
「了解」

 最前線では既に千単位のラプチャーが襲来しつつあったが、デコイに散らされて今のところ各個撃破し続けている。
 山頂は既にネイトの部隊が陣取った。ラプチャーは緑地帯を好まないので、抵抗は入山時以外なく楽勝であった。
「あなた達は適当に交代で見張ってて。あとは私が全部始末するから」
 冷めた目で双眼鏡を覗きながら、ネイトは狙撃していく。小さいラプチャーばかりなので、部隊員の量産型サブマシンガンを持って引き金を引いていく。
 物理法則をほぼほぼ無視して、ラプチャー達は穴だらけになってくずれ落ちていく。
 彼女は見たものに対し引き金を引く事で直撃させる能力を持っている。
 しかも光学迷彩マントのニコルくん装備でまず隙がない。相手は一方的な攻撃に対して散開せざるを得なくなった格好だ。
 青髪のワンレングスを掻きあげながら、死神はひたすら敵を狩っていった。

「敵に大規模な動きアリ! 目視ですが兵力は十万を超える勢いです!」
 前線拠点設営組の悲鳴にも似た報告が司令部に届く。
「ネイトのところから報告は来たか?」
「いえ、まだです」
 ディシプリンが応じると、明らかに不機嫌そうな声色で彼女に指示した。
「お前の部隊員を数名入山させろ。あの馬鹿どもを督戦しなければならん!」
「す、直ぐに手配します!」
 確かに山を制圧しているので、そこから観測する方がより広く敵が見えるはずだ。ネイトのミスは明らかである。
 アタナトイは先ほどの部隊にも新しく命令を与えた。
「慌てず山に隠れてネイトらと合流せよ。山頂に着いたならばそのまま観測任務にあたれ。我が軍勢は防御拠点に引き返させる」
「了解」
 続けてアタナトイはヘッジホッグに通信を送る。
「そちらに増援を送る。それまでに砲兵で出来る限り数を削れ」
「りょーかい」
 アタナトイはスカーとケイトを呼び寄せ、簡単な作戦会議を行なった。
「敵は本格的な攻撃を前に威力偵察がてら大部隊を送り込んできた模様。彼我の戦力差では三十対一以上です」
「どちらか前線で戦う方がいいね」
「消耗が全くないケイトに先鋒を任せたい。やれるか?」
「勿論!」
「ではスカーは側面と後方を警戒してくれ。陽動の場合に備え、お前にシャロンとウコクをつける」
「了解だ」
 グッドタイミングでスタルカーが帰ってきた。
「スタルカー、ただいま戻りました」
「敵の攻勢だ」
「叩きつぶすんですね!? お任せください!」
「いや、それよりもティアマトらに進軍させるよう伝令を頼む」
 ガクッとするスタルカー。彼女は既に往復四十キロは走り続けている。彼の地はエブラ粒子の浄化シークエンスが遅れており、慢性的な通信障害が発生して古典的な伝令に頼るほかなかった。
「了解です」
「すまない、出鼻を挫けば少しは休めるだろう。敵は私とケイト・ディシプリンで対応する」
 作戦会議は終了し、各々進発の準備に取り掛かった。
「マチルダ、ここでの防衛を頼む。あと、特注のスナイパーライフルを準備させておいてくれ」
「了解。でも量産型ニケのプロダクト08に使わせるのかしら?」
「それでもいいのだが、これは猟兵として雇ったニケならびに亡くなった特化型ニケなどに持たせる。少し試したい陣形もあるのでな」
 アタナトイも現在掌握しているスペアボディや量産型ニケの遺体に力を注ぎ始める。
「蘇れ、勝利の女神達よ!」
 彼女の不死隊は、既に本家の定数一万人を遥かに超えた二万に達し、未だ増加中である。

 敵は作りかけの塹壕に引っかかりながらもしゃにむに突っ込んでくる。
 だが防御陣地前には、ヘッジホッグ謹製の竜の歯やチェコの針鼠が並べられ、移動を阻んでいた。
 その間に砲兵部隊による大規模な爆撃が敵陣中段から後方にかけて行われていく。特に後方用は、中央政府軍が持ち込んだ超大型砲台を失敬して榴弾を投射しているので威力は抜群!
 ロケットランチャーによる集団爆撃には、パックフロントによる集中砲火を実行する。
 この戦術は予め射撃ゾーンを分けておいて、いざ敵が現れた際に定められた場所の単一目標に全力攻撃をするのである。わかりやすいため練度の低い部隊でも、効果的に相手に痛撃を与えられるというわけだ。

