見出し画像

勝利の女神:NIKKE 稗史:伏魔殿の道化師はヒト探し中  外伝 名前

註 こちらはこの作品の感想を、小説の体で書いたものになります。時代としては最初期にあたる為、後世に伝わったものを見聞きしている感じになります。予めご了承ください。


「お芝居は如何でしたか?」
 芝居をよく見る道化師の姿のニケ・スタルカーは、今回の同伴者であるアタナトイに問うた。
「非常に面白かった。だが恋愛劇か……思えばそういったものとは無縁の人生だった」
 アタナトイは故あって仮面で顔を隠し、衣服も黒いローブにて覆っているニケである。そして……
「ある指揮官が、量産型のニケに昔の思いびとの名前を付けていて、それが発覚して不満を覚えるというのは実際あるものなのか?」
「私も恋愛とかした事ないんですけど、やっぱり裏切られた!? って思うんじゃないですかね?」
「ネイトやネメシスあたりを連れてくればよかったな」
「ふたりとも都合がつかなかったのが惜しいですね」
 ネイトは割と異性との交遊が多いので参考意見が具体的かもしれない。
 まぁ、ネメシスの場合は侵食されたニケを「妹」にする記憶の上書きを行って洗脳してハーレム作っているようなシスターのニケなので、参考になるかは甚だ疑問ではある。
「代用品……ううむ」
 スタルカーが悩む、言葉が悪いと。
 量産型ニケには記憶があまり残っていない。名前を覚えているケースもあるが、大体はまっさらなものだ。
 そこから命名されている時点で既に彼女達は特別な存在なはずだ。
 気分を変えるべくキャラメル味のキャンディを口に入れて玩弄すると、特別幸せな気分になった。
「けれども、名前が大事という点には賛成だ。私も一度名前を捨てた身だが、以前の名を忘れる事は無いだろう」
 アタナトイとは、アケメネス朝ペルシャ帝国の最精鋭部隊の名であり、不死隊の意味がある。彼女の異能を端的に示したコードネームだが、彼女はその能力の発現と引き換えに社会的に死んでいる。
「私も元々のコードネームが嫌で本名呼びを頼んだり、最終的に改名したのでわかります」
「おや? そうであったのか。卿に真のコードネームというものがあったとはな」
「しまった!」
 スタルカーは藪蛇だったと、安易な同意に少し後悔した。キャンディは既に噛み砕いていてちっとも幸せじゃない。
「みんなにはナイショですよ?」
 布越しから耳打ちされた名前の意味を調べたら、アタナトイは以前ネメシスが言ったことを漸く理解できた。
(「死の匂いがする……」、言い得て妙なり)

「名は体を表す」というのは言霊、一種の言語信仰に過ぎないという者もいるだろう。だが、特に特化型ニケは名前と能力が噛み合っている場合もままある。
 ニケに想い人の名前をつけるというのは並々ならぬことなのだ。姿も性格も違うはずのニケに直観で名付けられたそれが、ただの男の女々しさに依るものとは考えにくい。
 それに彼女もまたその名前に相応しい高潔な精神を持っていたのですんなりと受け入れられたのだろう。

 このお話は、指揮官とニケとのある意味許されざる恋愛を描いている。ニケの権利が悪化していくにつれ、このお話も一時的な変化を余儀なくされた。具体的には一時期の忠臣蔵のように登場人物の名前を変えたりなどだ。『九郎指揮官と零の悲恋』みたいな感じ。
 しかし、男女の恋物語という普遍的な価値は消しきることは出来ず、一世紀を経ても根強く語り継がれたのであった。

 ドラマ好きのニケであるシグナルは、今週放送分の視聴を終えて胸をドキドキさせながらときめいていた。
「私もいつかクロード指揮官とレイさんみたいに、指揮官と素敵な恋がしてみたいなぁ♡」

(了)

葬ってもよい余計なオマケ

註 同人誌の内容に解像度低めでうちのを混ぜてしまいました。お許しくださいあられ先生!?

 スタルカーとアタナトイは芝居の時系列の件を話していたら、いらないことを思いついてしまった。
「そういえばアス……アタナトイさんってその時代からいたんじゃないです?」
「若干ズレると思うがそうかもしれん。ケイト先輩は元々の国の士官学校で卒業繰り上げで即指揮官になったそうだ。ウェストポイントだったな」
「じゃ、もしかしたらモデルの指揮官に会ってるかもですね!」
「卿はどうなのだ?」
「第一次地上奪還戦前後からしかよく覚えてないんですよね」
「その歳で健忘とは大変かもしれんな」

 そういうわけでケイト先生のところへふたりは行ってみた。
 ケイトは飲んでいたカフェオレを啜りながら記憶を辿ってみた。
「えーっ? 人間時代や従軍時代にニケに名前つけてる男性指揮官見なかったって? うーんどうだったっけなぁ?」
「そんな奇特なことをする指揮官なら私、絶対忘れないと思うんですよ!」
「財団内ではスカーやティアマトも会っている可能性があるが、あのふたりは絶対プライベートな件を喋らないだろうからな」
「うーん…………いたような気がするなぁ。こんな感じで記憶に残っていたよ」
 ケイトは橙色のショートな髪の毛を弄りながら思い出話を語った。アホ毛が電波を受信しているかのようにぴょこぴょこ動いていた。

「あれは私が作戦を終えて帰還する途上だったかな。別のラプチャーの一群と戦闘していたと思われる男性指揮官と量産型ニケ部隊がいたんだ」
「ほうほう」
「男性指揮官はひとりの斃れたニケの前で立ち尽くして涙していたんだ。拳銃を持っていたし、ニケの額のは穴が空いていたから思考転換か侵食かで介錯したんだなって」
「介錯って」
「私が「この子のために泣いてあげてるんだね」って声をかけると「ハンナ……」って言ってた気がするよ」
「彼女二人目ですかね!?」
「茶化すな」
「量産型でも貴重だから野晒しにしてはおけないのだけど、向こうはそういう判断を下すどころではなさそうだったから、うちの子たちで遺体の顔を整えたりした後、バッグに入れて持ち帰らせたかな」
「……」
「私も指揮してる子が戦死したりするとスッゴイ凹んだよ。もっと上手くやれれば、私がニケだったらすっ飛んで行って死なずに済んだだろうにって。どんな偉くて強い指揮官でもこればかりは避けようがない、宿痾みたいなものだね」
「同感だ」
「だから私はアーク到着後にニケになったんだ。自分で武器を持って出ていってラプチャーと戦えるようにってね。銃剣付きだよ?」
「鬼に金棒ですね!」
「彼はまだ生きているかなぁ? もう四十年くらい経ってるからもうおじいさんかな」
「名前を確認したが軍高官に該当者はいなかったな」
「でも舞台の脚本だから偽名なんじゃないです?」
「そっちの方がロマンがあっていいよ」
 適当に点けていたテレビからは、副司令官が量産型ニケ生産を百倍に増大させることを記者会見で伝えていた。
 新たな地上奪還戦が刻々と近づいていた……

(完)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?