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NIKKE研究各論(2) 痛いの痛いの飛んでいけ

 ミシリス社の特殊部隊・ワードレス所属のニケであるユニには、ユニークな特殊能力がある。手から光をバキューンと出す事で相手(人間やラプチャー含む)の特定の感覚を操作・無効にするなどコントロール出来るのだ。但し、ユニ自身は他人と直に触れ合う事(ムチで叩いた反応を見たり、手を握って体温を感じることに執着する等)以外では何の感覚も感じられない。なので、ユニは持っているムチでとにかく叩いて回るのである。

デデーン🎵アニス、アウトー!(ではない)アニスの反応が面白いからかユニもついつい叩いちゃう。嫌いと言いつつ体は正直だから最終的にはユニと「会話」出来るように…


 彼女にとってこれはノンバーバル(非言語)コミュニケーションなのだが、痛みを伴うので皆これを嫌う。ニケには痛覚センサーをON OFF出来る機能があるのでこれを OFFにすることもできるが、先述の能力で強制的にONに戻されるので厄介だ。
という事で、今回は痛みについて考える。そもそも人間らしくないじゃないのよ痛覚センサー。なんであるのに思考転換に繋がらないんだ!?

 だが、脳と痛みの関係を1から10まで説明すると、滅茶苦茶話が長くなる。具体的に言うと『新・脳の探検』下巻の100P〜115Pを読んでくださいと書く方が簡単だ、というレベル。なのでかいつまんで話す。
皮膚や筋肉などには痛み(または侵害)受容器というものがあり、ここに刺激が組織を侵害するほど強くなった時だけ応答する。主に物理刺激と、活動を引き起こす化学物質による化学刺激がある。化学物質としては例えばブラジキニン様のポリペプチドやセロトニン、ヒスタミン、プロスタグランジンなどである。最後のはまた今度言及するので覚えておいてほしい。
 これらの痛みの情報は2つの異なる神経回路で脳に伝わる。直接間脳の視床に伝わる速い回路と、伝導速度が異なる神経線維を色々経由して伝わる遅い回路があって、前者は警戒を促すため速攻で伝わり、後者は色んなところを通過するので鈍く不快な痛みが持続して伝わる。面白いことに(?)後者の場合、情動的な意味が大脳辺縁系と前脳前皮質から付け加えられる。なんでそんなこと判るんだ?という話だが、その部位を障害された場合、滅多に苦痛を感じなくなるからである。大事故で前頭葉を吹っ飛ばされた事で脳科学的に重要な情報を残すことになったフィニアス・ゲージは事故後苦痛を訴えることがめっきりなくなったし、悪名高いロボトミー手術の患者も同様であった。また理屈は不明だが、催眠状態でも痛みに対し苦ではないと報告することがあり、前頭葉機能のスイッチを消すようだ。これが痛覚センサーの OFF部分に関わるのかもしれない。


 子供が転んで大泣きした際、我々はよく患部をさすりながら「痛いの痛いの飛んでいけ!」と呪文を唱えるが、これにもキチンとした意味がある。太い線維である機械的受容器と、細い線維である痛覚受容器それぞれの信号が中枢に向かう途中で互いに干渉するのだ。太い線維側を刺激すると細い線維の痛覚が抑えられるというわけだ。このように持続性に痛む部分を機械的に刺激して痛覚を軽くすることを反対刺激という。腰が痛かったら無意識にさすってるのも多分コレだ。
 また、注意の集中や痛みの記憶、精神状態などが痛覚に影響を及ぼす。パブロフの犬の実験では、電気ショックという苦痛を受けたあとでエサを貰えるという条件づけを行うと、痛みの兆候を示さなくなるばかりかエサをもらえると唾液を分泌し出す。また、出産はひどい痛みが伴うと言われ続けると、女性は却ってひどく痛がるようになるのに、別の文化ではそういうことを全く言わないため、出産もスムーズに行われたり…と言った塩梅である。
 よく戦争映画とかで鎮痛剤でモルヒネを投与するシーンを見ないだろうか。麻酔薬はどのように痛みを感じなくさせるのだろうか?

人間とほぼ同じ肉体なはずなので、そんなもの内蔵するスペース何処にあるんだ?と疑問に思う応急キット。車の座席裏みたいな感じで乳かケツにあるのか?


 痛みを伝達する重要な中継地点に、脊髄の後角という部分がある。痛み信号はインパルスとなり遅い回路を通って脊髄を上行するが、この時サブスタンスPという、痛みを伝える神経伝達物質が出てきて脳に痛みを伝える。しかしながら、後角には天然のアヘン様物質であるエンドルフィンを神経伝達物質として持つニューロンもあり、これが放出されるとサブスタンスPを受け取るニューロンが結果的に減るので痛みが少なくなる。エンドルフィンにせよ、モルヒネにせよ、サブスタンスPの生成や受け取りを邪魔して痛みを軽減しているというわけである。痛み信号のON OFFの切り替えは、おそらくエンドルフィンの化学反応過程であることがわかっている。
 これまでの話から、都合のいい情報だけを繋げて想像すると、痛覚センサーを OFFにすると、前頭葉あたりのスイッチがOFFになると同時に、瞬間的にエンドルフィンがドバドバ出ることで痛み信号の進行が速攻でストップされる。ついでにNIMPHが「これは痛くないよ?」と暗示をかける。これならどうだろうか?
 ここでケーススタディーである。実際物凄いダメージを受けているシーンを抽出してどんな反応をしているか見てみよう。
 ウンファの新人ニケ訓練の一幕で、ロード級ラプチャーの乱入により腕部に大ダメージを負うシーンがある。他にも皆大なり小なり手足にダメージがあるようで、訓練終了後に取り替えてこいとのアドバイスが出てくる。

腕もげキタ!?サイボーグのニケなら、中途半端な腕なら引きちぎって鈍器にしろ!(08小隊並感)


 通常、腕など四肢の欠損は激しい痛みと出血から致命的なダメージになりうる。一方ニケは、体液の喪失によるダメージの具合はイマイチわからない。水分がなくなるくらいいつも汗をかいているフォルクヴァンがいるし。だが、腕がーと喚くのはあってもその後の展開でも全く戦闘できないほどではないように思われる。動けなくなるほどならウンファなら見捨てるよう言い含める筈だ。実際その前のエピソードでぼーっとしている味方を助ける動きをしたニケを(不要な動きをして他の仲間や自身の身まで危険に晒したことになると)叱っている。脳が瞬時に痛覚センサーを切っていると考えた方が自然なのではなかろうか?

ちなみに、ニケの肌はガッデシアムと呼ばれる新素材で構成されている。それでもニヒリスターの猛火によって火傷まみれに!作画の関係上、皮がベロンベロンなところは見えないのでごあんしんください。


痛覚センサーで痛みを引き下げている段階なので、人間での火傷の分類だとⅡ度熱傷の浅い部位に当たるか?


 痛覚センサーと言っても、サイボーグ009の加速装置みたいに大袈裟なものなのではなく、脳が人間の頃から持っている機能を機械でひっそりと、だが超強力に発揮させているのだと考えれば、それはそれで自然なのかもしれない。正に、痛いの痛いの飛んでいけシステムなのだ!

なお、ユニの前には無力な模様。

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