 それでも突っ込んでくるラプチャーの大群。
 流石に敵が防御網突破に成功しそうな状況になり、ヘッジホッグ達もマシンガンを準備し始めた。
 そこに何十もの影が空中を舞う!
「お待たせ!」
 ケイトとその精鋭部隊が、不死のニケ達を引き連れてかっ飛んで来たのである。

「絶対に足を止めないで! 一撃離脱だよ!」
 ケイト達はふた手に別れて攻撃を開始した。すなわち、意思を持った側はケイトと共に敵にパルティアンショットを仕掛ける。遮蔽物に隠れながら戦う段ではないため、最高速で周りを走りながら敵陣を穴だらけにしていくのだ。
 ケイトは既にエンハンスド済みだが、銃剣を振るう時と同様に射撃時には弾丸そのものにも効果が反映される。その代償としてとにかく消耗が早い。撃てば撃つだけ集中が途切れやすくなるが、これはもう仕方ないと彼女の中では諦めがついている。この一発一発でどれだけ敵を粉砕し、味方を活かすことが出来るかのみを考えることにしていた。
 そしてもう一方、帯同していた不死のニケ達は、敵の間隙を縫うように突撃を開始した。
 勿論、先頭集団はラプチャーに蜂の巣にされていくが、がむしゃらに突っ込み四方八方に銃を乱射するので、次第にラプチャーの集団にはチラホラと綻びが出来始めていた。中には侵食しようと羽交締めにする個体もいたが、脳の有無に関わらず既に死んでいる身のものには無意味だ。そういう機体ほど容赦なく撃ち殺されていく。
 そして、ケイトやヘッジホッグ達の銃撃との挟み撃ちにあってどんどんと殲滅していくのである。

 数十分の死闘の末、アタナトイ達は漸く敵を防御陣地前障害物付近まで押し返した。小破は多少いるものの、犠牲はなし。不死の軍勢を幾許か消費した程度だ。障害物はラプチャーの死骸によって舗装され、強固さが増したかの様だ。
 また、砲撃の成果も着実に出ている。ロード級は、並のニケでも複数いれば撤退を視野に入れるレベルだが、もはや数えるほどでしかも手負いである。観測では巨大なタイラント級のハーベスターもいたが、大型高射砲の徹甲弾の一撃で粉砕されたと報告が上がる!
 ラプチャー達は障害物破壊を優先し始めたが、これはケイト達にとっては隙を晒しているのに等しい。機動力で側面に回り込んで射撃を繰り返すだけで相手はバタバタと破壊されていった。

「絶好の好機である! 一気に突き破って後方を遮断し包囲殲滅させてくれようぞ!」
「おおおおおおっ!」
 アタナトイの号令が飛ぶ!
 それに呼応して地鳴りの様な喊声とともに、オーケアニデスの部隊は不死者達と共にトドメの中央突破を図る!
 中段までのラプチャーの大群は、既に砲撃によって大分削られており、抵抗を受ける間もなく次々と撃ち滅ぼされていく。
 正面にタイラント級、ブラックスミスが現れた。
「巨大なラプチャーがニケの亡骸を掻き集めている模様」
 ディシプリンが、不死の軍隊の天敵であるブラックスミスの存在を認めた。コイツはニケの遺体を回収・分解してラプチャーの素材に改造する腹立たしいことこの上ないヤツだ。
「ネイトに支援狙撃させろ! 我々が彼奴を討ち取るので、他は突破に専念せよ!」
 アタナトイ、ディシプリン、ヘッジホッグと疾駆して急遽合流したケイトがブラックスミスと対峙した。

「アイツは触手攻撃とバリアが強力だよ!」
「まかせなさい!」
 ブラックスミスの触手攻撃は不死の軍勢の壊れかけのニケで受ける。バリアは弱点の属性があれば破れるが、今回はヘッジホッグの灼熱属性で貫通できた。敵はよろめき狼狽えている。
 ネイトがブラックスミスの強力な武器である対物ライフルを射抜いて爆発させた!
「全員で射撃だ、撃て!」
 コアに弾丸が集中してブラックスミスも青色吐息で黒い液体を吹き出しながら倒れ込んだが、背中の爆弾発射口が怪しい。
「砲撃、撃ち方はじめ!」
 ディシプリンの指揮部隊が背中を二度撃ちしていたら、最後の悪あがきである爆弾に直撃してブラックスミスは完全に破壊されたのだった。

 ブラックスミスの破壊により、義勇軍本隊はラプチャーの後方を取った!あとは無慈悲な包囲殲滅戦である。不死の軍勢を前衛に、ひたすらに敵を撃ち貫いていく!
 敵は十万ほどだという話であったが、思ったより容易く倒すことができた。これは大変な話ではあるが、不可能なことではない。
「さて、次はヘレティックでもやってくるかな?」
「アタナトイ…… 楽しいなのはわかるけど、そういうのほんとやめてね? しんどいから」
「ケイト、私はこのために新規武器を調達しているのだ。一度やり合ってみねばな」
「山頂の観測部隊より入電! 敵はさらに一万相当の部隊が移動を開始せり!」
「戦力の逐次投入だぞ? そんな用兵で大丈夫か?」
「普通にやってたら最初の十万で十分すぎると思うよ?」
 その時、ネイトがスナイパーライフルを撃ったと思しき音がここまで聞こえた。
「胸に直撃したはずが、ノーダメージ? マジか?!」
 この力を手にしてから、倒しきれないことはあっても無力化されたことはなかった。ネイトは驚愕の表情を浮かべているが、光学迷彩により誰にも見られていない。
「ネイト、何に当てた?」
 即座にアタナトイが通信を入れてきた。ネイトは震え声で答える。
「人型の敵」
「十中八九ヘレティックだな! お前は一時下山してついて来い」
 また、アタナトイは近くにいたニケに伝令を頼んだ。
「ネメシスを連れてこい! 敵陣に乗り込んで討ち取ってくれよう!」
「アタナトイ!? 敵が一騎打ちなんて受け付けるわけないでしょ!」
「不死の軍勢を突っ込ませて中から食い破るついでに倒してくる」
「そんな無駄遣いして大丈夫?」
「意外と保つな。向こうに遺された人数次第だがまだまだやれる」

 そんな遣り取りをしていると、虚空から足音だけが聞こえてきた。光学迷彩マントを外して姿を現したのは、ボディコンに身を包んだネイトである。
「先刻は報告を怠り済まない……」
 滅茶苦茶に説教されることを覚悟していた彼女だったが、アタナトイの興味は未知の脅威に移っていた。
「ネイト。新型ライフルを与えるゆえ、トドメ役を任せる」
 ネイトが受け取ったのは、ミシリス製の試作兵器であった。弾丸がまったく見当たらないが、エネルギーパックを見て納得した。
「なるほど。これなら穴ぐらい開けられるかもな」
「来たぞー! さあて、一丁やりましょうか!?」
 ピンク髪の巨大シスターニケというなんでもありなネメシスも到着。錫杖型の得物であるアンビヴァレンスを持ってきていた。
 ついでにヘッジホッグが特製の鉄甲を渡す。
「アンタが侵食食らったら元も子もないんだから、手袋くらいつけてやんな」
「ありがとうございます」
 準備が万端だ。アタナトイは後続部隊の指揮をケイトたちに委ね、不死の軍勢とともに出陣した。
「さあ、異端者を刈り殺しにいくとしようか」

 アタナトイが、先程とは違って大規模な砲撃などで削りを行わないのには訳がある。ヘレティックを刺激したくないのだ。
 ただでさえ並のニケでは相手にならない、悪魔の化身である。その脅威は自然災害と比されるほどだ。そんなものが大した行動も見せずに、軍団を突っ込ませにきているのだから、極力刺激せず一気に討ち取ることを考えた方が妥当なのである。

 敵の攻撃は緩慢であった。個体も弱兵ばかり、一気に中央突破することができた。
 軍勢に方陣を敷かせてオートで戦闘をさせると、三人は敵将に歩み寄った。
「何かの意図はあろうが、出来損ないか……」
 アタナトイの独語にネイトが不思議に思う。だが折角の光学迷彩をフイにするわけにもいかずモヤモヤしていた。そこにネメシスのボケ、もとい救いの手が。
「出来損ないってなんでしたかね?」
 アタナトイは昔盗み読んだ軍事機密を開陳する。公的には死人なので口外しても差し支えなかろう。
「エリシオンの研究所がラプチャーに襲撃された際の話だ。あの中で作られていたニケにラプチャーとの融合個体があってな。まぁほとんど死んでいたんだが、うち一体はヘレティックと化して人類に牙を剥いたのだ」
 もうすぐそこまで近づいてきているのに、敵は微動だにしない。アタナトイは続ける。
「そいつは置いといて、長い戦いの中で侵食されたニケの中にヘレティックになる途中の個体も混じってたという話だよ。それでも普通のニケより遥かに強靭なので弾除けにでもしてるんだろう。下手すると進化してさらに面倒になるしな」
「長台詞お疲れ様です」
 なるほどと納得したネイトであったが、周囲を見回すと少し違和感を覚えた。敵ラプチャーの形が少し違う気がする……
「何もしてこないわけではないようですよ?」
 ネメシスやアタナトイも気付くが、アタナトイは武器を取り出してウォーミングアップし始めた。おおかた勝手にパワーアップしていく能力か何かだろう。ほっておくとロード級やタイラント級のカーニバル状態だろう。
「ちょこざいな真似をする。まぁ見ていろ。コイツの出番だ」
 彼女の得物はトマホークではなく、鎖で繋がれた二振りの棒であった。

 重装甲の相手と戦う際、剣や槍はあまり効かないことが多い。ならばと原点回帰したのが鈍器である。
 硬い甲羅を持つ甲殻類でもその身は柔らかいのと同様、ヒトも鎧から下は脆い。衝撃で中身にダメージを与えられるよう鈍器も進化したのだ。
 それから幾星霜、機械のボディに人間の頭脳を搭載したニケが生み出された。そしてさらに硬く、再生能力も脅威的なヘレティックに進化していったが、肝心のおつむは未だ人間の時のままであった。
 このアキレス腱を、人類は無数の銃弾を再生能力以上に浴びせて破壊し切ることでしかヘレティックを打倒し得なかった。
 だが、アタナトイは異なる発想でこれに立ち向かうつもりである。果たしてゴリアテを倒したダビデの如きジャイアントキリングはなるか!?
「その姿、あまりに不憫……多少痛いだろうが許せよ!」
 アタナトイはヌンチャクというには若干デカい武器をもって相手の頭部に叩き込んだ!
「ンアーッ!?」
 名前も知れぬなり損ないも、流石に呻く。だが一見ダメージは見られない。アタナトイは、遠心力を帯びた棍を振るいまくる!
「イヤーッ!!」
「ンアーッ!!」
 長さをものともせず、ヌンチャクワーク開始!
 怒涛のラッシュを相手の頭部のみに集中させ打ち据えていく。
「イヤーッ!」「ンアーッ!」「イヤーッ!」「ンアーッ!」「イヤーッ!」「ンアーッ!」「イヤーッ!」「ンアーッ!」「イヤーッ!」「ンアーッ!」「イヤーッ!」「ンアーッ……」「イヤーッ!」「ンアーッ……」「イヤーッ!」「……」「イヤーッ!」「……」
 アタナトイが手を止めると、相手は膝をついて項垂れた。ここまでやっても鼻血が出ている程度だが……
「見ろ、やはり思ったとおりだ。中身を潰せば動きを止められる」
 彼女の狙いは、人間の脳そのものだったのだ。

 脳は硬い頭蓋骨に覆われているが、強力な力が加わると脳細胞にダメージが及ぶ。顎にアッパーカットなどをして脳を揺らすと脳震盪を起こすが、これは脳が揺れた際に頭蓋骨の内側にぶつかりまくることで脳が損傷するからである。

「ネメシス。ここでシスターパンチして正気に戻せるかやってみろ」
 出来損ないは目下のところナノマシンで脳の損傷部位を置換中だ。
「ここまで侵食が進んだ個体では無駄骨なんですが……ヌゥン!!」
 シスターパンチ! これでニケに戻せれば儲け物だ。
「オ、オネエ、クイーン……ああああああああ!」
 瞳を明滅させながら、かぶりをふる出来損ない。
「駄目そうか」
 溜め息混じりにアタナトイは手を振り下ろすと、ネイトはその意を忖度してライフルを構えた。そして、虚空より放たれた熱線は、出来損ないの頭部を完全に融解せしめた。

 出来損ないは倒れたものの、なおもナノマシンが脳を再生させようと試みていた。恐ろしいまでの執念と言うべきか。
「出来損ないが死に損ないになってどうする?」
 アタナトイは不死の軍勢の一部とともに、銃撃を叩き込む。既に顔面の八割は消失していたが、これでほとんど削り切ったのであった。
「ネメシス、頸部まで焼却してトドメをさせ」
「結局、これが目的だったのですね」
 聖女による火刑を経て、完全に動かなくなった出来損ないのボディは、アタナトイの新たな手駒と化した。
「まるで将棋だな」
 アタナトイたちを囲んでいたラプチャーの強化も停止し、またケイトらの攻勢も相俟って挟み撃ちの状況にあっさり敵軍は崩壊した。


「まさかあの出来損ないも一蹴するとはね。つまらない戦いもこれで張りが出ると言うものよ」
 ラプチャーの元締めであるヘレティックが、同じくエサとして飼っている出来損ないのナノマシンを、ワイングラスに注いで飲みほし嬉しそうに囁く。総数はなんと三百万を超えていたが、これが再び南下を開始した。
 地獄はまだ始まったばかりである。

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